番外編・とある一日の話
異国の地に来たとはいえ、それほど不安がないのは、お願いすればシルフの“転移魔法”で実家へとすぐに連れてきてもらえたからかもしれない。
ただ戻るのは、私がお願いした時以外では、私の国との交渉や妹のルナローズの様子を見に行くことも兼ねていそうだ。
そして今日は、サナとクロト達と共にまた実家のある国に行かせてもらえるらしい。
「新婚なのにこんなに連れてくるのは可哀想ではないかしら」
そこでサナとクロトの前でシルフに私はそう聞くと、サナの方が、
「我々はシルフ様の護衛ですから。それに……リズ様のいる国の方が、イチャイチャしやすいのではないかと最近気づいてしまったのです」
「え? そうなの?」
「ええ……私達も昔は若かったもので、家同士の関係や、お互いに振り向いてもらうために挑発を繰り返していたがために周りがこう……」
「そういえばよく、この国の宮廷騎士団や魔法使いの人達が、サナとクロトの仲の良さを見て、青い顔をしながら倒れこみそうになっているのを見たわね。……サナは何をやっていたのかしら」
「……にこっ」
サナは笑ってごまかし、それ以上何も言わなかった。
私は二人が仲が良く、仲睦まじい恋人同士の時しか知らないので、彼らが一体何に“恐怖”や“悪い夢だ”と感じているのかがよく分からない。
そのうち誰かに聞いてみようとは思っている。
今の所全員が全員口をそろえたように、『お話しできない、口に出すのも恐ろしい』といった答えしか聞いていないが。
さて、そんなこんなで本日は、また交渉にシルフは私の国に向かうらしい。
それに付いて行く事になった私は、シルフにお願い事をされてしまった。
「リズ、実はお願いがあるんだ」
「なんでしょう?」
「その……妹のルナローズが、何かをこじらせていないか見てきてほしい。もちろんグド王子は今回は俺と交渉することにもなっているから、リズに会わせることはないけれど」
「……会っても構わないわ。もう過去だもの。……今は私にはシルフがいるもの」
そう、愛おしい思いを抱きながらシルフに答えると、シルフに私は抱きしめられた。
だから私もシルフの背に手を伸ばして抱きしめる。
言葉を発する意味はない。
ただただお互いを求めるように抱きしめあうだけで、“分かる”。
愛おしさが体の中からこみあげてあふれ出して、この人がいる幸せと暖かい感情に満たされる。
ずっとこうしていたい、そんな思いに私は駆られてしまう。
シルフ、大好き。
そう思っているとそこでクロトが、
「……仲がよろしいところ申し訳ありませんが、そろそろ時間ですのでよろしいでしょうか」
私は慌てて、シルフから離れたのだった。
連れてきてもらった城で、シルフの妹のルナローズとお話しすることになった。
あれからたまに顔を合わせる事があってもそれほど話したことはない。
これを機にどういった人物なのかを知るのもいいかもしれない。
シルフの妹。
確かにシルフに似ていたがどんな人物なのだろう?
そう言った好奇心が私にあったのも認める。
だが、まさかこのような事になろうとは。
「それで、グド王子がね……」
シルフによく似た美しい少女が笑顔でグド王子の話をしている。
その表情から愛おしい気持ちがあふれているのもよく分かる。
恋する乙女といったものがとてもよく分かる。それは良い。
だが、そのグド王子にのことについて彼女は、少し……その……“知りすぎて”いるのではないだろうか?
それとも愛する相手であればつぶさに行動を見てしまうものなのだろうか?
私はシルフにここまでするべきなのだろうか?
悩んでしまう。
ただ今の話を聞いていると、そろそろ彼女の見ているグド王子は、私の知っているグド王子とはあまりにかけ離れすぎていて、そろそろグド王子自身が別人と入れ替わっているのではないかと疑うべき時が来ている気がする。
おそらくはこれが恋愛脳? と言われるものなのだろう。
ただ……私もよく、シルフ様に夢を見すぎでは、と言われることもあるので、気にはなる話ではあった。
そこでルナローズが、
「私ばかり話してごめんなさい。シルフお兄様とはどうですか?」
「……そうね、とても優しいのは前からかな。あと、少し意地悪なのも。でも……近くにいると今まで見たことのないシルフを知って、もっと好きになった気がするわ。毎日毎日、好きな気持ちが強くなるの。わたし、どれだけシルフのことが好きになってしまうのかしら、困ったわ」
「私もそうですわ、グド王子と一緒にいると、毎日毎日新しい発見があって、前よりももっと好きになるのです」
「……そう。ルナローズ、グド王子と、今、貴方は幸せ?」
私はそう聞いてしまった。
過去のわだかまりはあるといっても、それはもう過ぎてしまった出来事で、私は今、シルフに夢中でそんなものを思い出せる余裕すらない。
でも、気にはなっているのだ。
このルナローズに、グド王子を押し付けることになっていないかと。
それが、私の、心配。
すると、ルナローズは眼を数回瞬かせてから、今まで見た中で一番幸せそうな笑顔で、
「はい、私は今本当に、幸せです」
「……そう。貴方とグド王子の結婚に、幸多い事を願っています」
私はそう返すと、ルナローズも微笑む。
そこで、部屋の扉が開いてグド王子が倒れ込むように入ってきた。
そのすぐ後にシルフが部屋に入ってきて、
「まったく、いつまで君は聞き耳を立てているつもりなんだ」
「! どうしてそれをばらす!」
「堂々としていればいい。そしてそれが出来ないのは……何か妹に“隠したい”事があるのでは?」
「……別にそれはない」
そう返したグド王子だがシルフの方から視線を外している。
けれどシルフには話すつもりはないらしい。
ルナローズも少し不安そうだ。
それに私も聞きたいことがあった。だから、
「グド王子とあちらの隅で少しお話させていただいてもよろしいですか?」
そう私は返したのだった。
部屋の隅にやってきた私は、シルフとその妹のルナローズの視線がすごく突き刺さるのを感じていた。
しかも顔の表情が血がつながっているだけに似ている。
考えていることも同じなのかもしれない。
その視線をとりあえず無視して私はグド王子に、
「久しぶりですわね」
「そうだな」
「……それで、ルナローズとはいかがですか?」
「……別に」
そう答えるグド王子。
嫌、ではない。
よりを戻そう、ではない。
ルナローズと“一緒”にいる事には不満はないようだ。
では、一体何が負い目なのだろう?
だから私は、
「仲が上手くいっているようで良かったですわ」
「そう……だな。無理やりあてがう様な、こんな結婚ではあったが……うまくいっている」
そう、考えるようにグド王子に私は、少し意地悪な言い方をすることにした。
「“愛されれば”、貴方はそれでいいのかしら? 貴方は“愛されたい”だけ?」
「俺も……“愛したい”と思う程度には気に入っている」
むっとした様に答えたその言葉は、私が望んだ答えでもあった。
だから私も、
「そう。それは本物の“愛”であり“恋”ですね」
「そう、なのか?」
その時嬉しそうにグド王子が微笑むのを見た。
そこでこの人は、ようやく自分のたった一つの“大切な人”に出会えたと気付く。
色々あったとはいえ、それでもかつての婚約者。
その伴侶は私の最愛の人の妹。だから、
「……これからのルナローズとの生活に、祝福を」
私はそう、グド王子に言ったのだった。
こうしてその後はちょっとした雑談をして帰ることに。
そして戻ってくるとシルフに私は抱きしめられた。
「ど、どうしたの?」
「リズが俺と同じ気持ちでいてくれるとは思わなかった」
「? 何が?」
「毎日日を追うごとにリズがさらに好きになって、俺だけが好きになっているのではと不安に思ったから」
「……酷いわ。私、こんなにもシルフ、貴方が好きなのに」
拗ねたように私が答えると、私の機嫌を直してというかのようにシルフが額にキスをする。
こんなもので、それ以上何も言えなくなってしまう私も、大概だと思う。
シルフが好きすぎて、困る。
そこでシルフが、
「妹のことはありがとう。……幸せそうでよかった」
「妹思いなのね」
「……うん、それもあるし、何とかなってよかったと思う。……あのグド王子のことを妹はすごく調べていたから」
「……そう」
シルフは遠い目をしながら言い、私もやけにグド王子に関して詳しかったルナローズのことを思い出すと、そうとしか答えられなかった。
でも、こうしてみんなが最後は幸せになれたのはよかったと思う。
「私ね、物語はハッピーエンドが好きなの」
「うん、俺もだよ」
「……シルフ、愛してる」
「俺もリズを愛してる」
そうお互いにささやいて、私たちはそっと、唇を重ねたのでした。
久しぶりの番外編、いかがでしょうか? お盆休みに合わせて更新してしました。楽しんでいただければ幸いです。
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