第百十三話 魂
興味を持って下さりありがとうございます!
(攻めなきゃ勝てない!)
直感的にユァーリカが感じたのは、受けきれないということだった。ユァーリカは《死霊食い》で無数のナイフを創ってロビンに向かって飛ばす。ダメージを与えるというよりは、攻撃する準備のための時間を与えないための攻撃だ。
「“引用する”!」
が、ロビンが一言そう言うと、ユァーリカの創り出したナイフの刃と柄、留め具などがバラバラになって地面に落ちた。
「なっ!」
ユァーリカは何の時間稼ぎにもならなかったことに驚きながらも再度ナイフを飛ばすが、やはり結果は同じた。
「悪いが、一気に行かせてもらう! “引用する”!」
ロビンはそう詠唱すると共に硬貨のような小さな金属片を指で弾く。すると、轟音と共にユァーリカに向けて閃光が走った。
「っ!!!」
回避も防御も出来ない攻撃を前にユァーリカは声にならない悲鳴を上げた。
※※
“ユァーリカ、ユァーリカ!”
ユァーリカは自分の名を呼ぶ声で目を覚ました。その声はどこか懐かしい。
(誰だったっけ?)
ユァーリカはぼんやりとする意識をはっきりさせるように頭を降る。そう、確か、この声は……
「ザンデさん!?」
“気がついたか”
ユァーリカが起き上がるとザンデはほっとした顔を見せた。
“私が渡した《死霊食い》の力が君を私の元へと引き寄せたらしいんだ。このことは私も予想外だったのだが”
「そんなことが……とにかく会えて嬉しいです」
“私もだ”
ユァーリカがいるのは、以前ザンデと会っていた空間と全く同じ白い靄がかかったような場所だ。そこに突然大きな轟音が鳴り響くと、ザンデは少し表情を険しくした。
“話したいことは沢山あるが、時間はあまりない。本題に入ろう、ユァーリカ”
「はい」
ゆっくりと話したいのはユァーリカも同じだったが、状況はかなりひっ迫している。ユァーリカは気持ちを切り替え、ザンデの話を聞いた。
“実は聖霊の中にいる魂が君と話したいと言っているんだ”
「聖霊の中にいる魂……あっ! ザンデさんのような」
“そうさ、かつての救世主ってやつさ!”
勢いのある言葉と共に姿を現したのは短く刈った髪を立てた男だ。
“まさか敵と和解するなんてな! 甘ちゃんだと思ってたが、なかなか器がデケーじゃねーか”
“うるさいよ、デニス! あんたの感想なんてどうでもいいんだから!”
“何だと、リース!”
最初に現れたデニスという男に文句を言いながら出て来たのは桃色の髪をした若い女だ。一見すると可愛らしい雰囲気の女性なのだが、デニスに向ける言葉は容赦がない。
“大体あんたはいつもそう! 一人で突っ走って脱線して──”
“ほっほっほ。相変わらず仲がいいのぅ”
次に姿を現したのは老人だ。
“まあ、あの二人はあのまま痴話喧嘩をさせておくとして、ユァーリカよ。簡単に言えば、我々は君に感心したんじゃ”
「感心……ですか?」
ユァーリカは何か大層なことをしただろうかと首を傾げると老人は愉快そうに声をあげた。
”誰もが大切な人と生きる幸せな生活を願っている、だけどすれ違うから悲劇が起きる。それを正すのが我々救世主の役目だと。中々どうして立派な志じゃ”
「あ、ありがとうございます」
“ユァーリカ、君は自分の魂の中に取り込んだ死霊と分かり合い、力を借りただろう? それと同じだ。聖霊の中にいたかつての救世主の魂が君に賛同し、力を貸したいと言っているんだ”
思っても見なかった話にユァーリカは息を飲んだ。聖霊からは死後、救世主の魂は聖霊の一部になると聞かされていたため、こうして言葉を交わすことがあるとは思っていなかったのだ。
“すでに死んでるという意味では儂らも死霊じゃ。最もこんなことは君とザンデ、二人の力が揃っていないと出来なかったじゃろうがな”
まるで奇跡のような話だ。ザンデと会ったのも、最後の試練を乗り越えられたのも全てたまたま。大体、ここまで来ることさえ、仲間の助けがなければ決して出来なかったことなのだ。
“だから、今度は俺様も力を貸してやるってことだよ、ユァーリカ!”
いつの間にか口喧嘩を辞めたデニスがキメ顔でユァーリカにそう言うが、傍にいたリースがすかさず突っ込んだ。
“何偉そうなこと言ってるの! あんたの力なんて大したことないでしょ”
“何だと!”
老人は再び言い争いをする二人にため息をつくが、すぐに気を取りなおしてユァーリカに向きあった。
「そろそろ時間じゃ。君に我々の力を託す。応援してるぞ、ユァーリカ!」
幾つもの人影がユァーリカを応援するように現れ、彼に手を差しだした!
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