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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第四章 和解する者ユァ―リカ

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第百十話 再会

この話は割と初期のプロットから形になっていたので、こうして読んで頂けるというのは感慨深いものがあります。


ここまで来れたのも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!


まだ続きますけど(笑)

(考えろ……今までの旅で何があったのかを)


 姉を失い、復讐に取り憑かれた。 


 だけど、ルツカと出会い、生きることを選べるようになった。


(リッツ達は元気かな……)


 ユァーリカは迷宮に潜ろうとしていた冒険者のことを思い出した。彼らのおかげでユァーリカは姉の霊魂をすすったおぞましい自分が誰かの役に立てるのだと思えたのだ。


(でも、勇者は憎かった)


 それでも、復讐から逃れることは出来なくて、戦った。そして生死の境を迷っているときにクロエに助けられた。


(それからも色んな人に出会って、助けて貰ってここにいる)


 ヨルク、セリム、スコット、ティーゼ、皆大切な仲間だ。


(ザンデさんにはもう会えない……けど、思い出はここにある)


 出会う度に何かを教わり、気づかされ、ここまで来れた。そのことに思い当たった時、ユァーリカはある光景を思い出した。


(そう言えば……あの時)


 ユァーリカが思い出したのは聖霊を取り込む試練の時のことだ。光が満ちた世界を下へ下へと落ちていく中で、ユァーリカは過去の救世主の記憶を見た。誰かを失っては傷つき、出会っては喜び、共にいる大切な人と生きていくことに希望を見る、そんな情景がくり返されるのを見て、ユァーリカはあることに気づいたのだ。


(そうだ……誰もが大切な人と一緒に生きたいと思っているはずだ)


 それに気づいた時、聖霊はユァーリカにこう言った。


“誰もが同じなのだ。ただ、些細なすれ違いが悲劇を、不幸を生む。それを正すのが、其方らなのだ。しかし、其方らは一人ではない。何故なら、皆が同じ願いを持っているのだからな。それをゆめゆめ忘るな”


 あの時には意味が分からなかったが、今なら分かる。つまりはただのすれ違い。この悲劇を繰り返す犯人はそれだ。悪人など一人もいないのだ。


(そして、それを正すのが救世主として選ばれた俺の役目。それなら……)


 ユァーリカは自らの魂の中にいる死霊達に話しかけた。死んだシイ村の人々や帝都の民は概ね好意的だったが、シイ村を襲った兵士達からの反応は悪かった。だが、ユァーリカは折れなかった。何度も何度も話しかけた。


 やがて、ユァーリカには恨みがなく、本気で分かり合おうとしているのだと兵士の死霊が知った時、彼らはユァーリカに従った。


“ぶっちゃけ俺の方が酷いことしたしな。最後くらいあんたの力になってやるよ”


 最後にそう言ったてユァーリカに従ったのはかつて彼を槍で突き、その後で《死霊食い(ソウルイーター)》の力に目覚めたユァーリカに殺された兵士だ。


(ありがとう)


 ユァーリカは自分の中にいる死霊達に礼を言い、皇帝に向き合った。


「俺は誰もが大切な人と生きる幸せな生活を願っていると知ってます」


「ほう……」


 皇帝は否定こそしなかったが、思った以上に青臭い答えに失望した顔をする。だが、ユァーリカはそれには構わず話を続けた。


「そして、それを妨げるのは些細なすれ違いだってことも」


「些細なすれ違い、か。そちの言うとおりだとしても、それを埋めるのは容易いことではないぞ」


「分かっています。ですから、これから証明してみせます」


「ほう……証明とな」


 ここで初めて皇帝の声色に好奇の色が混じる。ユァーリカはそんな皇帝の前で高々と宣言した。


「今からその固有技能ユニークスキル、《虹の橋(ビフロスト)》を破ってみせます!」


「面白い!」


 皇帝はユァーリカに剣を向けた。


「見事破れば、ワシのことは煮るなり焼くなり好きにせよ」


 ユァーリカも紫炎で出来た剣を皇帝に向ける。【紫炎霊装エインへリアル】は皇帝の皇帝で剥がされ、既に剣だけになっている。


(さて、どうしよう)


 盛大な啖呵たんかを切ったものの、実はユァーリカには何か具体策があるわけではない。


皇帝(この人)に分かって貰うためにはどうしたら良いかな)


 ユァーリカと皇帝の間にあるのはすれ違いだ。そして、それを埋めるのが救世主としてのユァーリカの使命だ。


“見つけたのね、あなたの答えを”


 ふいに聞こえてた声に、ユァーリカは動きと思考を止めた。実は、ユァーリカの中にある魂の中で唯一まだ彼の呼びかけに答えていない霊魂があった。それが今、ユァーリカに話しかけて来たのだ。


“私がいたら、ハンスは前に進めないと思ってた。だけど、もうそんな心配はいらないみたいね”


 それはユァーリカが聞きたくて聞きたくてとたまらなかった声、姉であるリンダの声だ。


(姉さん……俺はっ!)


 話したいこと、聞いて欲しいことがいっぱいあった。だが、それは姉の足かせにしかならない。何故なら、今の姉は全ての未練から解放されているのだから。


“救世主としての最初の第一歩、私も応援するわ!”


(ありがとう、姉さん)


 言いたいことを飲み込み、ユァーリカは心の中でそう言うと、姉はユァーリカに笑顔で応えた。


(今なら出来る)


 ユァーリカは確信した。


(エフレイアス•オルタナとの戦いでは出来なかったけど、今なら姉さんと肩を並べて戦える)


 それはずっとユァーリカが望んで来たこと──姉の力になること──と似ているようで違うもの。


(やるよ、姉さん!)


“任せなさいっ!”


 姉の声に後押しされ、ユァーリカは真名を唱えた。


「【福音招来(ラ•ピュセル)】」

読んで頂きありがとうございました! 次話は十二時に投稿します!

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