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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第一章 復讐者ハンス

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最強と完璧

興味を持って頂きありがとうございます!

「【陽炎嵐ヘイズストーム】」


 ハンスが詠唱すると同時に、マント(フェーベ)がはためき、爆風が辺りに巻き起こる。だが、勇者達にとっては、予想していたことだったらしい。爆風が起こるよりも早く、円陣を組んで密集した。


 【陽炎嵐ヘイズストーム】は勇者達を打ち倒すが、当然、外側にいる勇者達が先に倒れることになる。すると、内側にいる勇者が倒れる前に彼らが再び姿を現す。


 【陽炎嵐ヘイズストーム】が荒れ狂う間、それが何度も何度も続く。爆風が止んだとき、勇者は先程と全く同じように十二本の剣をハンスに向けていた。


「どうした? 予想外だったか。くふふ……」


 驚いた表情を浮かべたハンスを見て、勇者は体をくの字に曲げて笑い出した。


「先程、面白いことを言っていたな。確か、私の弱点だったか。何故君の前であんなことを口にしたのかは考えなかったのかな?」


 だんだんと勇者の声色が自慢げで尊大なものに変わっていく。まるで隠していた自らの優位性を誇示するかのように。


「君には、いや例え神だろうと私達を同時に倒すことはなど不可能だからだよ。誰にも出来ないことならば、それは弱点たり得ない!」


 勇者は左手の人差し指をハンスに突きつけた。十二本の指がまるで彼を射貫くように向けられる。


「どうして、君の魔法に対する対策を私がしていないとでも思ったのかが? ぐふふ、そこが愚かすぎて可笑しいよ! 私にそのような油断はない。だから、負けないのだ!」


 【陽炎嵐ヘイズストーム】は、熱風が荒れ狂い、居るの者全てを打ち倒し、焼き尽くすが、何かに覆われていて風の影にいるものには届かない。とはいっても、普通なら障害物が一瞬早く壊れるだけで、何の問題にもならないような僅かなタイムラグなのだ。


(対策済みってわけか)


 苛立ちを抑え、ハンスは思考する。


(【陽炎嵐ヘイズストーム】が通じなかったからといって姉さんが馬鹿にされたわけじゃない。姉さんならどんな対策を立てられていても必ず倒せた。倒せないのは俺が未熟で、姉さんみたいに出来ていないからだ。そして、それは永遠に不可能だ。姉さんはこの世の誰よりも完璧なんだから。だいたい、そもそも姉さんの力は……)


 ハンスの思考は、まるで何かの経典か暗示を思い出すかのようだったが、本人は大真面目だ。


「無敵の能力に、慢心しない自制心! これが私だ。私が最強の勇者だ。さあ、異世界アルディナの救世主よ、どうする? まだ、足掻くというのか」


 自らを誇示する勇者に対し、ただ黙り込むハンス。そんな彼にヨルクが叫んだ。


「どうしたハンス! お前の力はこんなもんじゃないだろ! ダンジョンイーターと戦ったときのことを思いだせっ!」


 ヨルクには、ハンスが勇者に圧倒されて黙り込んでいるように見えたらしい。ちなみに、ヨルクが失言をしたような渋い顔をしたのはハンスには見えなかった。


(あれ? 何か心配かけてるのか)


 実際には、必死に怒りを抑えていただけなのだが、周りからはそうは見えていなかったようだ。だが、ヨルクの言葉から、ハンスはダンジョンイーターとの戦いを思い出した。


(そういえば、ダンジョンイーターの時は、【紫炎鳥ロキ】と【土巨人アトラス】を合体させたっけな……)


 ルツカの呟きには反応しなかった勇者が、何故かチラリとヨルクの方を見るが、思考の海に沈むハンスには目に入らなかった。


(だけど、【冥力付与アビス・エンチャント】はまだ詠唱しないと無理だ。それを奴が待ってくれるか……)


 ハンスは【紅炎鳥フェーベ】の剣を消して、力をマントに回し、代わりに《死霊食い(ソウルイーター)》の力で剣を創った。


「ホウ。《死霊食い(ソウルイーター)》の力で創った剣と【紅炎鳥フェーベ】のマントの同時装備か。流石、救世主!」


 真ん中にいた勇者がハンスに斬りかかる。彼はそれを手にした紫炎の剣で受け止める。二本の剣が拮抗するのを見て、勇者は兜の下の口元に笑みを浮かべた。


「その剣、やはり、【紅炎鳥フェーベ】で創った剣には劣るか」


 剣を押されまいと歯を食いしばって耐えるハンスには答える余裕も義理もない。触れれば勇者の剣を侵す【紅炎鳥フェーベ】のマントに比べ、《死霊食い(ソウルイーター)》で創った剣が劣るのは言われなくても彼自身がよく知っている。


「大した力だが、私の方が格上だな、救世主!」

「俺は救世主なんかじゃない!」

 

 憎いかたきに追い込まれているような自分が一体何を救うというのか。


 ハンスは【紅炎鳥フェーベ】のマントを一振りして目の前の勇者を退かせると共に、彼を取り囲もうとしていた勇者達を牽制する。半ば包囲を完成させている勇者は興奮を隠そうともしない。


「フハハッ! 見たか、俺だ。この世界の救世主に勝る俺こそが帝国最強の勇者! 俺だけが、いや、俺こそがこの世界で誰にも邪魔されずに自由に生きるのだ!」


 【紅炎鳥フェーベ】のマントが届かない距離でジリジリと包囲を固める勇者達。ハンスは油断なく彼らの動きに注意を払いつつも、情報を仕入れて活路を探そうとする。


「何を言ってるんだ?」


「貴様を殺せば、私だけが勇者なのだ。百年前のオルヴァリエの時のように何千、何万と勇者を呼ばれては敵わん! そんなことをされては私をもしの固有技能ユニークスキルを持つ勇者が現れないとも言えないからな!」


 ハンスの周りを一斉に囲んだ勇者が一斉に斬りかかる。剣を振るい、マントを広げるが、全ての斬撃は防げない。あっという間に、右足と左の脇腹を斬られ、動きが止まったところに胸を狙った刺突が迫る。回避できないと思った時、彼は最後の切り札を切る決意をした。


「【陽炎波ヘイズウェーブ】」


 以前の戦いの時とは違い、自分を中心とする同心円状に炎の波が広がっていく。それらは次々と勇者達に襲いかかる。


 引き込んでの一網打尽。それがハンスの策だった。勇者達もそのことはすぐに理解できたのだろう。一目散にハンスから距離を取ろうとする。


(これで倒せなければ……)


 ハンスの悲痛な思いをも飲み込むのように、何層にも押し寄せる炎の波が彼の周りの存在全てに押し寄せる。効果範囲は大体半径七~八メートル程だろうか。これは【紅炎鳥フェーベ】の力を全て使った最後の攻撃だ。


(ついさっきまで勇者達は俺を取り囲んでいた。【陽炎嵐ヘイズストーム】の時みたいにして【陽炎波ヘイズウェーブ】を防ぐことは出来ないはずだ)


 そんな彼の考えを肯定するかのように、炎の波が消えた後、そこには誰もなかった。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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