第百四話 引きとフラグ
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「《ラ》……がっ!」
ユァリーカが真名を呼び切れなかったせいで、集まったマナが嵐のように暴れる。その勢いは凄まじく、ユァリーカだけでなく、ロビンやクロエ、竜の姿勢をも崩し、地面に叩きつけた。
「大丈夫か、ユァーリカ!」
痛めた腕を押さえ、竜の方をうかがいながら、ロビンはユァーリカに声をかける。ユァーリカはそんなロビンに詫びながら立ち上がった。
「ごめん、失敗した」
ユァリーカはそう謝ると、クロエに向き合った。
「クロエさん、すみません。もう一度お願いします」
「あ、ああ。構わないが、ユァーリカ、今のは……」
クロエにはマナサイトのようにマナを目で捉える術はない。だが、感覚的に感じることは出来るし、魔法についての知識も膨大だ。そのため、今、ユァーリカがしようとしたことをおぼろげながら理解していた。
“貴様、まさか……”
そして、それは目の前の竜も同じだった。竜は今までの余裕はかなぐり捨て、警戒心を露わにする。
“よもやアルディナの救世主がそこまでの領域に至ろうとは。貴様は絶対に生かしてはおけんな”
竜は大きく息を吸うと、辺りの大気がその口内へと収束される。その勢いは強く、ユァーリカ達は飛ばされないように踏みとどまるだけで精一杯だ。
“毒死など生ぬるい。消し炭にしてくれる!”
竜の口からユァーリカ達に向けて熱線が放たれる。馬鹿げた熱量が暴れ狂うその様はまさに彼らに迫る死そのものだ。
「ユァーリカをやらせるわけにはいかない! 【極大消滅剣】!」
ロビンは左右に持つ剣を十字に交差させると、それらを同時に振り抜いた。すると、その剣から飛び出すように白い光が十字を描いて竜に向かって飛ぶ。
「これは防げないぞ! 何せ万物を構成する原子そのものを分解する魔法だ!」
ロビンの放った光と竜の放った熱線がぶつかる。二つの力は互いに拮抗するように押し合うが、僅かにロビンの光の方が押し巻けている。
「くそっ!」
しかし、この間、ユァーリカも黙って行く末を見ていた訳では無い。
「ここで負けるわけには行かない!」
徐々に押されるロビンの光が突如勢いを吹き返す。【紫炎霊装】を纏ったユァーリカがそれを後ろから押し返しているのだ。よく見れば、【紫炎霊装】が右手に持っている剣がロビンの光と同じ物になっていることに気づいたはずだ。
“くっ……救世主なんぞにっ……”
「俺は救世主なんかじゃないっ!」
まだ姉とも対等になれていないのに救世主を名乗れるはずもない!
ユァーリカは【紫炎霊装】の足裏部分を爆炎に変え、竜に向けて突進する。すると、ユァーリカの剣に押されていたロビンの光も徐々に竜の熱線を押し返していく。
“ぐっ……ぐぐっ”
十字の白光を前に掲げ、足から炎を吹き出しながら進むユァーリカに押され、エフレイアス・オルタナは苦悶の声を上げる。
“負けぬぞ、我はあの方より帝国の守護を仰せつかった身。こんなところでっ!”
だが、エフレイアス・オルタナが耐えられたのはそこまでだった。ついにユァーリカが掲げていたロビンの光がその体にたどり着く。すると、エフレイアス・オルタナの体に深い十字の切り込みが入り、それは瞬時に四分割された。
「倒した……か」
ユァーリカはピクリとも動かない巨体を見ながら、そう呟いた。血が出てこないのは傷口が炭化したのか、元々そんなものが流れていないのかどちらなのだろうか。
「素晴らしかったぞ、ユァーリカ!」
「いや、ロビンの勝利でもあるよ」
ユァーリカがそう言うと、ロビンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに手を振った。
「違う違う! キミが勝つのは当たり前だ。オレが言ったのは、いい取材が出来たということだ。特に新技を出そうとした辺りなんて最高じゃないか」
「いや、失敗したんだけど」
ロビンは戸惑うユァーリカにはお構いなしに肩をバンバンと叩いた。
「そこがいいんだ! キミがあの場面で失敗するなんて予想外だ! しかも、いい引きになっている。読者は“どんな技なんだ?”と興味をかき立てられ、続きが読みたくなる!」
「あ、そう……」
訳の分からない喜び方をするロビンにユァーリカがかけられらる言葉はそれくらいだ。ユァーリカはロビンを放置し、クロエの方に顔を向けた。
「クロエさんは大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
「大丈夫だという顔色じゃないな。ヤツを倒したからと言って毒が消えるわけじゃないしな。オレの手持ちの能力で治療できるものとなると……」
クロエはそう言って考え始めたロビンをすかさず制止した。
「いや、いい。それより、早くムサシに戻りたい」
「分かった」
気分を害した様子もなく、ロビンはそう言った。が、この時、ロビンの背後で何かがピクリと動いたことには誰も気づかなかった。
「じゃあ、行くぞ」
そう声をかけてロビンが力を使おうとしたその時、突如エフレイアス・オルタナの頭部が動き出した。目を怒りでギラギラと見開いたそれはどうやったのか、ユァーリカ目がけて矢のように飛んでいく。完全に虚を突かれた行動にユァーリカもクロエも反応出来ない。
“道連れだ、救世主っ!”
だが、エフレイアス・オルタナの牙はユァーリカに届くことはなかった。何故なら彼の壁となった者がいたからだ。
「ユァーリカはやらせんぞ!」
「「ロビン!」」
エフレイアス・オルタナの牙からユァーリカを庇ったのは、ロビンだった。ロビンの動きに遅れてユァーリカとクロエが動き、今度こそ確実なとどめを刺す。
「しっかりしろ、今治療する!」
ユァーリカはロビンの腹部に深々と刺さった牙をそっと抜くと同時に傷を塞ぐ。が、傷は再び開き出した。
「なっ!」
ユァーリカは再び力を使おうとするが、ロビンは手を振った。
「だ、大丈夫だ、ユァーリカ。致命傷じゃない。それよりも早くここを出よう」
ロビンはそう言うと、二人を集め、ムサシに戻るべく力を使った。
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