第百十一話 決着……?
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「【福音招来(ラ•ピュセル)】」
周辺の火属性のマナとユァーリカの持つ冥属性のマナが集まり、一つの形になる。その生成は一瞬だったが、その過程で起こった現象はさながらマナの嵐だ。
「こ、これは」「まさか!」
嵐が止んだ時、皇帝とロビンは目の前に広がる奇跡に圧倒された。二つの属性を用いた精霊魔法、いや、これはもはや精霊魔法を越えた新しい魔法だ。
「恐れ入ったぞ、ユァーリカ。流石救世主だ」
皇帝は福音そのもののような姿をした新たな精霊を仰ぎ見ながらそう呟くが、すぐにユァーリカに向き直った。
「だが、それでワシの攻撃を防げるかな? 《虹の橋》とて帝国の礎を作った忌まわしき固有技能だぞ!」
皇帝の姿が再び消え、それと同時にユァーリカの背後に斬撃が迫る!
が、その攻撃は何故かユァーリカを逸れてしまった。
「何っ!」
再び皇帝の姿が消え、それと共に不可避の一撃がユァーリカに迫る……が、結果は先程と同じだ。ユァーリカに向けて放たれた攻撃は皇帝の意思に反して逸れてしまうのだ。
「幻覚? いや、違うな。一体何が……」
皇帝はそう呟くと何故か不思議な声が頭に響いてきた。
“【福音招来(ラ•ピュセル)】は敵意を和らげ、周囲の人の心を繋ぐ力があります”
「何……いや待て、この声、ユァーリカか!?」
皇帝は自分の頭の中からユァーリカの声が聞こえてきたことに驚き、ユァーリカの方を向く。が、驚くべきことにユァーリカは皇帝に話しかけてはいない。
“ロビンに言わせれば、精神感応とか言うのでしょうが……とにかく、言葉を使わずに意志が疎通します”
「そんな……馬鹿な」
皇帝の口からそんな言葉が出たのは、【福音招来(ラ•ピュセル)】の力に驚いたからではない。ユァーリカの心に皇帝に対する恨みがないことが伝わってきたからだ。
「どんな事情があれ、そちの村を焼くように命じたのはワシだ。なのに恨みはないと言うのか」
“全くないわけではありませんが……でも、あなたが、あなただけが悪いとは思えません”
「ワシは弱い。ワシの弱さが数々の悲劇を生んだ……」
“俺もです。俺が強ければ、そもそも村は焼かれなかった”
「……ワシがこんなことを言うのはおこがましいが……救世主ユァーリカよ。ワシに力を貸してくれんか?」
“勿論です”
「ワシは退位する。それから……」
これからのことを話し合うユァーリカと皇帝の姿を見ながら、彼の魂に宿っていた死霊達がゆっくりと天に昇っていく。
“私もそろそろ行くわ、ハンス”
最後に残ったのはリンダだ。
(姉さん……)
ユァーリカにはそれ以上は言葉にならないし、出来ない。が、【福音招来(ラ•ピュセル)】の力でそれらが伝わり、そしてリンダの思いもユァーリカへと伝わった。
“ルツカさんを大切にね”
その言葉と共にリンダの霊魂の《死霊食い》からの解放が始まった。そして、それと共にユァーリカから精霊魔法の力が失われていき、【福音招来(ラ•ピュセル)】もその形を失っていく。
(これで良いんだ。これで)
ユァーリカは自分に言い聞かせるように心の中で何度もそう呟く。
やがて、リンダの霊魂が完全に解放されると、【福音招来(ラ•ピュセル)】は完全に消え失せ、精神感応は止まった。
が、うち解けあった二人の心は変わらない。いつの間にか甲冑を脱いでいた皇帝はユァーリカに向かって手を伸ばし、彼の手をしっかりと握った。
「これからは共に頑張ろう」
「はい」
皇帝の手をユァーリカも握りかえす。二人は今、互いに信頼し合える関係となったのだ。
(そう言えば、ロビンとも今後のことを話さないとな)
ここに来てユァーリカはロビンのことを完全に放置していたことを思い出した。
(確か、今後“みんしゅしゅぎこっか”を作るために、“かくめい”を起こすとか言ってたけど、俺は具体的には何をどうするか、よく分かっていないし)
そう思いながら、ユァーリカはロビンの姿を探す。そして、彼の姿はすぐに見つかった。
「ロビン、ちょっとこっちへ来てくれ」
「ああ」
ロビンがユァーリカの元へ向かう。ロビンは普段早足なのだが、この時の彼の歩行スピードは不自然なほどゆっくりだった──まるで、何かを躊躇うように。
(?)
ロビンの様子に違和感を持ちながらも、ユァーリカはロビンが近づくのを待つ。
「今、これからの段取りを話していたんだけど、意見を聞かせて欲しい。まず手始めに──」
「まず手始めにすべきなのは、これだっ!」
ロビンの剣が皇帝の胸へと伸びる。予想していなかった事態ににユァーリカは何も出来ない。
皇帝は声さえあげずに倒れた。
「ロビン、何で……」
皇帝の胸にはまるで墓標のようにロビンの剣が立っているのを目の辺りにしながらユァーリカは呟いた。
「革命の第一段階は圧政者の処刑から始まる」
「皇帝は“これからは共に頑張ろう”って」
「虫がいい話だと思わないか? 今になってやり直すだなんて。死んだ民はやり直しなんて出来ないんだ。キミの村の人も、キミの姉さんも」
「姉さんは《死霊食い》から解放された! もう何にも縛られてない!」
ユァーリカは瞬時に《死霊食い》の力で剣を創り、ロビンに向ける。それを見たロビンはため息をつきながら、皇帝の胸から剣を抜いた。
「まあ、こうなるか。残念だが仕方がないな」
ロビンは皇帝の血に濡れた剣をユァーリカに向ける。
「俺はあんたを信じてた。仲間だって」
「オレもだ、ユァーリカ」
そして、二人は激突した!
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