◆144・決戦は明日
副隊長さんに運ばれる私に付いてきたのは、ナツメさんとクロ。
レイは私が抱えていたので、一緒に運ばれてきた。
アルベルト兄さんは仲間の様子を見るために広間に残っていて、小雪ちゃんとアオくんはアルベルト兄さんと一緒だ。
「さて……」
副隊長室に連行され、ソファに降ろされた私は、何を聞かれるのかと固唾を呑んだ。
しかし……。
「今回の件もそうだが、お前さん、アルベルトのことを助けてくれたんだってな。ありがとうな」
「ああ、いえ、はい……」
私や猫妖精たちのことを詳しく聞かれることもなく、お礼を言われただけで、ちょっぴり拍子抜けしてしまったほどである。
その後も聞かれたのは、滞在先は近いのかとか、宿代はどうしているんだとか、良ければ滞在先を用意するぞ……とかで、ワイルドな見た目に反して、とっても気遣い溢れる、世話焼きさんだったらしい。
そんな感じでしばらく話したあと、「ちょっと待っててくれ」と言って、部屋を出ていった副隊長さん。話している最中に何度も手を伸ばそうとしては引っ込め、伸ばそうとしては引っ込めを繰り返していた、革張りの小箱みたいなのを持っていったので、煙草を吸いに行ったのかもしれない。
鑑定さんの備考欄に『ヘビースモーカー』って書かれちゃってたくらいだからね、かなりの愛煙家なのだろうけれど、私の前では吸わないように我慢してくれていたのだろう。
まぁ、私の前で吸わなくても、この部屋が煙草くs……。
「………………〈エア・クリーン〉」
「にゃ? 部屋のニオイが変わったぞ?」
「うん、消臭してみた」
勝手に部屋の消臭をしちゃったけど、問題ないよね? もう、やっちゃたし。
それにしても、不自然なくらいに詮索されないのは、アルベルト兄さんの説明によるものだと思うのだけど、一体何を言ったのやら……。
それはさておき、明後日、あの地下施設に監禁されている子供たちを保護しに行ってくれるはずの第五部隊がこんな状態で、予定通りに作戦実行できるのだろうか?
とりあえず、子供たちの救出について、副隊長さんが戻ってきたら聞いてみ……y…………《すやぁ……》――。
…………もふもふ。…………もふもふ。
「ん? 起きたか?」
手の平にもふもふの感触を感じながら、そのもふもふに顔を埋めてみる。
誰かの声が聞こえた気がするな……という思考を始めたことで、自分が寝ていたことに気が付いた。
ぽやぽやとしながら目を開け、辺りを見回す。
目の前には黒毛と黒毛。小さく白い毛玉に、ぽよぽよの水色と桃色。
うん、これは、いつも通り……、いつも通り? うん、いつも通り。
猫妖精とレイ、スライムたちに囲まれて、どこぞの部屋のソファにいるようだ。
対面のソファには、座ったままで眠っているらしいアルベルト兄さんと、小雪ちゃんにアオくんがいる。
「…………どこぞね、ここ……」
「副隊長室だよ」
「ああ……、おはようございます?」
「ああ、おはよう」
そう言えば、そうだった。
副隊長さんが部屋から出ていって、その間に考え事をして……、その間に寝落ちてしまったんだろう、多分。で、朝まで寝てしまったと……。
まぁ、寝ようとしていた時に呼ばれたからね。ずっと眠かったし、仕方ない。
それより、寝落ちる前に何考えてたっけ……。
昨夜のことを思い出そうとしていると、私のお腹から《きゅるるる……》という音が鳴った。
「………………」
「今は、これしかないんだが……」
そう言って、副隊長さんから差し出されたのは、籠に入った棒状の何かだった。
美味しそうな匂いが微かにしているので、食べ物だと思われる。
鑑定しようかと思ったけれど、目の前に副隊長さんがいるので、スキルの使用は控えることにした。
まぁ、魔法はバンバン使ってしまったので、今更かもしれないけど……。
「にゃ? これは、『チーロ』だったか?」
「チーロ?」
「ああ、リビエスで人気の菓子だ」
――あ、お菓子なんだ?
てか、ナツメさん、いつの間に起きたの?
もしかして、食べ物に反応して起きた?
「チーロは久方ぶりに見たにゃ。いただくとしよう」
「私もいただきます」
見た目は、ちょっと太めの木の枝っぽい。触感はちょっと固めだ。
ステッィクパイみたいなものだろうか?
チーロとやらを齧るナツメさんを見ながら、同じように齧ってみた。
――うん、美味しい。
食パンの耳をカリッカリに焼いたみたいな感じだ。
チーズの風味がして、なぜかベーコンと目玉焼きがほしくなる味である。
てか、これは口の中の水分を全部持っていかれるね。
スープか飲み物……と、バッグを漁るフリをして、アイテムボックスを漁る。
ミネストローネ……、クラムチャウダー……、ポトフ……、ポトフもいいね。
う~ん、でもやっぱ、オニオンスープかな。
オニオンスープにチーロを浸して、チーズを追加し、軽く炙ればオニオングラタンスープに!
――よし、これでいこう。
しかし、大鍋に入ってるやつしかないね。
仕方ないかと、鍋と器を出していく。
「にゃ? 煮込み料理か?」
「スープだよ」
「スープか……」
「いらない?」
「にゃっ、いるぞ!」
「それ、マジックバッグだったのか……」
「副隊長さんもスープいります?」
「あ、ああ……」
ナツメさんと副隊長さんにもスープを用意する。
二人の分も、オニオングラタンスープ風にして渡すことした。
ナツメさんには、熱いかもしれないけど……。
「あちっ、あちっ、にゃふー!」と、猫毛を逆立てながらもスープを口にするナツメさん。
そんなナツメさんを見ながら、もぐもぐと食事をしている間に、副隊長さんに聞きたかったことを思い出した。
聞きたかったのは、地下施設に監禁されている子供たちのことだ。
予定では、明日、ロイド様がデルゴリラと会っている間に、第五部隊の人たちが救出に動いてくれるという話だったのだ。
でも、第五部隊の駐屯地が襲われるという事態が発生――。
しかも、襲撃者は同じアルトゥ教の聖騎士。
アルトゥ教の人たちには、本当に思うことが多々あるのだけど、それはさておき、今聞きたいのは、子供たちの救出作戦が実行されるか否かである。
そのことに関して、副隊長さんに聞いてみたところ、救出作戦を指揮するはずだった隊長さんが動けなくなったので、副隊長さんが動ける人を連れて、作戦を実行するとのこと。
まぁ、何人かは、捕まえた第二の人たちへの対応のために残るみたい。
襲撃理由が判明するまでは、第二の人たちを捕まえた事実は伏せるようだ。
地下施設の件に関しては、アルベルト兄さんの意気込みが凄まじく、第五部隊の者が誰も動けなかったとしても、一人ででも乗り込んでいきそうな様子であったらしい。
「アルベルト兄さん……」
子供たちが心配という気持ちも当然あるのだろうけれど、やっぱり、ルー兄のことを気にしているのだろう。
地下施設でアルベルト兄さんが言っていた言葉が蘇る。
『罪を犯した者は、誰一人として逃がさない。相手が誰であろうと、必ず……』
――そうだね、敵は全員、捕まえよう。
全ては明日だ。
待っていろ、デルゴリラ――!
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「ヴァレリオ! 第二の奴らはまだ戻らんのかっ!?」
「ええ、まだですね」
「まったく、もたもたと……」
「いっそのこと、第五の者と一緒に、第二の者たちも魔石にしてしまいますか?」
「……いや、動かせる手足はまだ必要だ」
「そうですか? 第五の者と第二の者、それに孤児たちも集めれば、もう必要な魔力は貯まると思いますが」
「真か?」
「ええ。……ああ、そういえば、明日、ロンダンの者が来るのでしたか? その者たちも魔石になさるおつもりなのでしょう?」
「それは、話の内容次第と考えていたが……」
「そうですか? ロンダンの者たちの分も足せば、きっと事が成せますよ?」
「――っ、そうかっ! ならば、そうしよう!」
「ふふふっ、明日が楽しみですねぇ」
ああ、本当に楽しみだ。
ここまで来るのに、一体どれだけの時間と労力を費やしたことか。
だと言うのに、第五の奴ら……。
コソコソと孤児の行方を探ろうなどと、余計なことを!
以前、孤児院を嗅ぎ回っていた奴は、傀儡人形に処理させたはずだが、別に動いていた奴もいたということか?
本当に、目障りな奴らだ。孤児など気にして何になる。
しかし! もうすぐだ。
あとは、邪魔者を消すだけ。
その邪魔者も、計画の一部として役立ててやるのだ。
金竜様に捧げる供物のために、贄となれることを感謝してほしいものだな、ふははははっ!




