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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第一章 復讐者ハンス

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第二十九話 目的地

興味を持って頂きありがとうございます!


いよいよ第一章も終わりが見えて来ました!

「な、なに!?」


 精霊を破壊したのはどこからともなく飛んできた魔法だ。すぐに十二体に戻った精霊達に白い光が、蒼い風が、黒い雷が襲いかかった。攻撃を受け、再び臨戦態勢をとった精霊達の遥か前方から地響きと共に何かがこちらに向かって来ているらしい。


 逞しい軍馬に跨がる板金鎧プレートメイルの戦士の鎧は全て同じ意匠。何より目立つのは左肩についた翼の飾り。つまり、彼らは……


「勇者なの!? しかもあんなに!」


 彼らが向かおうとしていた先からやってくる騎馬の数はどう見ても百は下らない。しかも、新たな騎馬が続々と現れているようだ。


「あいつ、まだ生きてやがるのか? だが、あの数は何だ?」


 いつの間にか、ルツカとハンスの傍に来たヨルクが叫ぶ。すると、その声をかき消すように見たこともない魔法が彼らに降り注ぐ。


 思わず、身を庇うヨルクとルツカだったが、その攻撃は全てに精霊達が受ける。精霊達は一瞬で再生し、自分達が受けた攻撃を真似て打ち返す。だが、いかにせん多勢に無勢だ。


「違う。この攻撃はきっとあいつが言っていた固有技能ユニークスキルの力。今来てるのはさっきとは別の勇者よ!」


「勇者ってあんなにいるのかよ! 聞いてないぞ!」


 悲鳴を上げたいのはルツカも同じだ。ヨルクと一緒に動けないハンスを抱えて逃げるしかないが、逃げ場がない。


(森まで戻れば……いや、馬を下りれば勇者も森に入れる。それに人数が違いすぎるから、すぐに捕まってしまう)


 逃げ場を考えてもすぐに壁にぶつかる袋小路。これはつまり、どうしようもないのだと認めざるを得ない。せめてハンスだけでもこの場から離せないかとルツカが考えたその時、二人の脳裏に声が響いた。


“君たちを待っていた!”


 一体誰なのかと尋ねる間もなく、声が頭に響く。


“分かっている。私がヨルクを遣わした預言者だ”


 まるで思考を読まれたかのような気持ちになるルツカだったが、声の主は否定した。


“違う。思考を読んでいるわけじゃない。それよりも、急いでそこから避難するんだ”


 どうやって? とルツカが考えると同時に先程と同じように声が響く。


“分かってる。私の言うとおりにするんだ”


 声の主からの指示が終わった後、ルツカはヨルクの顔を見る。ヨルクは一つ頷くと足元に右手をついた。他に打てる手はなく、やらなくてはただ死ぬだけ。


 指示通りにすると、地面が淡く光を放つ。その光りは、おそらく事前に書かれたであろう文字を浮かび上がらせた。


魔法言語ミルグラムで書かれた魔方じっ!」


 魔方陣が力を発揮しすると、ルツカ達の足元にあった土が消え、彼女達は代わりに現れた大穴に飲み込まれた。


 落ちているルツカ達は見ることは出来なかったが、最前列にいた勇者達の足元にも大きなぬかるみが現れ、彼らの馬を飲み込み、転倒させる。そして、転倒した勇者は後続する勇者を転倒させる障害物となった。


 ルツカ達を飲み込んだ穴はすぐに塞がり、彼らは闇の中をひたすら落ちる。光がないため底は見えないが、相当な深さなのは間違いない。


 主観的には数分間落ちたようにも思えた落下を終えると、三人は空気を含んでまるでクッションのように柔らかくなった土の上に着地した。ルツカは服についた土を気にすることなく、ずっと抱きしめていたハンスの様子をうかがう。いつの間にか意識を失っているが、恐らく疲労と失血が原因だろう。


(傷の様子も気になるけどまずは圧迫してみるしか)


 ルツカはとりあえず自分の服を裂いた布で傷口を圧迫し始めた。低くうめき声を上げるハンスを気の毒に思いながらもルツカの手は止まらない。


 一通り作業が終わった頃にはヨルクも意識を取り戻し、二人の傍にやってきた。


「ハンスは大丈夫か?」

「多分。でも、早く傷を手当てしないと」


 ルツカがそういうと、ヨルクはハンスを肩に背負い、ルツカはクッション状の土を下りて様子をうかがった。土の中なので、当然暗いのだが、迷宮によく生えているヒカリゴケが彼方此方にあるおかげである程度は周りの様子が分かる。


(右手の方に奧へ続くトンネルがある!)


 ルツカはヨルクにそのことを告げ、転ばないようにゆっくり歩く。トンネルに入って暫くすると、明かりが見えた。それと同時に頭に声が響く。


“私はその先で待っている。早くハンスの治療をしたいから急いでくれ”


 そうは言われても足場はいいとは言えないのだ。出来る限り急ぎながら、ルツカはヨルクに声をかけた。


「ねえ、預言者ってどんな人?」


「俺もよくは知らん。顔も見たことがないからな。だが、こうやって頭に声を届かせることができるのと、さっきみたいに俺達の思考を先読みしたような会話をする奴だ」


「そうなんだ」


 二人のゆっくりとした足音が規則正しくトンネルに響く。それが暫く鳴り響いた後、ルツカは再び口を開いた。


「ヨルクは預言者のこと、信用してるの?」


 ヨルクは、ルツカの問いを“らしくない”と感じた。彼の知る限り、ルツカという少女は人を自分で判断し、行動する人間だったからだ。


(だが、まあ、この局面で人にすがるなってのも無理があるな)


 ヨルクは、年相応、いや、当たり前とも言えるルツカの弱音についついほだされた。彼自身、色々な衝撃に打ちのめされていたということもあったが。


「分からん。だが、今まで預言者の言っていたことは全て正しかった。だから、これからも正しい可能性はあると思う」


「可能性、か」


 ルツカがそう呟いた時、ようやくトンネルに終わりが見えた。トンネルの先には光が満ちた広い空間が見える。そして、その中には人影が一つ見えた。あれが預言者だろうか。


“分かっている。私のことを怪しむのは最もだ。だが、今は時間ががない”


 その点についてはルツカも同意見だ。ハンスをこのままにはしておけない。ならば、そこがなんだろうと飛び込むしかないのだ。

 

 ルツカは意を決してトンネルの先に飛び込んだ。


 まず目に入ったのは光。ここは地下だから、何かの魔道具なのだろう。そして、その光を背負うように美しい女性が一人、彼らを待ち受けている。


「さあ、早く、ハンスをこちらへ」


 その声はルツカ達の鼓膜を震わせ、意思を伝えたが、受ける印象は今まで頭に響いてきたものと同じだ。


「あなたが預言者?」


 そう問うルツカに、女性はしっかりと頷いた。だから、ルツカとヨルクは気づかなかったのだ。やっと現れた預言者に注意を引かれて気づけなかった。


 壁の周囲に無造作に置かれたもの中に、古びた板金鎧プレートメイルがあったことを。


 そして、その左肩には翼を模した飾りがついていたことを。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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