第百三話 新たな力
興味を持って下さりありがとうございます!
「いない! どこに行っ──!」
その直後、クロエの背後から何かが襲いかかった!
「くっ!」「このっ!」
気配で攻撃に気づいたクロエが身を捩って回避するのと、マナサイトで奇襲に気づいたユァーリカが対応するのはほぼ同時だった。
「クロエさん!」
攻撃を避けられたユァーリカだったが、深追いはせず、クロエに駆け寄り、治療を行った。
「すまん、油断した」
「喋らないで下さい。傷口が広がります」
クロエの傷は致命傷ではなかったが、浅くはない。治療には数分必要だったが、ロビンが追撃して時間が稼ぐ。
「終わったか、ユァーリカ」
「ああ、ありがとう」
ロビンはユァーリカが礼を言うとニコリと笑みを浮かべて頷いた。
「さて、奴のことだが、やはり再生する間も与えず、一気に倒すしかないと思う。長引けば長引くほどオレ達が不利になる」
「確かにな。しかし、一気に倒すと言ったが、何か策があるのか?」
クロエは竜から目を離さずにそう言った。ロビンが追撃したことで竜は更に彼らと距離を取っている。何もしてこないのは様子を見ているのだろうか。
「クロエ殿に奴の動きを予測して貰った上で、オレとユァーリカが同時に最強の攻撃を叩き込むしかないだろう」
「なるほどな。だが、“クロエ殿”はよせ。むず痒い。クロエでいい」
「分かった。ユァーリカもそれでいいか?」
ロビンの言葉にユァーリカは黙って頷いた。自分の最強の攻撃、それは何かと考えながら。
(単純に考えれば【紫炎霊装】という気もするけど、【冥炎紅鳥】は遠距離攻撃も出来るしな……)
相手との間合いによって適切な技が違うという話でしかないかも知れないが、目の前の竜を確実に仕留めるためにはこれがベストだと思える確信が欲しいのだ。なお、獄閃は選択肢に入っていない。
「“引用する!”」
ロビンが短く詠唱すると、彼の右手に緑の光で出来た剣が、左手には冷気を纏った青白い光の剣が現れた。
「それは確か……」
「ああ、キミとの戦いで使った固有技能、《鬼火》と《冷血地獄》だ。この二つのスキルから放つ攻撃を合成するのが今のところ、オレの最強技だ」
ロビンはまだロスリック平原で倒れた勇者の固有技能を把握しきっていないため、“今のところ”と断ったのだが、そこまではユァーリカには伝わらなかった。
いや、というより、実はユァーリカの耳にも入っていなかった
「合成……」
その言葉はユァーリカにかつて姉が行った実験を思い起こした。
(昔、姉さんは二つの属性のマナを使って精霊を創れないかと実験した時があったな……)
精霊魔法とは外界にあるマナのうち一属性だけを集めて精霊として支配下に置く魔法である。したがって、二つの属性のマナを用いるような精霊魔法は今まで存在していない。
(姉さんは“火属性にしろ、水属性にしろ、マナはマナ。お互いに一緒に協力しあえるはず”って言っていたけど)
結果として、姉リンダの実験は失敗だった。だが、何も得られなかった訳では無い。
(姉さんは二つの属性が協力しあえるようなイメージがあれば、真名が分かるはずって言ってたな)
協力しあえる
その言葉から連想されたのは、姉の精霊魔法の象徴とも言える【紅炎鳥】と自分の分身である冥属性の精霊、【超越者】だ。
(冥炎紅鳥は【紅炎鳥】に《死霊食い》の力を加えただけで、本体はあくまでも【紅炎鳥】だ。そうじゃなくて、二つが新たな一つの存在になるためには……対等でないと)
対等──それは身震いするような言葉だった。崇拝する姉と自分を等価だと考えることさえおこがましい気がする。だが、そんなユァーリカはティーゼの言葉を思い出した。
(想いに囚われていては一部しか見えない……か)
これも同じことかも知れない。姉の偉大さだけを見ていては見落としてしまうものがあるのだろう。
(協力……か)
そう思えたことはあまり多くない。が、皆無でもない。ユァーリカにとって、姉と協力して行ったものと言えば、日々の生活だった。役割を決め、二人で衣食住を整えていく当たり前の日常、それがユァーリカにとって姉リンダとの協力のイメージだった。
そこまで思いが及んだ時、唐突に何か言葉が心の中に浮かんできた。それは名前だ、マナを呼び寄せ一つにするための。
(これはっ……)
「ユァーリカ、ロビン! 奴が来るぞ!」
様子見をやめた竜がユァーリカ達に向かって突進する。横でロビンが身構える中、ユァーリカは心に浮かんだ真名を呼んだ!
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