第百二話 内部へ
興味を持って下さりありがとうございます!
「まさか、こんなバカな手段で乗り込むことになるとはな……」
ロビンは改めて自分達をエフレイアスの内部まで連れてきた乗物……だったものを見ながら呟いた。彼らをここまで連れてきたのは砲弾だ。二発目の波動砲で胴体に穴を開けた後、彼らは中を空洞にした砲弾の中に入り、それを主砲から開いた穴へと打ちこんだのだ。
「私は警告したぞ、ロビン」
何故か得意気に言うクロエにロビンは少し呆れたが、別に彼としても不満があるわけではなかった。ただ、このエピソードが物語になった時、読者が“あり得ない”などと感じないかが心配だったのだ。
「別に後悔しているわけじゃないさ。それよりどっちに行けばいいんだ?」
ロビンがそう尋ねるとクロエとユァーリカは揃って同じ方向を指した。
「なら急ごう。エフレイアスが再び動き出す前に停止させたほうがいい」
「分かってる。急ぐぞ!」
クロエがそう言って歩き出すと、ロビンとユァーリカもその背を追った。
「思ったよりも歩きやすいな」
ユァーリカがそう言うと、ロビンは興味深そうな顔をした。
「キミはエフレイアスの内部はどんな感じだと考えていたんだ?」
「え? あ~ もっと狭かったり、迷路だったりするかと」
「なるほどな、キミはそう考える性格なのか。なるほど、なるほど」
「?」
ユァーリカは質問の意図が分からずに首をかしげるが、ロビンは満足げに頷いた。
「今通っているのは、整備用の通路だ。魔法文字も永久不変というわけじゃないから、定期的にメンテナンスが必要なんだ。それよりもそろそろだ、気をつけろ」
クロエがそう注意してからしばらくすると、三人の前にだだっ広い空間が広がった。大きな町の広場くらいはある空間の真ん中には細い棒のようなものが立っており、その先端には赤い光が浮かんでいた。
「間違いない。ここがエフレイアスの中心部。マナを全身に送り出す場所だ」
「ここが……確かに」
ユァーリカのマナサイトには目の前の赤い光から生み出されたマナが次々と手足へ流れていく様子が映っている。
「とりあえず壊せばいいんですか?」
ユァーリカがそう問うとクロエは頷いた。
「そうだ。この巨体をどうするかは壊してから考えよう」
「分かりました。【紅炎鳥】!」
ユァーリカは腰に吊した触媒を用いて【紅炎鳥】を呼び出すと、目の前の赤い光に向けて放つ。上級精霊である【紅炎鳥】の攻撃なら赤い光どころか、辺りを根こそぎ灰にしても可笑しくはない。が、彼らが見たのは信じがたい光景だった。
「何!?」
矢のように飛んだ【紅炎鳥】が突然かき消えたのだ。あり得ない事態にユァーリカは戸惑うが、彼が本当に驚くのはこれからだった。
“燭光を消そうとするとは、お主らは何者じゃ”
突如、三人の頭の中に声が響いた。声と言っても現実に聞こえる声ではない。そして、何故かその主は目の前の赤い光であることが理解できた。
“やはり帝国に仇なすか、救世主。しかし、異世界のものよ、帝国を守るべく召喚した其方らまでここにいるとはどういう了見じゃ?”
「世界のマナを自国の安全のためだけに使うなんて許されるはずがない!」
ロビンは高らかにそう宣言するが、赤い光はまるで呆れたような声を出した。
“帝国が世界を統べれば、世界のマナを使う必要はなくなる。そのための勇者ではないか”
「圧制者の物言いだな。やはり帝国には滅んでもらうしかないな」
“聞きいれんか。やれやれ……”
言うが早いか、赤い光が辺りを灼かんばかりに激しく輝く。そして、それが収まった時、彼らの目の前にはエフレイアスを全長四、五メートル程度に縮めたような姿をした竜がいた。
“我が名はエフレイアス・オルタナとでもしておこうか。ここで死ね、救世主と異世界人!”
竜が翼を振るうと紫の煙と刃のような風が彼らを襲う。それを何とかかわすと、ユァーリカは【超越者】を創る。現れるや否や【超越者】は瞬時に数を増やし、一斉に固有技能を放った。
“全て固有技能だと!?”
だが、エフレイアス・オルタナの動揺は一瞬だ。【超越者】の放った黒雷や氷竜、紅炎などいった攻撃は目の前の竜を傷つけるが、その傷は紫の煙が沸き立つと同時に消えてしまった。
「なら近づいてっ!」
ユァーリカは今度は近接攻撃を試そうと身構えるが、その前にクロエに止められた。
「駄目だ、ユァーリカ! ここは密室に近い。一撃で倒せなければガスのせいでこちらが不利になる!」
“ようやく気づいたか。だが、そっちが攻撃しなくても同じことだ”
竜は再び紫の煙と共に風の刃を放つ。その攻撃はユァーリカとロビンが虹色の盾を出して防いだが、彼らの周りに毒性のある煙が広がるのは止められない。
「ゴホッ! ゴホッ!」
嫌な咳をしながらクロエが倒れこむ。その咳に血が混ざっていることに焦りながら、ユァーリカは【超越者】の《白炎》でクロエを癒す。
「ユァーリカ。私はもう大丈夫だ。それよりあいつを何とかしないとな」
クロエは再び立ち上がるが、足元は覚束ない。クロエはそんな自分に手を伸ばそうとするユァーリカを制し、剣を抜いた。
「攻撃そのものよりも、あのガスの方が厄介だな」
「ユァーリカ、《蒼風》の固有技能だ。風を起こしてオレ達の周りのガスの濃度を下げればいい」
「分かった!」
ロビンの言葉をうけてユァーリカが力を使う。が、そんな彼らの策を竜はせせら笑った。
“無駄な足掻きだな!”
竜が彼らに向けて青白いブレスを吐く。その時に沸き起こった紫の煙は今までの比ではない。ブレスはロビンが防御し、まるで煙幕のように撒かれた煙はすぐに【超越者】が作った旋風でかき消されたが……
「いない! どこに行っ──!」
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