とても幸せな時間
手を伸ばした私をシルフが掴み、そのまま湖の中に。
大きな水しぶきと共に、水が跳ねる音がする。
私は頭から湖の水をかぶってしまった状態だ。
シルフと共に。
運の良い事に岸辺に近いからか、浅い場所だった。
澄んだ水は冷たいものの、今の季節はそこまで寒くなかったのでそれは良かったと思う。
「ご、ごめんなさい」
「いや、大丈夫、この程度は平気だよ」
「私が果実を無理に取ろうとしなければ、シルフは濡れなかったのに」
「いや~、リズ位は引っ張れると思ったけれど、駄目だった。俺も鍛え方が足りないな」
そう言ってシルフは笑いながら髪を一部、手でかきあげる。
水で張り付いた金色の髪が、陽の光で艶めいていて……けれどその髪の形でふと私は、どこかで見た気がした。
それは街中ではなくてもっと別の場所。
何処だっただろうと私がシルフの顔をじっと見ていると、そこでシルフが顔をすっと私から背けた。
どうしてだろうと思って、
「なんで私から顔を背けるの?」
「……一応、リズも女の子だから」
「一応も何も、女の子です。それで、それがどうかしたの?」
「……水にぬれて、服が張り付いたり、透けたりしているから」
そう言われて私は自分の惨状にようやく気付いた。
シルフだって男性である。
そんな相手にこんな……と思うと顔が真っ赤になる。
早くここから出て服を乾かさないと、と私が思っていると、
「服を乾かす程度の魔法は使えるから、早く岸に上がろう。立てる?」
「うん」
頷くとシルフが先に立ち、私に手を貸してくれる。
その手は大きくて、私をしっかりつかむ。
頼もしさを感じながら、私はシルフによく手助けしてもらっていると思ってしまう。
今回の件もしかり、村おこしの件もしかり、シルフに私は助けられている。
私もシルフにもっとお礼が出来れば、と思っていると、
「“暖かき風”」
小さく呪文を唱えて魔法を使う。
シルフは魔法が使えるのを私は知っている。
町人とはいえ魔法を使える人間はそこそこいる。
その中でもシルフは特に才能があり教育を受けた人間ではあるように見えたが、本人曰く、現在進行形で“逃げている”そうだ。
そして実家の手伝いをしているとかなんとか。
それぐらいしかシルフの事は知らないし、なんとなく私は聞きそびれている。
そこで服が完全に乾いたが、濡れた場所が所々しわになっている。
後で事情を話さないといけなくなる、ヘレンに怒られてしまうかもと思っているとそこでシルフがそこで、
「どうする? リズが取り損ねて湖に落ちた果実、少しは採る?」
「……水際ではなくて、もう少し内側の果実にするわ」
そう答えて幾つか摘まんで回収する。
先ほど湖に落ちた際に、摘んでおいた“ロタベリー”は湖の中で散らばってしまったから、違う果実も欲しい。
それから少しずつ複数種類のベリーを採りながら、シルフと他愛のない話をして湖の周りなどを散策する。
私にとってとても幸せな時間を満喫して、最後に再び“ロタベリー”をとって家に戻ったのだった。
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