第320話 エピローグ
「職業スキル【絶望エデン】」
スカレットがスキルを発動すると同時に、彼女の身体から大量の黒い煙が溢れ出す。
その溢れ出した煙は具現化されて目に見えるようになった災厄、触れたら最後その者には永遠に幸福が訪れない不幸の塊であった。
本来の職業【パンドラ】では、同じように絶望を具現化した煙を放てる。
しかしそれはあくまでもけん制技としてであり、距離も時間も、あくまで瞬間的に放たれる代物でしかなかった。
「さぁ、広がれ! 拡散がれ! 伝播がれ!
この世の全てに絶望を届けろ! 絶望に染め上げろ!」
だがしかし、【世界球体】をぶつけ合って呪い合う蟲毒によって生まれた、今のスカレットの職業はその程度の代物ではなかった。
「覚醒せよ、【パンドラの箱】。いや----私が生み出した最凶の絶望神パンドラ・オルタ」
スカレットがその名を呼ぶと共に、彼女の身体から噴き出す煙がより深く、そしてより濃く、世界へと放たれていく。
そもそも『パンドラの箱』に関するお話とは、その箱を預かっていたパンドラという神が開けてしまったため、世界に災厄が広まったという話。
パンドラは預かっていた箱を開けただけで、パンドラは最悪や最凶とは全く関係ない神である。
職業【パンドラの箱】を授ける神に選ばれた神パンドラも、パンドラが悪いみたいな風潮が世界に広まっているからやっているだけであった。
その主典を、スカレットは【世界球体】をぶつけ合う事で、歪めた。
たまたま開けてしまったというパンドラ神という主典を、そもそも災厄をもたらしたかったという方向へと変えたのだ。
オルタ、オルタナティブ。
もう1つのパンドラ神。
こうして生まれた職業【パンドラの箱・オルタ】には、制限がない、いや歯止めを効かせる者が居なくなったというべきか。
職業は制限なく、どこまでも絶望を広める災厄を届ける職業へと変わった。
災厄は、伝播する。
空気が、水が、元素が、魔力が、存在が、認識が----この世のありとあらゆるものが、彼女のスキルによって災厄へと変化していく。
----世界は、災厄に包まれた。
「さて、では続いて希望を持たせよう。
----職業スキル【箱の中の希望】」
世界を災厄で満たした後、スカレットは今度は別のスキルを発動する。
それは『パンドラの箱』の物語と同じく、災厄が詰まっていた箱の底には希望があったという伝承と同じく、絶望をまき散らした彼女は同じように、今度は希望を巻き散らかした。
ただし、それは一部の制限を設けた。
希望を受け取ることが出来るのは、彼女の仲間、彼女の信奉者のみ。
自分の味方のみ、特権階級者のように幸福を享受するようにしたのだ。
そしてそれは、人だけに留まらない。
彼女が所有しているレムリア大陸、そこにある空気や魔力、認識と存在----彼女にとって都合がいいモノだけは、何もかもうまくいく、祝福を与えられたのである。
世界規模の、幸福と不幸の再分配。
しかもそれは、スカレットにとって都合が良すぎる再分配。
「これが、私の【街】としての完成系。
----私達だけが、【街】に住める、選ばれた者達なのよ」
かくして、【街】はこの世を完璧に支配したのであった。
《9章 完》
(※)パンドラ・オルタ
【パンドラの箱世界】を呪い合わせることで誕生した、もう1つの可能性から生まれたパンドラ神。箱を開けてしまっただけの主典とは違い、災厄を世界へと広げることを主目的にする災厄の神
スカレットの職業【パンドラの箱・オルタ】の神でもあり、世界への影響度などが主典だった頃よりも出力が段違いに大きくしている
(※)完成系の【街】
【パンドラの箱・オルタ】により、世界はスカレットにとって都合がいい世界へと、現実改変が行われた
この世界においては人も物も、大陸や空間ですら、スカレットとその味方のみが幸福と祝福を享受し、それ以外の者達は不幸と災厄だけが待っている
自分達は整備された街に住み、それ以外の者達は何も整備されていない野生でしか暮らせなくなる世界----それこそが、スカレットが思い描いた【街】としての完成系である




