第百一話 突入
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「いや、たった一つだけ手があるぞ」「一つだけ方法がある」
クロエとロビンは声を揃えてそう言った。二人は一瞬お互いに不思議そうな顔をしたが、すぐに納得したような顔をした。
「エフレイアスの内部に入って中心部へ向かう。そうすれば、奴が回復するためにマナを吸うことはない。何しろ、攻撃した時にはすでにやつはマナを吸えなくなっているんだからな」
皆に説明したのはクロエだ。驚いた顔でロビンの方を向くエメリーにロビンは“まあ、巨大兵器を倒すときのセオリーだ”などと説明している。
「中って……そりゃそうだが、誰がどうやって」
ヨルクが疑わしげな声でそう問うのも当然だろう。だが、クロエの返答には迷いがなかった。
「分かってる。もう一度波動砲を撃つ。そして、私とユァーリカで中に入る」
「もう一度って、いや待て! お前とユァーリカだと? もっと大人数でいけば……ってか、置いていかれるのはポリシーに反するんだが!」
「私達が中に入ってもエフレイアスは暴れるんだから、ムサシを空にするわけにはいかない。特にヨルク、砲撃担当であるお前は重要だ」
「いや、そりゃな……」
ヨルクは理詰めで責められて黙った……ように見えて、実はそうではなかった。ヨルクはクロエに“お前は重要だ”と言われると、それ以上何かを言う気になれなくなったのだ。
「私やエルが置いてきぼりなのも同じ理由ですか?」
「そうだ。それに君たちには人質にされるというリスクもある」
「……」
ルツカは食い下がろうとしたが、何も言い返せなかった。ユァーリカを危険な場所へ送り出すことへの不安は大きい。しかし、自分が捕まったのはつい最近のことなので、人質にされるリスクを話に出されると反論するのは難しい。
「だが、オレは同行するぞ」
テンション高くそう言ったのはロビンだ。しかし、クロエはすぐに首を横に振った。
「何故だ? 勇者王がエフレイアスの中にいたらおかしいだろ。見つかった時のリスクを考えろ」
クロエはそう言って止めるが、本心は違う。敵地へ行くのに信用出来ない人間を連れて行きたくないのだ。
「理由ならあるぞ。キミの作戦には欠けてるところがある。それを補うためにはオレが同行する必要がある」
「私の作戦に欠けてるところだと?」
若干芝居がかかったロビンの物言いにクロエは苛立ちながら聞き返す。すると、ロビンは得意気な顔をした。
「キミ達の脱出方法だ! エフレイアスを破壊した後、どうやって中心部から無事に帰るつもりだ!」
「くっ! それはっ」
中心となる魔法文字を破壊した後、エフレイアスがそのままであるとは限らない。というより、十中八九、崩壊を始めるだろう。
「だが、オレにはここへ戻って来れる固有技能がある。ルツカ、キミも体験したことがあるだろ?」
「え? ええ。キャラベルから《悪食竜》がいたロスリック平原へ移動した時の力のこと?」
「そうだ」
ルツカはそう答えながら、ロビンが自分をクロエを納得させるための材料にされていると感じていた。自分を巻き込み、ロビンの力ならユァーリカとクロエが無事に帰れると思わせることで皆の賛成を得ようというのだ。
(でも……)
外堀から埋めようとするロビンのやり方に内心舌打ちをしながらも、ルツカは半分以上ロビンの同行を認めざるを得ないと思いつつあった。理性的なルツカと言えど、恋人の安全がかかるとついつい何かに縋りたくなるのだ。例え、それが間違いだったとしても。
「信用出来ないという君の気持ちは分かる。だか、これでどうだ!」
そう言うと、ロビンは手にした荷物から羊皮紙の束を取り出した。クロエはそれを受け取り、数行目を通しただけでしかめっ面を浮かべた。
「何だ、これは?」
「オレが執筆中の物語だ。ようやくここまで形になった魂の原稿だ! これがキミの手元にあれば安心だろう?」
「安心できるかっ!」
言うが早いか、クロエが羊皮紙をばらまく。すると、ロビンは悲鳴を上げながらそれを集め出した。
「勇者にまともな人間はいないと思ってはいたが、ここまでとはな……」
クロエはそうぼやくが、ロビンは尚も“ユァーリカの活躍を取材したいだけだがら、邪魔はしない。あ、でもピンチは演出したいが……”などとプラスになるのかマイナスになるのかよく分からないことを言いながら食い下がる。いよいよ、収拾がつかなくなりかけたその時、静かにエメリーが口を開いた。
「私がここに残る。それならロビンはきっとユァーリカ達と帰ってくる」
そう言うと、エメリーは“そうでしょ?”と言うようにロビンの方を見る。
「勿論だ」
ロビンが当たり前のようにそう答えると、エメリーが幸せそうな笑顔をロビンに向ける。見つめ合う彼らが二人の世界に没入していく……が、突然、何かに気づいたように手を打った。
「あっ……そうか! そう言えば良かったな。我ながら頭に血が上っていたよ。皆はこれでオレの同行を認めてくれるのかな?」
白けた顔をする一同の中でエメリーだけは怒った顔をしている。が、幸か不幸かエメリーの表情はロビンからは見えなかった。
「……勝手にしろ」
この場で辛うじて言葉を振り絞れたのはクロエだけだった。だが、その直後、けたたましいサイレンが艦橋全体に響く。
「回避行動! 攻撃が来るっ!」
手早く指示を出したのはやはりクロエだ。彼女が指示を飛ばすとスコットから操舵を預かっていた仲間が素早くムサシを操作する。が、それが終わるか終わらないかというタイミングで無数の刃風がムサシを襲った。
“右側面に被弾。被害は調査中”
風を裂くような音と共に艦橋全体が揺れるた後、伝声管から報告が上がる。それに促されるようにユァーリカ達が前に映るエフレイアスを凝視する。すると、画像の中のエフレイアスはその顔の修復を終え、徐々に動き出し始めていた。
「クソッ! もう回復したか。悩んでいる時間はもうないな」
スコットがそう呟く。すると、クロエも腹を決めたらしく、張りのある声で皆に告げた。
「私とユァーリカ、そしてロビンでエフレイアスの内部に乗り込む。皆は私達が戻るまで奴をなるべくおとなしくもさせてくれ」
「自信はないが、ポリシーなんで、こういう時は任せとけ!といっとくぜ!」
ヨルクがそう言うと、クロエは口元に微かに笑顔を浮かべた。
「エメリー、大丈夫か?」
ロビンは先ほどの衝撃から守るために抱きかかえていたエメリーを離しながらそう言った。尚、ロビンのこうした行動でエメリーの機嫌は既に直っている。
「私達に同行したことを後悔しても知らないからな」
クロエが負け惜しみを言うようにそう言うと、ロビンもそれに対して何か言おうと口を開く。しかし、ロビンが言葉を発するよりも早く、エメリーがロビンに縋りついた。
「絶対に無事に帰って」
「ああ、必ず皆で帰る」
ロビンがそう言うと、エメリーは漸く手を離す。ロビンは内心、“これでフラグとかは立たないよな……異世界だし”などと思いながら、クロエに向き直り、さっき口にしようとしたのとは違うことを言った。
「で、どうやってエフレイアスの内部に乗り込むつもりだ?」
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