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◆145・小さな花にも棘がある


「ロイド様、おはようございます」

「おはよう、一緒に行くのはレイ殿とナツメ殿だけか?」

「はい、とりあえずは」

「とりあえず?」



 何かあれば、猫妖精が行き来することもあるかもしれないからね。

 現在、私たちは、ロイド様との待ち合わせ場所である宿屋にやってきていた。

 ロイド様と共にデルゴリラの所に行くのは、ロイド様の側近であるハインリヒさんとブラッドリーさん。そして、私とレイとナツメさんだ。

 赤き竜のメンバーであるミルマン兄さんたちは、この国所属のレギドール騎士団の人たちと共に、デイジー捜索に行っているらしい。



 アルトゥ教教会までは、レギドール騎士団の人が用意してくれたという馬車で行くようだ。

 私とレイは、この時点から認識遮断魔法を使用し、姿を消しておく。

 とは言っても、ロイド様にだけは、普通に見えているようだけど。

 そんな私たちを乗せた馬車は、しばらくすると、アルトゥ教教会へと到着した。

 教会に着くと、修道士っぽい服を着た男性に出迎えられ、ロイド様たちの装備が没収されたあと、デルゴリラがいるという部屋へと案内されることになった。

 相手が他国の皇子であるなら、本人が出迎えたりするのものではないんだろうか……なんて思いつつ、静かにロイド様たちの後ろを、浮遊しながら付いていく。



 しばらく行った先の、とある部屋の前で止まった案内人の誘導により、部屋の中へと入るロイド様たちに続き、私たちもスススと素早く部屋の中へと入る。

 すると、まるでそれを待っていたかのようにして、扉が閉められた。

 それと同時に、部屋の両脇から薄紫色の靄が勢いよく吹き出してきた。



「――ッ!?」

「何だっ!?」

「にゃ?」



 これは――。

 発生する靄に既視感を覚える。しかし、まずは目の前の靄だ。

 見るからに怪しいので、そんなものは『防ぐ』の一手に決まっている。



「〈結界っ〉!」



 まずは、ロイド様たちと私たちを囲む結界を生成。

 次に、部屋全体を覆うように、結界をもう一枚張る。

 部屋の中にいる人間を逃がさないためだ。

 それから、部屋の中に立ち込める靄の除去をする。



「〈エア・クリーン〉」



 部屋に充満していた靄がみるみる消えていき、視界がクリアなものになっていく。

 部屋の奥には、濃紫色のフード付きローブを身に纏った男性と、白い法衣のような服に金ピカの宝飾品をゴテゴテとぶら下げている剃髪の男性……剃髪か? 剃髪の男が、口布を着けて立っていた。

 二人が着けている口布は、昨晩、第二部隊の人たちが、睡眠効果のある靄を吸い込まないように着けていたものと同じであるように見える。

 薄紫色の靄が発生した時にもしやと思ったけれど、先ほどの靄は、第五部隊の駐屯地内で発生していた靄と同じものではないだろうか。

 だとすれば、第五部隊の駐屯地が襲われたのも、デルゴリラの指示だったのかもしれない。



 ――デルゴリラァァァ……!



 流石にこれは、リリたんもプッチン怒リンだぞ!

 一体、どれだけやらかそうと言うのか。

 まだ名乗りを聞いていないけれど、どう見ても白法衣の頭ツルツル男がデルゴリラだろう。まぁ、違ったところで、目の前の二人が敵であることに変わりはない。

 てか、こんなあからさまに、『オラたちが犯人でござい〜』と言わんばかりの状態で待ち構えていたとか、正気かっ!?

 沸沸と煮え滾る感情と、呆れが綯い交ぜになったかのような複雑な心境を味わっていると、眼前の二人から慌てふためくような声が聞こえてきた。



「――なっ! 靄が消えた!?」

「おい、ヴァレリオ! 誰も眠っておらんぞ!」

「………………」



 恐らく、自分たちの不意打ち作戦が失敗することなんて、微塵も予想していなかったのだろう。けれど、それにしたって、お粗末過ぎやしないだろうか?

 ほぼ自白してますやん。大体、攻撃を仕掛けるならば、それを防がれることも考慮して然るべきであろうに、一体、何を狼狽えているんだろうねぇ。

 何にせよ、いきなり攻撃をしてきたのだ。

 ならば、これはすでに、証拠など必要のない捕縛案件。

 いや、むしろ、その言動こそが証拠の、ギルティ オブ ギルティ!

 現行犯逮捕でござる!



「〈ソーンバインド〉」

「「い゛ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」」

「――!?」



 デルゴリラと思われる白法衣の男と、ローブの男を、植物魔法でぐるぐる巻きにして拘束する。

 巻き付けた蔓に、()()()()()棘が付いているのは、ご愛嬌ってものだ。



 ――あ、一応、鑑定しておこう。



――――――――――――――――

 ◆ズーク・デルゴリア(43)


 [種族]人族

 [MP]2,700/2,900

[スキル]ー

――――――――――――――――

 ◆ヴァレリオ・デステ(31)


 [種族]人族

 [MP]5,000/5,300

[スキル]扇動

――――――――――――――――



 うむ、やっぱりデルゴリラだったか。

 あ、デルゴリア……。うん、どっちでもいいか。

 ローブ男の方はよく分からないけれど、魔法師っぽい感じだ。

 スキルが怪し過ぎて、諸悪の根源説が浮上だよ。

 まさか、この人が例の強制隷属魔法をルー兄たちにかけていたりした……?



「ぐぎゃっ、ぎぎぎぎぎぎぃっ!」

「ぎぎゃっ……、がっ! い゛ぎぎゃ……」



 あれまぁ、思わず、巻き付けた蔓を締め付けてしまったかな?

 たとえ、魔法師違いであったとしても、すでに真っ黒くろくろな敵判定済みなので、問題なかろう。誤差だよね? 誤差。



「ぎっ、や゛めっ……! お゛の゛れっ……」

「な゛じぇ……、魔法がっ、発動じな゛っ……、ぐがっ!」



 拘束した二人が五月蠅いので、二人を囲むように遮音の結界を張る。

 もちろん、デルゴリラたちが逃げられない仕様にもなっている結界である。

 デルゴリラとローブ男が結界の壁面に触れると、ビリビリしちゃうかもしれないし、しないかもしれないね?

 ロイド様がチラチラとこちらを見てくるけれど、無言で満面の笑みを向けておく。



 ――何か?



「一体何が……」

「殿下……?」

「…………さ、さぁ? 私にもちょっと……」 

「うわぁ……、ちょっとずつ食い込んでない?」

「にゃ……、棘もちょっとずつ伸びてるようにゃ……?」



 戸惑いの表情で、ロイド様に説明を求めるような視線を送るハインリヒさんとブラッドリーさん。

 拘束されたデルゴリラとローブ男を、まじまじと観察するレイとナツメさん。

 みんながそれぞれに何かを言っているようだけど、何のことだろうねぇ……と、みんなの声を聞き流しながら、〈MAP〉スキルを発動し、間取りを確認する。



 大体、状況的に、デルゴリラたちは、ロイド様たちに攻撃を仕掛けた時点で、即座に『斬り捨て御免!』とされてもおかしくなかったはずなのだ。

 それを、ちょっときつめに拘束した程度で、何を喚くことがあろうかって話よ。

 むしろ、こんなに優しく対処してあげていることに、感謝してもらいたいほどである。



 そんな感じのことを呟きながら、〈MAP〉で確認した奥の部屋へと続く扉へと向かう。

 間取り的に、ここは前室っぽい所だ。

 この部屋の奥に大きな部屋があり、更にその奥に小部屋がある。

 小部屋からは細い道が伸びていて、それを辿れば、あの地下施設へと続く通路と交差する。

 地下施設へはあとで行くこととして、まずは奥の部屋を調べようと、扉に手をかけた。

 扉を開けると、アーマー姿の騎士が数名、部屋の中にいるのが見えた。

 あっ……と思ったけれど、すでに扉は開けたあとだ。

 もう一度閉めるのもなぁ……と思って、しばしフリーズする。



「猊下っ!?」

「枢機卿猊下っ!」

「ヴァレリオ殿!」



 おやおや、騎士たちに、拘束して転がしたデルゴリラたちを見られてしまった。

 しかし、騎士たちには、この部屋で騒がしくしていた音が聞こえていたはずである。なのに、出てこなかったということは、事の次第を把握した上で、拘束されて騒いでいたのがロイド様側であると勘違いしていたのではなかろうか?



 ――つまり、この騎士たちも敵である!



 私やレイ、ナツメさんが見えていない騎士たちには、デルゴリラたちを拘束したのがロイド様たちであると思われているのだろう。

 ロイド様たちに向かって、一斉に駆けてくる騎士たち。

 手には抜剣した剣。

 臨戦態勢を取るロイド様たち。

 それらを横目に、私は騎士たちに向かって氷結魔法を放った。



 ――《キーンッ》



「あらら、加減間違えた?」

「にゃははっ、部屋ごと凍ってしまったぞ?」

「あれれ~? おっかしいな~? 足元だけ凍らせるつもりだったのになぁ~」

「「「………………」」」



 やってしまったものは仕方ないよねと、気を取り直し、余分に凍らせてしまった部分の氷を溶かしたあとは、若干(?)衰弱したかのような騎士たちを植物魔法で拘束していく。

 音が聞こえずとも、ロイド様たちが何もしていないことは一目瞭然である中で、騎士たちが凍り、拘束されていく様を見ていたらしいデルゴリラとローブ男は、顔を青褪めさせながら、体からいろんなものを垂れ流し、意識を飛ばしてしまったようである。

 何だか汚かったので、クリーン魔法だけはかけておいてあげることにした。



 キレイ、キレイ、ヨカッタネ――。



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― 新着の感想 ―
棘付きの蔓でキツく縛り付けられながら、美幼女に蔑まれた目で見下ろされる。 ……人によっては御褒美にしかならないんだろうなぁ(汗
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