第286話 回帰ダブルエムVS空海大地(4)
レベルと言うのは、あくまでも目安であり、絶対という訳ではない。
同じレベルであったとしても、そこには大きな差と言う物が存在する。
哺乳類という同じ括りであっても、『象』と『ネズミ』、どちらが強いのかなんて分かり切った事だ。
空海大地と天地海里の2人の強さは、圧倒的すぎる。
2人に対して、ダブルエムでは、同じレベルⅩであったとしても、まともに戦えば負けるのは目に見えていた。
----故にだからこそ、絶望スカレットは、回帰ダブルエムに対して【抜刀】という職業を作り出して、彼女に与えた。
空海大地と天地海里、2人のステータス全てに勝つ必要はない。
体力も、防御力も、素早さも、全てが彼らに秀でている必要はない。
ただ一点----相手の防御力を貫くだけの威力を放てれば、それで良い。
「それこそが、この【抜刀】という#職業 の力。
----#絶望スカレット様 からいただいた、この最強の威力を誇る職業で、あなた達を殺す!」
ダブルエムは斬撃を再び剣に集めると、そのまま振り下ろしてくる。
「----【抜刀】術、究極奥義【必殺技】!」
----ぶぉぉぉぉぉぉ!!
しかし、その斬撃は、突如として吹きすさぶ大風によって、霧散する。
集めていた斬撃が、強力な風によって、残らず吹っ飛ばされていたのだ。
「「斬撃を集めて操ると言うのなら、その斬撃すら風によって吹っ飛ばさせてもらおう! そう、この最強勇者2人の合体系、マイマインがな!」」
「……私の職業の#弱点 を突かれてしまいましたね」
斬撃を物体として操作して、相手を斬る【抜刀】。
故に斬撃がなければ、この職業は全く役立たずである。
空海大地と天地海里----マイマインはそれを悟って、斬撃を風で吹き飛ばしたのである。
「(#最強の威力 とは言っても、それは#通常時の威力 の話。透明にして気付かれないようとなると、空海大地達を倒すには#最低でも 10個以上の斬撃を重ね合わせなければならない。その基となる斬撃たちが、全て風によって、どこかに行ってしまった)」
斬撃を操作する能力と言えども、その範囲には限りがあり、物体化させて置いた斬撃たちは、先の強風によってもはや手の届かない彼方へと飛ばされてしまっている。
今から無駄に斬撃を増やそうと、剣を振ろうとも、突風によってまたしても吹き飛ばされてしまうだろう。
事実上、【抜刀】の能力を封じられたのも同じだ。
「「諦めて、救われてくれ、ダブルエム! 俺/私は、お前を助けるために、お前と戦う!」」
「----舐めないでください、マイマイン」
ダブルエムはそう言って、武器を捨てて、マイマインをジッと睨みつける。
「あなたが勇者2人の力を1つにするなら、こちらは魔王2人分です」
ダブルエムの瞳が怪しげに光り輝いたかと思うと、彼女の頭に2本の角が伸びていた。
その2本の角は左右で明らかに違っており、左のどす黒い角は蜷局を巻いており、右の白い角は下を向いていた。
「「魔王2人分……お前の身体に居るという、魔王の事か」」
それについては、赤坂帆波から聞いていた。
【三大堕落】の面々は、赤坂帆波が異世界から戻る際に連れ帰った者達。
彼女達には精神的に大問題を抱えており、そして1人につき魔王3人が体内に潜んでいる。
【三大堕落】の【不老不死】担当であったダブルエムにも、当然ながらその身体の中に魔王3人がいる。
そのうちの1人、魔王シルガは倒した。
しかしながら、ダブルエムの身体の中には、まだ、魔王が2人分残っている。
「この#2本の角 はそれぞれ、私の身体の中にいる#魔王の角。この#2本の角 が出た時点で、あなたは#敗北決定 です。
この#最凶最悪 #卑怯上等 な2本の角の力でね!」
そう力強く彼女が宣言すると共に、マイマインとダブルエムが光に包まれる。
ダブルエムの身体は白く輝き、そしてマイマインの身体は黒く輝く----そして、マイマインは、自分の力が、ダブルエムに強制的に流れていることを悟った。
「「強制的な能力値減少、そしてその分の能力値上昇……って、ところか?」」
「えぇ、#まさしくその通り。驚きましたよ、これは#魔王専用スキル で本来ならば、軍や世界相手にするレベルのスキルが、あなた達、たった2人の分を吸い上げるので手一杯とは」
----左の角は、【虐待の魔王ガルダーグ】。能力は敵対対象のレベルをⅠにする【弱い者いじめ】。
----右の角は、【乞食の魔王ジュディアス】。能力は相手が弱くなった分、自らの力として回収する【強度徴収】。
魔王専用スキルに相応しい、凶悪なスキル。
本来は魔王に相対する全ての者達を対象としているスキルなのだが、そのスキルがマイマインたった1人を相手取るのに精一杯なのは、マイマインの規格外れな力の証明ともなっているが。
----ともあれ、スキルは2つとも発動している。
マイマインはレベルⅩからレベルⅠへと大幅に弱体化されており、その弱体化してしまった分はダブルエムへと流れ込んでいた。
実質、マイマインは伝説の勇者装備から見習い冒険者レベルにまで弱くされ、ダブルエムはいつもよりも遥かに強力な存在となっている。
それは、強制的に相手をレベルダウンさせて、その分だけ自らはパワーアップするという凶悪なコンボ。
「あなたの勝ち目はもうない。赤坂帆波様ですら、直接倒す事は出来ず、搦め手ですら倒せなかったのですから」
「「教えてくれて、ありがとう。どうやら俺/私のスキルが効いて来たようだな! ----俺/私のスキル【絆の世界】がな!」」
「……【絆の世界】?」
ダブルエムは知らなかった----その【絆の世界】は、とてつもなく恐ろしいスキルなのであった。
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【絆の世界】 マイマイン専用スキル
空海大地と天地海里の2人が合体した事で生まれた、マイマインの専用スキル。周囲にいる者達に対して発動するパッシブスキルであり、どんなスキルでもこのスキルを上書き・阻害する事は出来ない
周囲に居る者達に自らとの絆を上げ続ける。簡単に言えば、近くに居れば居るほど、マイマインの事を仲間として好きになっていく
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それはマイマインから言わせてもらえれば、近くにいる者と絆を深める親交のスキル。
----ダブルエムから言わせてもらえれば、ただの洗脳スキルである。
(※)【虐待の魔王ガルダーグ】、【乞食の魔王ジュディアス】
ダブルエムの身体の中に居る2人の魔王。意識はほぼなく、ダブルエムには能力だけ使われている状態にある
敵対対象のレベルをⅠにする【弱い者いじめ】スキルを持つガルダーグと、相手が弱くなった分、自らの力として回収する【強度徴収】スキルを持つジュディアスの、対象を弱くしたり、弱くなった相手に効果を発揮するタイプの魔王2人組で、同時に発動する事で圧倒的優位に立つことが出来るようになる
この2人の魔王を倒した赤坂帆波も真正面からは倒せず、搦め手を用いて倒したほど。ちなみに決まり手は、ガルダーグ相手には【棒倒しで勝利】、ジュディアス相手には【にらめっこで勝利】など、随分と子供っぽい性格の魔王であった
マイマイン「「絆を深めて、仲良くなる! それがこの戦闘における最適解!!」」
ダブルエム「いや、ただの#洗脳 ……」




