第二十四話 初対面
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「この平原を越えた先が、預言者の指定した場所だ」
そういうと、ヨルクは目の前の平原を指さした。
冒険者達と分かれてからのハンス達の旅は順調そのもので、ヨルクが予定した通りに森を抜け、彼が帝国と約束した場所へとたどり着いた。
(ほっとしている場合じゃないぞ! むしろここからが本番だ)
ヨルクが秘かに気を引き締める。そんな彼とは対称的に、ハンスは呑気なものだ。
「ようやく預言者に会えそうだな」
コボルトのいる迷宮に潜ったと思ったら、超級の魔物に襲われたりとバタバタした行程を振り返っての発言だろう。しかし、ルツカはそんな彼の気持ちを理解しつつも、釘を指した。
「気持ちは分かるけど、気をつけて。ここからは身を隠す場所が少ないわ。しかも、預言者が信用できるかどうかもまだ分からないし」
そういうと、ルツカはそっとヨルクの様子を窺う。ヨルクには見つからないようにそっとだ。無論、ヨルクは気づいているが、そのさりげなさには彼も舌を巻いている。
(俺の反応を見ているってことか。ますます小娘だと馬鹿にはできないな)
ハンスは、二人の間に秘かな攻防が繰り広げられていることには全く気づかず、ルツカの言葉に頷いた。
「ルツカの言う通りだな。気をつけるよ。いつもありがとう」
ハンスが、ルツカに微笑むと目に見えて彼女は狼狽した。
「べっ、別にいいわよ。これくらい、何でもないから! それより行きましょ!」
ハンスから顔を背けてルツカが歩き出す。ハンスもつられて進みかけたが、何を思ったのか、ヨルクに近づき、声を潜めて話しかけた。
「なあ、ヨルク。ルツカってたまにあんな風になるけど、変だよな?」
(変なのはお前だよ、ハンス!)
ヨルクは自分の使える腹芸を最大限に活用して、本音を飲み込んだ。ハンスと旅を初めてから、こんなふうに何度も自制心を試されている。こんな仕事は初めてだった。
(まあ、こんな厄介な仕事は最初で最後だろうけどな!)
前を向いて顔を背けたルツカの耳が赤くなっているのを見ながら、ヨルクは自分が言うべき言葉を口にした。
「そうか? 俺はそうは思わないけどな」
「そうなのか」
ハンスは首を傾げながらも歩き出す。そんな彼の後に続きながら、ヨルクは一人考えた。
(どこで仕掛けるつもりだ、勇者は)
多少起伏があるとはいえ、低木の茂みさえない平原は見通しがよい。いや、むしろ良すぎるくらいだ。標的の位置がよく分かる反面、奇襲をかけづらいというデメリットもある。だか、この場所は勇者自身が戦いの場として選んだ場所だ。何か思惑があるのだろう。
「そう言えば、何でこの辺りは木が生えていないんだ? ついさっきまではわりと深い森だったのに」
ハンスの呟きに何とか気持ちを立て直したルツカが答える。
「この辺りは、帝国がドライセン公国へ出兵するために焼き払ったそうよ。だから、神聖エージェス教国の首都キャラベル近くまではずっと平原が続いているって聞いたわ」
「これだけの面積の森を!?」
驚くハンス。ルツカはひとり頷いて、話を続けた。
「木々は、船上から勇者が一撃で焼き払ったって言ってる。まさか、こんなに広い範囲だったなんて……」
ルツカは歩きながら、今まで集めた木の実を落とす。森が再び生い茂るのを手助けしたいのだろう。
「とんでもない話だな。まあ、ハンスの力もデタラメだがな」
ヨルクは不安を隠して軽口を叩く。ルツカは彼の言葉に苦笑しながら、頷いた。
「まあ。未だにハンスには驚かされっぱなしだし」
「別に俺が凄いわけじゃないよ」
ハンスが、むず痒そうにそう言った。ヨルクとしては、ここで突っ込んで事情を聞きたいところだが、疑われないために彼が被っている仮面がそれを許さない。
そうこうしているうちに日が暮れ、三人は適当な場所で野営することにした。
簡単な夕食を取った後は、見張りを一人残して順番に休む。真夜中を少し回った頃に、ハンスはヨルクから起こされ、たき火の前に座り込んだ。
上を見上げれば落ちてきそうなくらいに星が輝いている。一人で夜空を眺めると、孤独を感じ、感傷になってしまうのは避けられなかった。
(姉さん、俺はどうしたら、姉さんを《死霊食い》から解放できるのかな)
ふとそんなことを考えていると、唐突に目の前から声がかけられた。
「少し火に当たらせてもらってもいいかね」
油断していなかったとは言わないが、ハンスは自分に近づく存在に気づけなかった。そのことに警戒しつつ、彼はゆっくりと答えた。
「どうぞ」
そんな彼の心中を知ってか、知らずか、声の主は少し可笑しそうに笑った。
「別に知らない中じゃあるまいに。まあ、私は初対面だが」
「?」
「すぐに分かる。じゃあ、火にあたらせて貰うが、斬りかからないでくれよ。今は戦うつもりがないんだからな」
声の主はそういうと、少しづつ、火に近づいた。ハンスがまず気がついたのはたき火の光を反射する金属の光だ。それが体の至るところから見える。そのシルエットは彼に何かを連想される。次に目に入ったのは意匠だ。板金鎧を飾る意匠は芸術的だ。特に左肩についた翼のような飾りが特徴的で──
「──っ!」
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