第十四話 紅炎鳥(フェーベ)と願い
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「ね、ねえ、ハンス?」
やっと一息つけたのか、ルツカがおそるおそる彼に声をかける。
「さっき、なんか飛んでる騎士が見えたんだけど……?」
「あれは魔法だ。すっげーレベルの」
「そ、そう」
ルツカは生唾を飲み込み、再び気になったことを口にする。
「あ、あの空を飛んでた騎士って、まさか勇者だったりはしないよね?」
「大丈夫! 逃げきってから説明する!」
「その説明ってまさか国家レベルの問題なんじゃ……」
「ルツカ……」
ハンスは片手を手綱から離し、ルツカの肩に手を置いた。不安げな表情で彼の顔を見上げるルツカ。そんな彼女にハンスは優しく囁いた。
「そんなことないよ、大丈夫」
「本当に信じて良いのよね?」
縋るような少女の視線にハンスは大きく頷いた。
「大丈夫。実は、どっちかといえば世界レベル」
「そんな答えは聞きたくなかった!」
馬上で頭を抱えるルツカ。しかし、ハンスが何か声をかけるよりまえに、頭を上げた。
「あーっ、もういい! どうせ死ぬところだったんだし、開き直るしかないわ! 女は度胸!」
「ああ、そうさ。姉さんも昔そう言ってた。じゃあ、早速これを」
ハンスはそういうと手綱を彼女に渡す。ルツカは意図が分からず戸惑いながら、ハンスに告げた。
「あの、ハンス。私、馬は乗ったことないんだけど?」
彼女にハンスはは力強く言葉をかけた。
「大丈夫。死ぬ気でやれば何でも出来るって姉さんが言ってた!」
「そんな分けないでしょ! どんな脳筋ロジックよ!」
ルツカはそう言いながらも手綱を受け取り、離さない。腹をくくったというのは口だけではないようだ。
それにハンスも考えなしにルツカに無茶ぶりをしたわけではない。彼の目には勇者のマナが活性化するのが見えていたのだ。
(来るっ!)
マナサイトでマナの流れを見れば、どんな魔法が来るのか大体分かる。しかし、この時、ハンスはマナサイトを使わずとも、勇者が次に使う魔法が分かった。
「逃がさんぞ、救世主!」
勇者の呼びかけに応じ、【紅炎鳥】が姿を現す。そして、【紅炎鳥】は矢のようにハンス達に向かってきた。
「俺は救世主なんかじゃない!」
一人の少女を守るのに精一杯な自分がどうして救世主なのか!
(いや、それはどうでもいい。今はこの場を凌ぐんだ!)
焦る気持ちを必至に抑え、集中する。それに伴い、ハンスのイメージしたものが紫の炎によって形作られた。
「【紫炎鳥】!」
彼の前に現れたもの、それは紫炎で出来た鳥だ。
「行けっ!」
【紅炎鳥】に似た紫の鳥が真っ直ぐ勇者に向かう。それを見て、勇者が口元を歪ませる。
(大方、相殺しようとしても、【紅炎鳥】が押し勝つって思ってるんだろ)
【紅炎鳥】は上位精霊。いくらハンスが想像したものを作れるといっても、上位精霊以上のものを作ることは、少なくとも今は出来ない。勇者は先ほどの攻撃からそう考えたのだろう。
(確かにその通りだ。だけど、それは両者がぶつかればの話だ)
紫の鳥と【紅炎鳥】は惹かれ合うように進む。しかし、その嘴が触れ合う刹那、紫の鳥は身を翻して、【紅炎鳥】をかわし、そのまま勇者へと向かった。
「!!!」
勇者が目の前の光景に驚愕する。今度はハンスがほくそ笑む番だった。
(姉さんが俺の中にいるのなら、俺は【紅炎鳥】の攻撃を避ける必要なんてないんだ)
ハンスは【紅炎鳥】を抱きしめるように両手を挙げた。
「姉さん。俺、行くよ。旅をして、俺がこの力を得た意味と姉さんの最後の言葉を見つけ出してみせるよ」
【紅炎鳥】の目を見つめながら、ハンスは姉に話すように語りかける。当然ながら、【紅炎鳥】が何かを語ることは無い。それは何の迷いもなく、ハンスへ直進し、以前と同じように彼の身を焼──
──かなかった。【紅炎鳥】はハンス達に火傷一つ残すことなく、通り過ぎるとかき消えるようにして消えてしまった。
あり得ない光景だった。
精霊は使い手によって、周りのマナから創られ、一時世界に現れる存在。幼子が親の言うことを鵜呑みにするように、孵化したばかりの雛が初めてみたものを親だと思うように、使い手の意思を自分の意思として行動する。
ならば、何故、ハンスは傷を負わなかったのか。
勇者が使う精霊魔法の力はリンダの力。したがって、【紅炎鳥】はリンダの未練を理解して受け入れたハンスを傷つけなかったのかもしれない。
ハンスは前を向くと、ルツカから手綱を受け取り、鞭を入れた。
「行こう、ルツカ!」
「私には何が何だか…」
ぼやく彼女を宥めるハンスの後ろでは、勇者が苦悶の声を上げる。紫の鳥が役目を終えて消えると同時に勇者の体も光になり、四散した。
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