◆24・言えてにゃい
お猫様とのファーストコンタクトを果たし(?)たものの、実はまだちゃんと《ご挨拶》してないことに気付き、私はてちてちと結界外まで歩き、まずは昨日張った結界の前に更に5×5メートル・高さ10センチの結界を地面に張った。
え? なんで10センチって? 私の場合、結界張るなら「領域」にしないと張れないからだよ。まぁ、ちょっと高さあった方が平らになるじゃない。私は張った結界に一人で「うむうむ」と満足しつつ、ここでお猫様に《ご挨拶》をば……と、お猫様に声を掛けようと振り向こうとしたら……
……既にいた。
「ひぃっ!」
思わず声が漏れてしまったではないか! さっき話してたお猫様『その1』が真横でエジプト座りしていた。
「んにゃ、早速張ってくれたのだにゃ」
「あ、はい、それと……」
私は、お猫様の前で改めて姿勢を正し、
「今日からここに住まわせて頂くリリアンヌと申します。以後、お見知りおきのほど、よろしくお願い致します」
ペコリとご挨拶をした。え? 土下座はしてません。お鹿様に土下座したのは言葉が通じてるか分からなかったからだよ。
「うむ、吾輩はこの森を管理しているケット・シー族だ。長ではにゃいが、この森のケット・シー族のまとめ役にゃどをしている。あそこにいる大きな2人も同じくまとめ役だ。よろしくにゃ」
「はい」
そして、顔上げた私は再度固まった。
さっきまでサイズがちょっとおかしいだけのお猫様だったのに、今は2足歩行型の獣人みたいな体型になっているのだ。え? 最初からこんなだっけ? いや、違うよね? ちょっと縮んでるし……。
「ん? あぁ、もしかして獣人型ににゃったから驚いてるのかにゃ? 普段はこの獣人型でいる方が多いのだ。寝る時や、森を駆ける時にゃどは、先程の獣型の方がいいのだがにゃ」
「そうなんですね」
口を開けたまま固まってしまった私に、お猫様が察して説明してくれた。そういえば『お猫様』ってそもそも『猫』ではないんだよね……と考え始めた私に再度、お猫様が話し出す。
「そういえば……、にゃいと思うが一応言っておく。森の奥、正確には森の奥にある吾輩達の領域には近付いてはいけにゃいぞ。まぁ、領域に入ろうとすると、その前にクー・シーどもが警告するハズだ。万が一、森の奥に入りクー・シーを見かけたら、その先には決して進んではにゃらぬぞ」
「はい。森の奥に行くつもりはないですが、わかりました!」
お猫様が注意事項のようなものを教えてくれた。『クー・シー』って確か犬型の妖精だっけ? と考えながら、元気良くお返事した。
「ああ……でもその手前まで、いくつか結界を張ってほしいにゃ」
「え?」
「うんうん、その時は、吾輩たちが一緒に行って場所を教えるから大丈夫だ。吾輩たちが一緒じゃにゃい時は森の奥に向かわにゃいようにすればいい」
「……はい」
なんだか『結界お張りツアー』が組まれるらしい。まぁ、一緒に来てくれるならいいんだけど。お猫様 『その1』とそんな会話をしていると、
「おや、話し声が聞こえると思ったら……」
そんな声と共にお猫様『その2』が降ってきた。お猫様『その2』はキジ白模様で、お猫様『その1』よりも更に毛が長めのもっふぁもふぁさんだ。
「ん? ここにも結界が増えましたか?」
「ああ、リリアンヌが張ってくれたのだ」
「リリアンヌ?」
「あ、私がリリアンヌです。はじめまして」
お猫様『その1』とお猫様『その2』が会話をしながらこちらを向いたので、お猫様『その2』にペコリとご挨拶をした。
「ふむ……、随分小さな人の子ですね。この子がこの結界の主だったと?」
「そうだ! リリアンヌはここに住みたいらしくてにゃ、ここに住む代わりにこの結界をあちこちに張って貰う約束をしたのだ!」
「ほう……それはいい」
「そうであろう? にゃふふふふ」
「それで? リリアンヌとやらに注意事項は?」
「今はにゃしたところだ」
「そうですか。ではリリアンヌ、結界の件、よろしく頼みましたよ」
「はい」
お猫様『その2』はそのまま新しく張った結界の上でゴロニャンし始めた。の〇太君並みの速さで《すやぁ》された。警戒心とかないんだろうか……。それにしても、お猫様をずっと、お猫様『その1』とか『その2』とか呼ぶのもどうなんだろうと思い、思い切って名前を聞いてみる事にした。
「あの、お猫様のお名前を聞いてもいいですか?」
「にゃ? にゃまえにゃんてないぞ」
え? そうなの? 仲間内で呼び合ったりしないんだろうか? まぁ、人ではない種族だとそんなものなのかな……なんて考えていると……
「付けたいにゃら付けてもいいぞ」
……と言われた。え~? それは何だかちょっと……そういう『異世界のお話』とかイッパイあったけど、そこまでテンプレ要らないなぁ……と、聞かなかったことにしようかなと考え始めたところで、お猫様の『ドアップ』を食らった。
「ひぃっ!」
思わず漏れた私の悲鳴もなんのその、お猫様はつぶらな瞳を超至近距離でギラギラさせている。怖い、怖い、怖いから~。
「付けたいにゃら付けてもいいぞ」
超至近距離のまま、もう一回言われた。圧が酷い。
「…………。じゃあ……ナツメで……」
我ながら安直過ぎて酷いとは思う。でも『名前がない一人称が「吾輩」の猫』と言えば、他に浮かばない。『珍野』にしなかっただけマシだと思ってほしい。
「ニャツメ……」
あ、ダメだ……。言えてないじゃん。
「いえ、やっぱり今のはナs…「気に入った! 今から吾輩は『ニャツメ』だ! この大陸では聞きにゃれにゃい響きが特にイイ!」
「やっぱナシ」と言う前に、気に入られてしまった。しかも自分で自分の名前を言えてないのに……。
なんかごめん……。




