第百十五話 決着と和解
いよいよ次話が最終話です!
まるで鏡にヒビが入るように目の前の景色が割れる。そして、ロビンの前にはユァリーカとが静かに立っていた。
「バカな。オレは死んだはずだ!」
「それはなかったことになった」
「なっ!」
ユァリーカが使ったのは《異能食い(マイノリティーコレクター)》の力だ。この固有技能は相手の攻撃を消し去るだけでなく、それが引き起こした結果を否定して元に戻すことが出来るのだ。
「ロビンが俺に殺されたという結果は否定され、なかったことになった」
「ならエメリーは!」
「なかったことになったのは悪夢を見せる力だけだ。《オデッセイ》によって引き起こされた結果はそのままだ」
「何……そんなバカなことがあるわけが」
「……お主がそれを言うか?」
「なっ!」
不意にロビンの背後から声をかけられたのは皇帝だ。
「ロビン、あんたには皇帝を殺すことに迷いがあったんだな。急所はわずかに逸れていた。だから、あれで《白炎》を使って治療した」
ユァリーカの指さした先にあったのは万全の鎧。これは今までアルディナに召喚された全ての勇者の固有技能が使えるようになる魔道具だ。
「全てキミの思い通り……流石救世主だ」
「別に俺一人でやったわけじゃないさ。だから、俺は救世主なんかじゃない」
皇帝がユァリーカの問いに答えてくれたこと
姉に会えたこと
過去の救世主達がユァリーカに力を託してくれたこと
そして、
ロビンが我が身や物語よりも大切な人も見出していたこと
どれが欠けていれば今はない。
「詫びと感謝をさせてくれ、ユァリーカ」
「詫びも感謝も要らないよ、ロビン。まあ、皇帝には謝った方がいいと思うけど」
「不要だ、ユァリーカ。儂はどんな罰を受けても仕方が無い人間だ」
「……その点ではオレも同じだが、まだ死ぬわけにはいかない。償いは別の形で成し遂げて見せる」
「そこは儂も同じだ、ロビン」
皇帝はロビンに手を差しだした。
「お主の言うとおり、儂らはお主を自分の都合で勝手に呼び出した。そんな事情で頼める話ではないが、それでも儂は頼みたい」
皇帝はロビンに軽く頭を下げる。すると、ロビンも皇帝に頭を下げた。
「先程までの無礼な言動と御身に危害を加えたことを謝罪します。その上で、陛下の理想のために力を尽くすと約束します」
「ふふふ。期待してるぞ、勇者王ロビン」
※※
それから数ヶ月して帝国が徐々に落ち着きを取り戻した頃、ある目的のために世界を見て回る旅に出ることにしたルツカとユァリーカは、旅立つ前に仲間に挨拶がてら顔を見に行くことにした。
「エルやスコット、ヨルクとクロエさんまでしばらく会ってないな」
次々に移り変わる窓の景色を見ながら、ユァリーカはそう呟いた。ちなみに、二人の移動手段はクロエから譲り受けたダンジョンイーター、ムサシだ。
「みんな、それぞれの役割を果たすためにバラバラになったもんね」
ルツカの言葉にユァリーカは頷く。皇帝とロビンの手で始まった帝国の改革はまだまだ始まったばかり。本格化するためには様々な人間の力が必要なのだ。
「最初はキャラベルね。エルは元気かな?」
そう言って気分をうきうきさせるルツカ。だが、実際に出会ってみると、彼らはエルから恨みがましい視線でにまれた。
「ズルイ」
「えーっと、エル?」
「二人はズルイ。私はこんなのばっかり」
そう言うと、エルは机に積まれた書類の山を指さした。帝国との戦いで先頭に立って戦った教皇の権力は増大し、反対に何も出来なかった高位司経典達の発言力は激減した。それはつまり、エルの仕事が増えるということだ。
「ま、まあ。でも、もう嫌な仕事を無理強いされたりすることはないんでしょ?」
「でも、一人になったから仕事は二倍」
珍しく愚痴を言うエルにルツカは苦笑いをした。
戦いの後、エメリーは自分がロビンを愛していることをエルに告げた。当初、エルにとって爆弾発言でしかない告白に彼女は相当なショックを受けたものだった。
「まだ一人は辛い?」
ルツカの問いにエルは首を振った。
「寂しくない……ことはない。でも、エメリーは自分の気持ちをちゃんと言葉で説明してくれた。時間をかけて丁寧に。そんなことは初めてだった。だから……」
「エル……」
ルツカはそっとエルを抱きしめた。
(エメリーが自分にきちんと向きあってくれたから、今までみたいに一心同体じゃなくて、お互い別々の人間として生きていこうと思えたんだね)
ルツカは自分が感じたことを口にはしなかった。何故なら、大切なのはどう感じたかなので、わざわざこの場で言葉にする必要はないと思ったからだ。
「それにしょっちゅう来るし。ウザイ奴と一緒に」
「えっ!?」
エルらしからぬ乱暴な言葉遣いに驚くルツカの背中で《異次元扉》が現われた。
「顔を見に来たよ、私の義妹」
「私は義妹なんかじゃない!」
エルはエメリーとロビンが付き合うことは渋々納得したが、その先については全く別の話なのだ。
「エル、無理しすぎてない?」
ロビンの軽口で激高したエルもエメリーが声をかければ一瞬で機嫌を直す。
「エメリーこそ。病気は治っても無理は禁物」
「うん。分かってる。毎日ロビンに言われてるし」
「……」
エメリーの口からロビンの名が出ると、エルは頬を膨らませる。エメリーはそんなエルに少し困った顔をした。
「そんな顔をしないで、エル。彼はとても私を大切にしてくれているわ。そして、あなたのことも」
エメリーの表情を見て、エルはバツの悪い顔をした。
「別に嫌って訳じゃ……」
プイッと顔を背けながらエルがそう言うと、ロビンが嬉しそうな顔をした。
「よかった! オレのことを認めてくれてきてるんだな。いやー 何度も通っている甲斐が──」
「大っ嫌い! エメリーはあんたなんかに渡さないっ!」
「グハッ!」
エルがそう言い放つと、ロビンは芝居がかった仕草で体を折る。だが、ロビンが感じたショックは本物だ。
「ロビンはもうちょっと空気を読んだ方がいいな」
「あはは」
この場にヨルクがいれば盛大なツッコミをするであろう呟きをユァリーカがするが、ルツカは曖昧な微笑を浮かべただけだった。
「俺達は数日滞在するが、君たちはどうするんだ?」
「しばらくキャラベルにいるつもりだ。クロエとヨルクにもあっていくつもりだし」
「じゃあ、これから今後のプランについて聞いてもらえないか? 出来たらルツカも一緒に」
二人が頷くのを見て、ロビンはエメリーの方を向く。が、それより早く、エルがエメリーの腕を取った。
「あ~ エメリーはエルといる……よな」
「そうね。二人の考えは後であなたから聞くわ、ロビン」
そう言うと、エメリーは以前は決して見せなかったような自然な微笑をロビンに向けた。
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