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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
序章 始まりは虐殺から

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第五話 悲劇の始まり

興味を持って下さりありがとうございます

「なんだ? 村の方が騒がしい。何かあったのか?」


 思うが早いか、ハンスは駆けだしていた。目を凝らすと遠目に見ても、マナが嫌な感じに騒いでいるのが分かる。ハンスは不安を煽られ、ひたすら走った。


 近づくにつれ、マナの流れだけではなく、景色にも穏やかではないものが現れ始めた。


「村の方から黒い煙が上がってる!」


 何かあったのは間違いない。しかも、あまり有難くないことだ。ハンスは一層ペースを上げて走り始めた。


 小一時間ほどで、村に戻った時、ハンスの目の前に広がっていたのは、炎上した家々だった。予想外の光景に呆然としていると、兵士らしき格好をした男がハンスに近づいてくる。


「まだ、生き残りがいたか」


 イキノコリ


 兵士が口にしたその言葉が、ハンスには理解できなかった。ただ、彼の目には兵士の左手に握られた松明だけが映った。


「お前が村を焼いたのか」


 ハンスから押し殺した低い声が漏れる。それに込められた怒気に兵士は気づくことなく、腰に差していたナイフを右手に握った。


「バカか。俺が焼いたのは一軒だけだ。救世主を村ごと消すんだ。一人で来るわけがないだろ!」


 ハンスが怒りに任せて兵士に掴みかかろうとしたその時、兵士は突然、地面に倒れ込んだ。


 いや、違う。矢のように飛んできた何かに倒されたのだ。その何かは透明だが、光の加減で微かに見える輪郭は鹿のように見える。ハンスはこの生き物を知っていた。


「水の精霊、【水角獣ノトス】!」

「ハンス!」


 近くの茂みから姉の手が現れ、確認するようにハンスを一瞬抱きしめる。しかし、すぐに体を離すと、ハンスの手を引いて、森の奥へと走りだした。


 暫くして目に入ったのは、村の外れにある水車小屋。そこに村人達が集まっていた。


 集まっている村人は半数弱というところだ。しかも、寝かされているものも多い。立っているものもいるにはいたが、何かしらの傷を負っている。


「村長、ハンスを見つけました!」

「おお、でかした、リンダ!」


 痛々しい村長の姿を見て、ハンスは顔を歪めた。しかし、村長は、そんなハンスの表情には目もくれなかった。


「ハンス、奴ら、“救世主を迎えに来た”などいって村に入ると、急に皆を襲いだしたんじゃ。お主、聖霊様から何か聞いておらぬか」

 

「いや、何も…」


 縋りつくように迫る村長にそういうと、村長の笑顔は一瞬で崩れ落ちた。代わりに現れたのは、悲嘆と嗚咽。村長は膝をつき、涙を流して天を仰いだ。


「一体我らが何をしたと? 何故こんな目に。ああ、皆殺しだ。奴ら、我らを一人も逃さぬつもりだ」


「村長、しっかりして下さい! とにかく、逃げないと。今は私もハンスも居ますから」


 リンダは心が折れかかっている村長に駆けより、励ましたが、あまり効果はないようだった。


 しかし、他の村人にはリンダの言葉は乾いた砂に染み入る水のように浸透した。理不尽な仕打ちに呆然としていた彼らは今、すがるべきものを見つけたのだ。


「おお、ハンス、助けてくれ」


「夫がまだ来ないの。あの人に何かがあったら、私、私!」


 自分を囲む村人達に何と声をかけてたら良いのか分からず、ハンスが途方に暮れていると、リンダが彼の元へ戻り、村人達を押さえにかかった。


「私とハンスでこの先のことを考えます。まずは、移動に備えて休んで下さい。次動くときは、恐らく長時間歩いてもらわなくては行けないでしょうから」


 村人達は食い下がるが、彼らも怪我人だ。そう時間が立たないうちにその場に残るのは、ハンスとリンダだけになった。


「ハンスのせいじゃないから」


 村長と彼を支えてその場を離れる妻を視線で追うハンスを見ながら、リンダは言った。


「どんな理由があっても、襲ってきたのはアイツら。だから、悪いのはあっちよ」


「でも、アイツらは俺を探している」


「皆はそのことは知らない」


 リンダはハンスの言葉を遮るようにそう言った。


(もし、これが俺のせいだと知ったら、皆は俺のことを責めるだろうな)


 思わず、ハンスはそんなことを考える。村が焼かれている理由が、皆に知られていなくて良かったと思う反面、彼はそんな自分を卑怯だとも感じていた。


「今はここを切り抜けるのが先よ」


 リンダは、黙り込んだハンスの葛藤を察するようにそう言った。水車小屋がみつかるのも時間の問題だ。今は、生き残った村人達とどう逃げるのかを考えねばならない。ここから逃れられなければ、真実を告げるかどうかを悩むことさえ出来ないのだ。

 

「そうだね、姉さん」


 目下の問題を棚上げできることに安堵と罪悪感を感じながら、ハンスはそう言った。リンダはそんなハンスの心中を見通したように、そっと彼の頭を撫でた。


「先ずは土の精霊の力でバリケードを作って時間稼ぎね。それから怪我人を大樹の元に運んでいきましょう」


 リンダがそう言った時、突然、村の中心の方向から光が広がった。光は全てを焼き尽くすような熱と共にハンス達にも襲いかかる。その暴力的な力の前に、ハンスは目を閉じることしかできなかった。

読んで頂きありがとうございました。次話は試しに11時頃に更新します

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