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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第一章 復讐者ハンス

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第十九話 準備

興味を持って頂きありがとうございます!

 その後、ハンスはヨルクとルツカに彼が体験した話をし、ルツカとセレーナの家で夕食をとってから、ユーリの家へ引き上げた。


 ハンスを送り出した後、ルツカが片付けをしようと台所へ向かう。そんな彼女の背中をセレーナは呼び止めた。


「私がやるからいいわ。あなたは準備があるでしょ?」

「準備?」


 姉の言葉を聞き返すルツカにセレーナは不思議そうな顔をした。


「彼と旅に出るんでしょ。顔に書いてあるわよ」

「えっ!」


 まるでコントのように手を顔にやったのは、セレーナの言葉を字義通りに捉えたからではない。ただ単に自分の気持ちを言い当てられたのが、恥ずかしかったからだ。


「でも、それじゃ、お姉ちゃんが」


「私のことはいいの。大丈夫よ。最近は随分調子がいいの」


「でも!」


「それにね。あなたが私のためを思って何かを我慢する方が辛いのよ」


「別に私はイヤイヤやってるわけじゃ──」


 セレーナは優しくルツカを抱きしめ、彼女の言葉を制した。


「この間、あなたが砦に連れて行かれたときは凄く辛かったわ。だから、あなたを連れ帰ってくれたハンスにはとても感謝しているの。だから、彼の力になってあげて。これは私のためでもあるのよ」


「そんなっ」


 喉まで出かかった言葉が何故か引っ込んでしまう。だから、ルツカは代わりに言うつもりがなかったことを口にした。


「自分でもよく分からないの。なんで、ハンスのことが気になるのか。まだ会って数日しかたってないのに、気になって、気になって仕方がないの」


 セレーナはルツカの顔を撫でる。その手が一筋の涙で濡れるが、彼女は気にした様子はなかった。


「あなた、いい顔してるわ。大切なものを見つけた顔。彼のこと好きなんでしょ?」


「しらないっ! あんなシスコン救世主なんて!」


 意地をはるルツカをみて、セレーナは微笑んだ。


「じゃあ、諦める?」


「……!」


「冗談よ。今のあなたはとても可愛いわ。だから、負けちゃ駄目よ」


「死んじゃった人になんて、勝てないよ……」


 生きてる時とは違い、死んでしまうと良いことだけが思い出に残り、悪いことは忘れてしまう。時が経つにつれて美化されていく人に勝つことは難しいかもしれない。


「でも、これから彼を助けることは、死んでしまった人にはできないこと。あなたにしか出来ないのよ」


「私が? 私の自然魔法じゃ、ハンスの足を引っ張るだけだし」


 セレーナはゆっくり首を振った。


「ハンスは純粋よ。それが長所でもあり、短所でもあるわ。だから、これから彼は色んな目に会うと思う。そんな時、彼を支えてあげられるのはあなただけなのよ」


「あっ!」


 そう言われて、ルツカは思い出した。ハンスの生まれたシイ村の村人はみんな殺されてしまったことを。彼は今、天涯孤独なのだ。


「素直になって、ルツカ。あなたは彼の力になりたいんでしょ?だったら、あなたは今自分に出来ることをすれば良いのよ。そうしないときっと後悔する。あなたはそんな顔をしているわ」


「そうかも」


 小声で呟くルツカ。セレーナはそんな彼女を励ますように背中をポンポンと叩いた。


「そうと決まれば、準備しなきゃ! 旅立ちの日に寝不足の顔をしてちゃ駄目よ」


「分かった。お姉ちゃん、ありがと!」


 ルツカはセレーナを強く抱きしめた。姉のことを忘れないように、強く、強く。



※※



 次の日、ハンスは旅に必要なものを村の人から分けてもらってから、二人に別れを告げるためにルツカとセレーナの家を訪ねた。


 ちなみに、ハンスはあまり金品を持っていなかったが、ルツカを助けたお礼ということで、必要なものを快く譲って貰ったばかりか、いくばくかの路銀まで持たせて貰っていた。


「ちょっと待って、ハンス!」


 ルツカは自分の部屋からハンスがいるであろう玄関の方へ叫んだ。準備は昨日のうちに済んでいたのだが、つい寝坊してしまったのだ。


 急いで準備を終えると荷物でパンパンに詰まったリュックを背負い、部屋から出て、リビングに入る。すると、そこでは何故かハンスがうつぶせになって倒れていた。


 いや、違う


 ハンスは倒れている訳では無い。何故なら、彼女の下にはセレーナがいるからだ。それはつまり──


「一体何やってるのよ、このシスコン救世主! 年上なら誰でも良いってこと!?」


「違うのよ、ルツカ!」


 セレーナは慌てて起き上がる。


「ハンスさんは私の治療をしてくれたのよ。ただ、ちょっと勢いが強すぎたみたいで、あんな姿勢になったのよ」


「治療? ハンスが?」


 予想外の言葉にルツカは何とか気持ちを落ち着ける。しかし、目はまだつり上がったままだ。


「セレーナさんの病気は呪法によるものだったんだ」

「え?」


 驚くルツカにセレーナは首を縦に振る。


「だから、俺はマナサイトで呪痕の位置を調べ、マナを打ち出すことで破壊したんだ。ただ、初めてだったから勢いが強すぎたみたいで」


 呪痕とは、呪法の効果を相手に継続に与えるために作るものである。それは対象者の体にマナのよどみを作ることで狙う効果を与えるのだ。


「ハンスはもう呪法は使えないんじゃなかったっけ?」


「ああ。だから、正しい解呪方法は分からない。だけど、呪痕を壊してしまえば、呪法の効果は続かないはずだ。もしかしたら、視力も戻るかもしれない」


 ハンスは、呪法使いの死霊の力の一部を引き継いだことで、呪法をかけることは出来ないまでも、周囲の人が呪法がかけられているかどうかくらいは分かるようになっていた。ハンスはセレーナに会った時からそのことが気になっていたのだが、言い出す機会が今までなかったのだ。


「お姉ちゃんの目が……」

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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