第百十四話 ロビンの勝利……?
いよいよ、残すところ後数話です!
「やったか……」
電磁砲が巻き起こした黒煙の中からユァーリカが出て来ないのを見て、ロビンはそう呟いた。今の彼を見る者が入れば、その表情が冴えないことに疑問を持っただろう。
(追い込み過ぎたか? しかし、オレが死力を尽くさないと……)
その時、密かな後悔を吹き飛ばすように黒煙が晴れる。その真ん中にユァーリカが立っているのを見て、ロビンは安堵した。
(流石オレの主人公だ、ユァーリカ。まあ、今回だけはオレが主人公だがな!)
ロビンは心の中でそう呟きながら詠唱した。
「“引用する”!」
※※
黒煙を晴らしたのはデニスの固有技能、《重力食い(スカイグラスパー)》。重力を操作したり、発生させる力だ。
(使い方次第で色んなことが出来る力だ)
ユァーリカはロビンが自分に向けて放った攻撃を宙に浮くことでかわすと、今度はリースの固有技能を使った。
「くらえっ!」
古めかしい本が現れ、ひとりでにページが開かれると虹色の閃光がロビンに向かって飛ぶ。そしてその光が着弾すると、辺りにユァーリカまで吹き飛ばすような爆風が荒れ狂った。
(なんて威力だ! 固有技能は色々見てきたけど、攻撃力は間違いなくダントツだな)
整然と並んでいた柱が次々と倒れていくのを見ながら、ユァーリカはその法外な破壊力に驚く。
「ユァーリカ、ここで隠し球か!」
ロビンがそう叫ぶと、ユァーリカはここぞとばかりに言い返した。
「ついさっき使えるようになったばかりだよっ!」
激流で出来た竜を放つロビンに対し、ユァーリカはデニスとリースを宥めていた老人、ヴィルヘルムの固有技能、《異能食い》で対抗する。
「なっ!」
水竜がまるでウソのように消えると、流石のロビンも一瞬驚いたが、すぐに再び詠唱した。
「“引用する”!」
その後もユァーリカの力とロビンの力が激突する。ユァーリカはロビンの攻撃の多彩さに舌を巻きつつも、次第にある疑問を抱くようになった。
(ロビンは一体何でこんなに必死になってるんだ?)
戦いだから必死に戦うのは当たり前かも知れないが、ユァーリカにはそもそもロビンが皇帝を殺した理由もよく分からなかった。
(かっとなって攻撃しちゃったけど、ロビンは何で皇帝を刺したんだ?)
皇帝を刺した直後、ロビンはそれを革命の第一段階だとか言っていたが、今までの彼らの話し合いの中で皇帝をどうにかするという話はでていなかった。
(ロビン、一体何を考えている?)
ロビンが呼び出した灰色の子犬のような生き物が放つ氷の礫をかいくぐりながら、ユァーリカはロビンに接近する。
「接近戦なら有利と思ったかっ!」
ユァーリカは言葉と共に自分へと伸びるロビンの剣を何とか受ける。引用して何かの力を使っているらしく、ロビンの剣の刀身が黒く、鍔は卍の形になっている。
「ロビン、一体何であんなことっ──」
ユァーリカが言い終わる前に、ロビンの剣から黒い斬撃が生まれ、ユァーリカを襲う。ユァーリカはその威力に堪えきれず、後ろへと吹き飛ばされた。
「余裕だな、ユァーリカ」
ロビンは手にした黒刀をユァーリカに突きつけた。
「オレは容赦はしない。やっと見つけたオレの未来、必ず掴みとって見せる!」
ロビンが再び黒刀を振るう。
(さっきの飛ぶ斬撃かっ!)
攻撃に備えて構えるユァーリカ。だが、ロビンが刀を振るう瞬間、ユァーリカの目には黒刀の鍔が十字に変わっているのが映った。
(やばい、さっきとは違う!)
ユァーリカはとっさに《重力食い(スカイグラスパー)》を使って宙を浮いて回避する。しかし、ロビンの斬撃は周囲の柱ばかりか遠く離れた柱まで切り倒した。
「よく見極めたな!」
今度はロビンがユァーリカに接近し、斬り掛かる。ロビンはそのまま鍔迫り合いに持ち込む。すると、ロビンの持つ剣から青い炎が立ち上った。
「キミに宿る死霊は元々はアルディナの人間。“悪魔”と認識されるか疑問はあるが、試して損はない!」
「何をする気だ!」
「キミに力を貸している死霊、消滅させてやる!」
言うが早いか、ロビンの持つ刀から青い炎が辺りに広がっていく。ユァーリカでさえ回避が出来ない速度で広がる炎は広場一杯に広がり、あらゆるものを蹂躙した。
(攻撃の速度と範囲が桁違いだ)
ユァーリカはロビンの攻撃を防いだ《異能食い(マイノリティーコレクター)》を維持しながらロビンの姿を探す。まさか自らの攻撃で倒れた訳はないとは思っていても、周りの被害を見れば不安にはなる。
「俺はここだ、ユァーリカ!」
ユァーリカはロビンの声がした方を振り返る。それに合わせてロビンはかけていた黒い何か──ユァーリカは知らないが、それはサングラスだ──を外し、彼と視線を合わせた。
「うわぁぁっ!」
その瞬間、ユァーリカの目の前に地獄が現れた。ユァーリカの前でロビンがヨルクを、スコットを、ティーゼを、エルを、クロエを刺し殺す。
(何で、何でだ!)
最後に現れたのはルツカだ。ロビンはユァーリカに向けて微笑むルツカの胸に躊躇なく剣を突き立てた!
「止めろっ!」
ユァーリカはロビンに飛びかかった。ロビンを殺し、ルツカを救う。この時のユァーリカはそれ以外に何も考えられなかった。
※※
(本当はここまでしたくなかったのだが。すまない、ユァーリカ)
悪夢に呻くユァーリカを見ながら、ロビンはそうユァーリカに詫びた。
(だが、オレには例え外道に落ちても守らなくてはいけないものがあるんだ)
かつてはそれが物語だった。だが、今は違う。
(エメリーは死なせない。オレはそのための物語になる)
ロビンの狙い、それはとある物語の引用だ。
(自分勝手な怪物が最後に自分が死ぬことである少女を救うあのシーン、転生前に読んだあの物語の場面を引用すれば!)
薄幸の少女の命を救うために命を張る悪役、それが今のロビン。ロビンは物語の筋を引用してエメリーを救うつもりなのだ。
(だが、そのためにはオレが誰かに殺されないとな。嫌な役をさせて済まないな、ユァーリカ)
悪夢が終盤に差し掛かったようだ。ロビンが使ったのは視線を合わせることで三分間の悪夢を見せる能力。ロビンはこの力でユァーリカの殺意を引き出し、自分を殺させるつもりだった。
怒りに染まったユァーリカがロビンに剣を突き立てる。その突きは正真正銘必殺の一撃だった。
(これでいい、これでいいんだ、ユァーリカ!)
悪夢から覚め、戸惑うユァーリカにロビンは微笑んだ。
「ロビンの馬鹿!」
振り向くとそこにはエメリーが涙ぐんで立っている。その後ろにはクロエ達もいるのを見ると、彼らと一緒に来たのだろう。
(言ってたよりも帰りが遅かったからか? いや、違うな)
エメリーにはロビンの考えが分かっているのだろう。
「済まない。だけど、オレはどうしてもキミを死なせたくなかったんだ」
ロビンの世界には何でも願いを叶える力が書かれた物語があったため、それを引用してみたが、エメリーの病気は治せなかった。これはロビンは理屈なしに奇跡が起こるとは思えない性格であることが影響している。
《オデッセイ》で引用された力はロビンがどれだけリアリティを感じられるかに影響されるため、何か彼が“これなら何とかなるだろう”と感じる理屈が必要なのだ。
「あなたが死んだら意味がない!」
「意味ならあるさ。キミがこれからも生きてくれていれば」
「ロビンは自分勝手! ズルイ!」
そう言って縋りつくエメリーにロビンは手を伸ばそうとしたが、残念ながら腕を動かすことは出来なかった。
(もう時間か。仕方ないな)
ロビンはゆっくりと目を閉じた。未練はないとは言えないが、守りたいものは守れた。これで良いとロビンは素直にそう思った。
(ごめんな、エメリー)
エメリーにそう謝る間にもロビンの意識はどんどん闇に閉ざされていく。もはや何も感じられなくなったその時、不意にユァーリカの声がロビンに聞こえた。
「ロビン!」
読んで頂きありがとうございました! 次話は十二時に投稿します!




