第130話(真実編) 【三大堕落】の創設者・赤坂帆波
ある所に、剣と魔法の世界がありました。
そこには大小合わせて7つの大陸があり、大陸には無数の魔王が己の覇を競い合い、常に争いを続けていた。
その無数にいる魔王のうちの1人、魔王ノウムは異世界から勇者を召喚した。
自分以外の魔王を滅ぼす、魔王の天敵である勇者を。
そして、そんなノウムが召喚した勇者こそ、赤坂帆波という女子高生。
後に【三大堕落】のメンバー4人を連れてこの世界へと帰還する者である。
彼女はノウムから、勇者としての使命を命じられた。
ノウム曰く、「この世界から自分以外の魔王を消し去り、領土を献上せよ」と。
赤坂帆波はその申し出を速攻で了承した。
普通ならごねたり、説明を求めたりするのだろうが、彼女はそれよりも早く自分が居た元の世界へと帰りたかった。
だから、とっとと行動に移すことにした。
そして、僅か1年足らずで、ノウムを除く107人の魔王をこの世界から消し去り、彼らが支配していた領土を全て丸っとノウムへと引き渡した。
実に優秀過ぎる活躍を見せた彼女をノウムは「自分の配下にならないか」と誘うも、彼女はそれを見事なまでに断って、元の世界へと帰った。
その際に、4人の奴隷を連れ帰ったことを、ノウムは知らなかったのだが----。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
赤坂帆波が連れ帰った、4人の奴隷。
彼女達が奴隷を4人も連れ帰ったのには、訳がある。
彼女達4人はごく普通の人間ではあったのだが、赤坂帆波が倒したうちの12人の魔王が4人の中に入り込んだのだ。
つまりは、1人の奴隷の中に、3人の魔王が入っているということである。
あまりにも強すぎる力を持つ赤坂帆波に消されないために、魔王達は奴隷の中で融合したのである。
狂暴凶悪な魔王の魂、それも3人分も体内に宿してしまった4人の奴隷達。
あの世界に取り残したままだと迫害とかをされるかもしれないと思い、赤坂帆波はこの世界へと連れ帰ったのである。
「(さて、どうするべきか?)」
連れ帰った……連れ帰るしかなかった4人の奴隷をどうするか、赤坂帆波は迷っていた。
彼女達は奴隷として育て上げられ、奴隷として指導られた。
命令に忠実に、ただ道具として作り替えられた人のなり損ない----それが奴隷である。
もし仮に冗談であろうとも「ちょっくら死んでみてくれない?」と言われれば、彼女達は迷うことなく自殺するだろう。
また、命令を一切しなければ、「呼吸をしても良い」という命令を受けていないと言って呼吸困難で死ぬだろう。
人間としての"生きる"という生存的な本能よりも、道具としての機構を遵守する存在、それが彼女達、奴隷なのである。
そして、赤坂帆波は彼女達に人間として生きて欲しかった。
彼女達をこの世界へと連れ帰ったのは奴隷の役割を果たして欲しかった訳ではなく、魔王の力を無理やり注ぎ込まれた可哀そうな者達として、この世界に連れ込んだだけなのだから。
「(でも、普通の命令だったら、卒なくこなしちゃうんですよね)」
奴隷として生み出された彼女達は、普通の人間よりも頑丈で、そして多少の事程度ならば出来るように作り出されている。
そして、魔王3人分の力を宿しているため、その分だけ強くなっている。
多少程度の命令ならば、すぐさまこなしてしまうだろう。
「(出来れば、彼女達には自分の考えを持って欲しい。人間として、考える力を養って欲しいんだよね。
……あっ! そうだ!)」
そこで、赤坂帆波は考えた。
魔王3人分の魂と力を与えられた、道具のような考え方しか出来ない奴隷達に。
人間としての考え方を持つ、ごくありふれた人間としての生き方をさせる方法を。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----と言う訳で、君は本日より【青春】担当だからね」
「はへっ……?」
四大力を超越した四大力【オーバーロード】という力を持つ日野シティーミティーは、"マスター"の赤坂帆波からの命令に困惑していた。
いきなり部屋に呼び出されたかと思ったら、「今日より日野シティーミティーちゃんは【青春】担当だからね」と言われても、びっくりするしかないだろう。
「えっと、"マスター"? 【青春】担当って、どういう意味でしょうか?」
「言葉通り、シティーミティーちゃんには【青春】をもって、私を骨抜きに、堕落して欲しいと思ってるんですよ」
説明をしてるみたいだが、まったく説明になってない説明に、困り果てる日野シティーミティー。
「私はね、シティーミティーちゃん。君達には人間として、ごく当たり前の生活をして欲しい。けれども、奴隷として教育られた君達が、そんな簡単に人間になれる訳がないという気持ちも分かる。
だから、君達には、その奴隷としてのハイスペックな身体と、3人の魔王の力をもってしても、簡単に遂行できない命令を思いついたんだよ」
「それが、【青春】?」
「そうだよ」と、赤坂帆波はそう答える。
「人間は楽をしたい生き物だ、私はそう考えている。そして君達には"マスター"であるこの私を、のんびりダラダラさせるために、思いっきり甘やかして欲しいんだ。
日野シティーミティー。4人の奴隷の中で最も強力にして万能な力を持ちながらも、その使い方を知らない君には、【青春】によって、私を堕落させてもらおう」
「【青春】……」
命令を遂行したいという奴隷としての本能が日野シティーミティーを襲うも、行動に移せない。
何故なら、「【青春】によって、堕落させよ」と言われても、どうしたら良いか分からないからだ。
「友達と一緒なら、どんな料理でも美味しく楽しく!
お店独自のなんか変な言葉だったり、若者同時の意味不明な略称だっても、喋っていると微笑ましく!
そしてなにより、一見無駄な時間こそが、最高のスパイスになる!
----そんな【青春】というモノで、私を堕落させたまえ!」
ドヤァとした顔を披露する赤坂帆波に、日野シティーミティーはさらに頭を抱えるしかなかった。
「無茶苦茶な……もしかして、他の3人にも?」
「然り」と答える赤坂帆波。
そして「ちなみに、全員別の事で、私を堕落して甘やかせよと伝えてあるので、話し合って模範解答を導く方法は使えないよ」と釘を刺されてしまう。
「この世には【3人寄らば文殊の知恵】なる素敵な言葉がある。しかしながら、私は自分で考えて、そしてそれを試そうとする行為もまた、美しいと思うのだよ。
----まぁ、気長に自分達で考えようね、シティーミティー?」
「うぅ、はい……」
日野シティーミティーはそうして、【青春】担当となった。
「ちなみに、シティーミティー? "パンはパンでも、食べられないパンって、なーんだ?"」
「うぇ?! えっ、えっと、"フライパン"とか? ほら、パンってつくけど、食べ物じゃありませんし!」
「ぶっぶー! 正解は"アルセーヌ・ルパン"! 世紀の大泥棒だよ! ……まっ、ルパンって答えてたら、また別のパンがつく言葉を正解として答えてたかもだけど?」
「----?? それって、どういう?」
"マスター"が出した正解が、正解ではなく、別の正解がある?
あまりにも不思議な問いに、頭の中がこんがらがるシティーミティー。
「まぁ、それが分かれば【青春】の意味が分かりますよ。
頑張ってくださいよ、シティーミティー。そして、他の皆もね?」
こうして、【"三"つの"大"いなる魔王の力を持つ者達による、主様を"堕落"させる同盟】。
略して、【三大堕落】が生まれたのであった。




