第四十五話 らしくない二人
興味を持って頂きありがとうございます! 今回は短めです。第四十四話とくっつけると長いんですが、切るとこうなります……
「おい、本当にどうしたんだよ」
「いや、何でもないんだ」
「……」
何も言おうとしないクロエにヨルクに無言で圧力をかけ、語るように促す。弱った彼女はその視線に耐えきれず、言葉をこぼした。
「昔、私はミリオンメサイアで現れた勇者の一人、オルヴァリエからダーリンを守り切れず、死なせてしまった。それでも、私が今まで生きてきたのは、ダーリンが新たな救世主に出会う未来が見えたからだ」
「未来だと、そうか」
謎だったクロエの固有技能が分かり、納得するヨルク。しかし、彼女の話はここからが本題だった。
「だが、さっき、ロビンという名を聞いた時、また未来が見えた」
「何っ!」
「遠くない未来でハンスはロビンと戦う。そして、ハンスは……」
その時、ドアをノックしてセリムが姿を見せた。うつむくクロエと戸惑うヨルクを目の当たりにした彼は何が起こったのかを概ね察したらしく、クロエに近づくと、優しくささやいた。
「クロエ、大丈夫ですよ。私がついています」
「……っ!」
反射的に顔を上げたクロエに彼は何度も頷く。
「大丈夫、大丈夫です。さあ、私に話して下さい」
少し甘ったるい雰囲気にヨルクはやや辟易しながらも、内心セリムに関心していた。
(気分を落ち着かせて、見た未来について話をさせるつもりか)
恐らくセリムはクロエとの付き合いが長く、彼女の扱いに熟知しているのだろう。
……と思いきや、次の瞬間、セリムの口からとんでもない言葉が飛び出した!
「無理やり唇を奪われたんですか? それともまさか、いえ、大丈夫ですよ、私は気にしません。彼に報復してこの件は忘れましょう!」
「違うわっ! 何故そうなる! 《未来予想図》だよ。クロエにはロビンの未来が見えたんだ!」
「む、《未来予想図》による未来視? それは失礼」
まる不動明王のような殺気を出していたセリムの雰囲気が、柔和なものに戻る。彼は、どっと疲れた表情を見せるヨルクには構わず、クロエに声をかけ始めた。
「大丈夫だ、セリム。ありがとう。ただ、見えたものについては少し落ち着いてから話すよ。私も整理しきれていないんだ」
「それは構いませんが、少し別室で休んだ方が良いですよ。今、案内しますから」
「大丈夫だ。そろそろハンス達が来る時間だしな」
なおもクロエの体調を気遣うセリムだったが、彼女は頑として聞き入れない。仕方なく、彼はその場に座り、二人と今度の方針について話し合い始めた。
「一応確認なんだが、あんたも神聖エージェス教国がロビンに乗っとられるのは困るってことで良いんだよな?」
「もちろんです。しかし、ヨルク殿は意外に義理堅い方ですな。どんな事情があるのかは分かりませんが、こんな状況なら逃げ出す方が賢いでしょうに」
顔色一つ変えずにこちらの腹を探ってくるセリムに、内心“見た目と違って食えない奴だ”と思いながら、ヨルクはふと今の自分の言動に疑問に思った。
(あれ、何で俺はこんなにムキになってるんだ?)
そもそも、帝国のスパイであるヨルクにとって、この状況は決して悪いものではない。上手くやれば、チャンスにできる可能性さえある。にも関わらず、こんなに必死になってハンスを守ろうとしているのは理屈に合わない。
(いや、違う。ハンスのためじゃない)
ヨルクは即座に自分の考えを否定する。自分が執着しているのは、ハンスではない。
(あいつ、レオルと同じことを! いや、だが、それは……)
最愛の人と同じ言葉を自分にかけた。たったそれだけのことで、ヨルクはルツカのことが気になっていることに今更ながらに気づいた。
(俺は帝国に協力してアレを手に入れる。だが、そのためには、ルツカもハンスも帝国に引き渡さなけりゃいけない。俺は本当にそれでいいのか)
初めて気づいた想いを持て余しつつも、彼の言葉は自身の心と切り離されているかのように澱まない。
「ポリシーだよ。賭けっていうのは最後まで分からない。途中で降りるのは半端もんのすることだ」
「ポリシーですか。確かにあなたのように腕一本で生き抜く方には筋を通すことが大切なのかもしれませんね」
セリムはそういって柔和な笑みを浮かべたが、それに騙されるヨルクではない。握手をしつつも、相手の腹を探っていた時、部屋の扉がノックされた。
読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!




