第四十七話 誠意とは
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「ごめん、急に変なことを言って。俺もヨルクの案には賛成だ。帝国とは戦わなきゃいけないのは確かだし、その時に味方がいるなら、それに越したことはないな」
「だな。とりあえず、セリムが渡りをつけてくれるらしいから、それまでは待機だな。俺はとりあえずのんびりするつもりだけど、ハンスはどうするんだ?」
「俺はセリムさんからこの国の話を聞きたいな。もちろん、セリムさんの都合がよければだけど」
後半部分はセリムの方をうかがいながらだ。しかし、ハンスの懸念とは裏腹にセリムからの返事は非常に好意的なものだった。
「私は構いませんよ。私もあなたの旅の話が聞きたいですし」
「ありがとうございます」
「じゃあ、私も」
「せっかくですから、茶菓子でも運ばせましょう」
そう言いながら、呼び鈴を鳴らす三人を背にヨルクは部屋を後にする。屋敷の外へと向かう足取りは一見非常に軽やかだったが、心中は軽いどころか、バラバラだ。ヨルクは自分が何をすべきなのか、そして何を望んでいるのかさえ分からなくなっていた。
(俺はどうしたらいいんだ?)
屋敷を出て、立ち尽くす。すると、まるで測ったかのように、【通念】が届いた。
“君がヨルクか”
ヨルクは怪しまれないように近くの木陰に移動し、くちもとを隠しながら、声を潜めた。
「今は立て込んでる。後にしてくれ」
“ノイズが酷いな。動揺しているのか?”
「誰のせいだよ。派手なことしやがって」
“それを知っているということは神聖エージェス教国内にいるのかな? あ、いや切らないでくれ。今、君から居場所を聞く気はないんだ”
最後の言葉にヨルクの手が止まる。定時報告の度にしつこく居場所を聞いていたくせに何かがおかしい。
“私と君とは初対面だ。だから、今日は私の自己紹介と詫びを聞いてくれればいい”
「自己紹介と詫びだと?」
今までと毛色の違う応対にヨルクは警戒する。【通念】は心の一部を繋ぐ魔法なので、それは相手にも伝わったはずだ。しかし、向こうはそのことを気にした素振りを見せずに話を続けた。
「まず、私は勇者の一人、ロビンだ」
“!!!”
「だから、君の動揺は私にも責任がある。だが、詫びたいのはそれじゃなく、前任者達の誠意のなさだ」
“……”
「君とはビジネスパ──っと、君と私とはお互いに必要なものを交換し合うという意味で対等な関係だ。前任者達との会話は、履歴で見せてもらったが、彼らはそのことを忘れている。私は君とはお互いに得が出来る関係になりたいと思っているんだ」
その言葉はヨルクの心を動かした。それは、ヨルクが常に感じていた不安を取り払うものだったからだ。しかし、ロビンの話はこれで終わらなかった。
“勿論、口でこんなことを言って信じて貰えるとは思わない。だから、私は自分の秘密を君に明かそう”
「秘密だと?」
“ああ。私の固有技能を君に教える”
「!!!」
魔法でも武器でもそうだが、自分の情報をばらすというのはリスクを伴う行為だ。それが、固有技能ともなれば、リスクは格段に跳ね上がる。何故なら、固有技能はどれも切り札とも言うべき力があるからだ。
つばを飲み込むヨルクとは対照的に、ロビンは今日の天気を話すような気安い調子で、自身の秘密を語った。
“私の固有技能は《オデッセイ》。物語に記された力を引用し、使用することができる力だ。私は神聖エージェス教の教典を読破し、それを引用することで、神聖エージェス教の神聖魔法を使う振りをしているんだ”
「何だと!」
“神聖魔法の下りは蛇足だったな。しかし、私に色々なことが出来る力があることは分かってもらえると思う”
「………」
“ところで、君が求める『反魂の笛』は生者の命を代償として死者を甦られる魔道具だな。つまり、自分の命と引き替えに大切な人を蘇らせたいというのが君の願いだろう。だが、私なら君にもっと魅力的な提案が出来るな”
「あんた、何を……」
ヨルクは知らず知らずの内に膝が震えるのを感じた。いつも考えていた願い。だが、それは決して叶わない願い。まさか、それが口にされるのではないかという期待と、それが間違いではないかという不安が体と心を駆けめぐる。
“死者が蘇る物語というのは、この世界にはないのか? 私の世界には色々あったぞ。竜玉という玉を集めて願いを叶えてもいいし、呪文を使って一瞬で成し遂げてもいい。無論、キミは生きたままだ”
「まさか、本当にそんなことが」
“まあ、それもこれも君次第だ。また連絡する”
ロビンはそういうと【通念】を切った。後に残されたヨルクは顔を伏せたまま、ロビンの言葉をただ反芻していた。
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