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冗談に聞こえたなら……上出来だと思いますわ

 現れた私にコミヤが驚いた顔をしているのに気づく。

 それがおかしくて仕方がない私は、少し性格が悪いのかもしれない。

 けれど、もう、準備は整っていたのだ。


 昨日の時点でどうするか全部決まっていて、後はコミヤと王子が戻ってくるのを待つだけだった。

 そして今、私は傍にヘレンを控えさせて、コミヤと対峙することになっている。


「お久しぶりですわ、コミヤ様」


 そう、すんなり言葉が出た。

 そしてそれにコミヤが一瞬、険を帯びた眼差しで私を見栄うもいつものようにすぐに微笑み、


「あら、公爵令嬢リズ様、お久しぶりですわ。今日は一体どうされたのですか?」

「貴方の本性を暴きに来たのです」

「あら、面白い冗談ですわね」

「冗談に聞こえたなら……上出来だと思いますわ」


 そう返すと同時に、足元で円陣が光る。

 薄紫色のその光は、私の魔力と、そして“祝福”の一部を使っている。

 既にいくつもの国から得ていた情報、それをそれぞれの国とも共有し作り上げたものだ。


 彼女、コミヤを追っていた人々からも情報を得て作り上げた。

 魔力や私の“祝福”の一つでどうにかならないかを調べ、事前に準備をした。

 彼等への情報の対価は、私の“祝福”によりコミヤを捕らえ、ああいった術を見破る道具を作る手助けである。


 それほど難しくもなく、時間もかからないがかなりの量が作れた。

 これからそういった怪物への対処に使われる事だろう。

 そう思いながら、忌々し気に私を睨み付けていたコミヤの顔が、“崩れる”。


「ひぃいいいいい」


 悲鳴が聞こえた。

 見るとグド王子がコミヤを見て悲鳴を上げている。

 周りの貴族たちもざわざわと、お互いに目配せしながら騒いでいる。


 その異常に気付いたのだろう。

 コミヤは周りを見回す。

 だが目を合わすことになった貴族が次々と悲鳴を上げて、時には泡を吹いて倒れている。


 そこでコミヤは自分の一番の“味方”であり“人形”として操れていた王子の方を向いた。

 グド王子は悲鳴を上げてさらに退く。

 コミヤがそこで王子に向かって手を伸ばした。

 

 だが、そこで彼女は気づいたようだ。

 自分の手が、まるで“木の皮”のように干からびていることを。


「何よ……これ」

「貴方の“変身”の魔法を“無効化”しました。意識的に発動させるのは、結構難しかったんですよ? 一晩徹夜しなければいけませんでしたわ」


 冗談めかして私が告げると、彼女は私を睨み付けたようだった。


「お前、なんてことをしてくれたの!」

「まさか、こんな方が紛れ込んでいたと思いませんでしたわ。……人によっては貴方に濡れ衣を着せられて、処刑された方もいらしたとか」

「……何のお話でしょう」

「ちなみに処刑されたと思われていたご令嬢が実は生きていて、その子孫が代々、貴方を追っていたと言ったらどうしますか?」

「!」

「誰もが、貴方を野放しできないと思っていたようですね。……幾つこれまで、国を滅ぼしたのですか? 伝承にも残らない小さな国にも貴方は入り込み、滅ぼしていたのでしょう?」

「……何の話でしょう」

「全部聞いたの。貴方が殺せていたと思った人達が、貴方を決して許さない、そしてこれからも大勢の人間を殺すであろう貴方を野放しにはしないと決めていたの」

「何の、話」


 どうやら本当にコミヤは“分からない”ようだった。

 いつものように、都合よく記憶を塗り替えたのかもしれない。

 口調がとても、本当に知らないかのように“不思議”そうだ。


 本音を言うと正面から見るだけで、怖気を催すような不気味な姿をコミヤはしている。

 枯れたろ老木、その落ちくぼんだ所に瞳が二つはめ込まれている、そんな印象を受ける姿なのだ。

 そこでコミヤが、笑ったようだ。


「ねえ、リズ、どうして貴方はそんな事を言うの?」

「貴方が危険な存在だからよ」

「酷いわ。だって貴方、私の“友達”じゃない」


 突然そんな事を言う。

 だから私は、


「誰が?」

「貴方がよ、リズ、酷いわ。“親友”なのに」

「自分の妄想を信じ込むのはやめて。私は貴方と数度しか話したことはなかったもの。私は貴方と関わりあいたくなかったから」


 そう言い切ると、コミヤは、にたりと笑った。


「私が可愛いから、一緒に居られると困るんでしょう?」

「……前から思っていたけれど、その可愛いって言葉は、皮肉の意味でも使われるって知っている? あまりにも生意気な事を言った場合に、遠回しのいやみで、年齢相応でない、貴方は言ってもどうしようもない駄目な人間ねという意味での皮肉。それが使われたと、気づかなかったの? 貴方がそう、嘆息するようにその人に言われているのを聞いたわ」

「何よ、私は“いい子”なの」

「あまりにも酷い行動をしているから、“いい子”だから止めようね? “いい子”だから出来るわね? と言われてやめるよう仕向けられただけ」


 そう告げるとコミヤは氷ついたように動かなくなる。

 けれどすぐに、


「ああ、私は何て可哀想で不幸なのでしょう。こんなに酷い事を言われて」

「自分が被害者のつもり? 被害者は私よ」


 それに酷いわとコミヤは答えてから、すぐに大きな声で笑った。


「嫉妬しているの! 貴方は私に勝てないと思って、私の方が優れて魅力的だから才能があるから嫉妬しているの!」

「貴方が私をライバル視しているからと言って、私が相手をしているとは限らないでしょう」

「いまさら何を言っているの? リズ、貴方は私が羨ましくて仕方がないのよ!」


 私はここで、この人、面倒くさいと思った。

 会話したくない、そんな気持ちに陥りながら私は、


「私、貴方に初めからほとんど関心がないの。関わり合いたくないなと思っていただけで」

「何ですって?」

「被害妄想もここまで来ると凄いわね。貴方よりも能力のある私が、どうして貴方に関心を持たないといけないの? 相手をして欲しいと貴方は思っているようだけれど、貴方はその段階に自分の実力が達していないのに気づいていないの? 私をまねた所で、劣化コピーにしかならないわよ? 本当の貴方は何処に行ったのかしら」

「何を言っているの! 貴方がまねたのよ! 私を!」

「私を乗っ取って王子の婚約者の地位を手に入れたから、自信を持ったの? 詐欺師としては、一級品だと褒められるわね」


 そう告げると彼女、コミヤはそこで私を見下すように笑いながら、


「貴方、“感情”が“無い”わね。いつも澄ましていて。私が話しかけた時もそうだったわ」


 などと言いだした。

 それに私は深々とため息をつき、


「気づいていなかったようね」

「何が?」

「私、たんに貴方の話を聞いていないだけだったの。興味がなかったから」

「……」

「だって貴方の話、“つまらない”のだもの。嘘か妄想としか言えないような自分の自慢話と、他人の悪口、そして何かを否定する話ばかり。時間の無駄だわ」


 そう告げるとようやくそこでコミヤは沈黙した。

 静かになったことから、他に特に話すことも無いので私は、


「これから貴方を捕らえます。本来は追放の予定ですが、貴方を野放しにするのは危険だと私達は判断しました」

「! 何を言っているの! そんな事、許されるはずがないわ! この私を!」


 そう言って誰かを探すように周りを見回すコミヤ。

 だから私は、


「貴方の仲の良い貴族たちは全員、ここにいないわ。人によっては“治療”も必要だけれど、何名かは現在、国を亡ぼすのに手を貸した罪も兼ねて……洗い出しの最中よ。いつ頃貴方と手を組んだのか、どのような手口を使ったのかも含めて、今後の参考にするのも兼ねて……ね。どのみち他国からただ援助を享受するだけの交渉しかできない者達に表舞台に立つ権利はありません。排除させて頂きました」

「こ……の……」

「貴方は自分よりも愚かな人間しか“使えない”の。それが貴方の敗因。貴方の小さな王国は楽しかったかしら?」


 そう私は微笑んでやった。

 能無し、という意味も込めて。

 そこで、くわっと目を見開いたコミヤが叫んだ!


「馬鹿にするなぁあああああ」


 同時に炎が幾つも生まれて私に向かって放たれる。

 ヘレンが私を庇おうとするが、


「大丈夫」


 以前手に入れた魔石を使って即座に防護する。

 魔力の結晶である石だが、すぐに防御用の物として使えるよう、たまたまその魔石を持っていた私は、私が御嫁に行くはずの“リザール国”の人と話した時にそう言った魔道具を作る人が寄越されたのだ。

 まるで、私が魔石をもっていると知っていたかのように。


 それにそれのおかげでヘレンは魔法系はそこまで得意ではないのだから、上手くいったように思う。

 ただ、一応は魔法を使えないようにする効果もこの魔法陣にはあったのだが、普通に幾らかは使えるようだ。

 それだけの魔力があるのだろうか……そう思っていると、コミヤの口が大きく避けるように二つに割れて、


「……許さない……お前のような女……私よりも上だと言って見下す女は……許さない」


 呪詛を吐き出すような声。

 不気味なその声を発して、そこでミシリときしむような音がコミヤの方からする。

 同時にばらばらと表面の皮膚のようなものが崩れ落ちて、中から黒い靄のようなものが膨れ上がる。


 それは大きな球状の者に赤い目を爛々と輝かせていたが、


「許さない……許さない……」


 不気味な声をこぼしながら、やがて私の身長の二倍もあるような、大きな狐の姿に変わる。

 だが狐と言っても尻尾が一本しかないわけではなく、それこそ九本程度存在しているようだった。

 そこで、遥か東の方の物語で、国を亡ぼすような、美しい女性に変化するバケモノの狐が板といった話を以前何かで読んだのを思い出す。


 これが、そうだったのだろうか?

 そう思っているとそこで、その狐の大きな口が私へと迫る。

 あまりの突然の出来事に、思考が停止するもあわてて魔道具で防御の結界を張る。 

 けれどその結界後と私を喰らおうと襲い掛かってくる。

 周りではほかの貴族達や城の兵、魔法使いたちが攻撃している。

 他国の、コミヤを追ってきたらしい彼等も手助けしてくれているようだが、このコミヤは私を喰らおうとする程度の能力は残ったままであるらしい。


 どれくらい持つだろう、私は魔石の欠片の量を見て、背筋に冷汗が垂れるのを感じる。と、


「下がって。後は僕がやります」


 そういった声が聞こえた。

 懐かしくて安心する声だと私が思うと同時に、白い光の線が上から下へと子の狐の怪物に走り、断末魔の悲鳴が聞こえた。

 左右に分かれるように倒れて、同時に黒い靄のようなものがふわふわと漂ったかと思うと……後には何一つ、コミヤらしきものは残らなかった。


 助かった、と思うと同時に私は、今しがた私を救ってくれた人物を見やる。

 その人物、彼は、大きな大剣を持ちながら私の方を見て微笑み、


「一度くらいは、リズに僕の“いい所”は見せたいな」

「……護衛の我々の気持ちもお考え下さい」


 苦言を呈するクロトに、彼は、笑顔でそう答えた。

 すぐそばにはサナもいたが、私は、その今、怪物を切り伏せた彼に目がくぎ付けになる。

 髪型が少し違うし、自分の事を俺ではなく僕と言っているが、見間違えようのないその姿に私は固まった。


 そこでそんな私に気付いた彼が私に微笑み、


「数日ぶり。約束通り“花嫁”として迎えに来たよ」

 

 そう、シルフは私のよく知っている笑顔で微笑みながらそう告げたのだった。


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