第103話 後衛を先に倒しておくのは基本です(2)
以前、雪ん子とファイントの2人は、超硬い《機動要塞》のボス吸血鬼と戦ったことがある。
あの時の2人の攻撃も、めちゃくちゃ硬すぎる《機動要塞》の硬さであまり攻撃が効かなかった。
----しかしながら、《死亡保険》赤鬼の件とはまるで違っていた。
ヤツは防御力が高いとか、そういう次元ではない。
あんなにも強力な、悪と氷、そして炎の3つの力を凝縮させた剣が、まるで効いていない。
ゲームで言うなれば、攻撃が当たっていないミス判定。
ノーダメージ、またはゼロダメージ。
一切、攻撃としても認知されていないみたいだった。
「《ぴぴぴ?》」
「えぇ、全然、ダメージにもなってないみたいですね……」
雪ん子は気合を込めた一撃が効かなかったことに落ち込み、ファイントも少しばかり落ち込んでいた。
彼女は歯ごたえのある戦い方を望んでいただけで、このような展開を望んでいた訳ではなかったから。
「(ほんと、がっかりだよ☆)」
ファイントはそう言って、右腕に《スタンブレード》の青魔法を溜める。
彼女の手からは、相手を気絶させる魔法の剣が生み出されていた。
「ほんと、がっかりだよ☆」
そう、本当にファイントはがっかりしていた。
「----折角、雪ん子ちゃんが良い感じだったのに」
ファイントはそう言って、《スタンブレード》を投げた。
「----ンディアーッ?!」
と、《スタンブレード》が投げられた先。
上の方から、1体の鬼が落ちてきた。
落ちてきた鬼は、本物の馬の頭を持つ鬼である召喚獣----馬頭鬼であった。
足は馬のようなしなやかな足、そして両腕には虎と蛙の腹話術人形を付けていた。
「みっ、見つかってしまったようですね!? 隠れてこっそりが信条のメズキンとしては最悪だよ!!」
「おどろく! おどろく!」
落ちてきた腹話術人形を装備した馬頭鬼、それと共に無口だった《死亡保険》赤鬼もいきなり話し始めた。
「《どうゆう事? どうゆう事?》」
「つまり、あの腹話術人形を装備している鬼の能力で、先程の攻撃が効かなかったという訳☆」
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【《腹話術師》馬頭鬼】 ランク;?
全ての人間が照れ屋すぎて腹話術で会話する世界を閉じ込めた【世界球体=腹話術師世界=】の力を得た、馬頭鬼の召喚獣。倒すと、マナ系職業の1つ、【腹話術師】を使用することが出来る
手にしている腹話術人形1つにつき、対象となる相手を自分の意のままに操ることが出来る。また、操っている間、その対象は傷つくことがなく、倒されることはない
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つまりは、《死亡保険》赤鬼の他にもう1体----こっそり隠れて、戦っていた相手。
そして、《死亡保険》赤鬼に、攻撃が効かなかった理由が、あの馬頭鬼の【腹話術師】の職業の力なのだろう。
操っている相手、つまりは先程までの無口な《死亡保険》赤鬼には、【腹話術師】の職業の力によって、傷つくことも、倒されることもない状態にあっただけなのだ。
「見えないように隠れて、《死亡保険》赤鬼を操っていたようですが……残念でしたね☆ 先程、適当に放った青魔法の時に、あなた弾いたでしょ?」
悪精霊に力を溜めるためだけに、ファイントは先程狙いを特につけずに、青魔法の《レーザービーム》を色々な場所にぶっ放した。
床に、壁に、そして勿論天井に。
その時、偶然だが一瞬、馬頭鬼の方に《レーザービーム》が一発、打ち込まれたのだ。
「ンディアーッ?! あんな凄まじい光攻撃が、ただ乱雑に放っていただけ、だとーっ?!」
「えぇ☆ 偶然☆ 後ろにもう1体居るだなんて、想いもしませんでしたので♪」
そう、本当に偶然なのだ。
ファイントは悪精霊に力を溜めるためだけに、大量の《レーザービーム》をぶっ放し、そのうちの1つがたまたま馬頭鬼に向かっていた。
当然、馬頭鬼は自分に気付いて攻撃したものと思って、防いだ。
その瞬間、ファイントは違和感を感じたのだ。
1発だけ、床でも、壁でも、天井でもない場所に、当たった感触が。
「気のせいだと思っていたのですが……さっきの雪ん子ちゃん攻撃ノーダメージ事件で確信しましたよ☆ ノーダメージにしたのは、あなたの能力だったんですね☆」
「ンディ! だがしかし、分かった所で----ノーダメージ効果は使えるのでっ!!」
虎の腹話術人形の目が真っ赤に光り輝いたかと思うと、《死亡保険》赤鬼が雪ん子めがけて突進してきた。
恐らく、先程と同じく、【腹話術師】の力によって、無敵化させたんだろう。
「----でも、その手はもう使えませんよ☆」
ファイントがパチンと指を鳴らすと、途端に虎と蛙の腹話術人形に火が点けられて、燃え尽きる。
「----?! これはっ?!」
「刀身に潜り込ませていた悪精霊1体を、こっそり、あなたの2体の腹話術人形を同時に燃やせる場所まで移動させて☆ そして、今、力の開放によって火をつけたの♪」
そして、雪ん子は特攻してきた《死亡保険》赤鬼に剣を叩きつける。
腹話術人形が消える事によって、無敵の操り人形状態が解除された《死亡保険》赤鬼に向かって。
「ヤバく----っっ!!」
悪、炎、そして氷。
3つの強力な属性が付与された剣は、今度は《死亡保険》赤鬼にきちんとダメージを与えた。
《死亡保険》赤鬼はあまりの攻撃力の高さに目を回して、そして呆気なく爆発するのであった。
「ンディィィィっ?! まずいですよ!! こうなれば、メズキンだけでなんとかしてやるっ!!
喰らえ、《ヒヒーンブレイク》っ!!」
仲間がやられたことに焦りを感じたのか、もう腹話術人形を失くして相手を操れなくなった馬頭鬼が行動に移す。
かの鬼は、自慢の脚を縦に蹴り上げ、そして横に薙ぎ払い、十字型の衝撃波を出して、こちらへと放ってきた。
その威力はまさに、ファイントの想像以上!!
さっきまでなんで、腹話術人形なんか使ってたんだって威力に、ファイントは興奮を隠せなかった。
「よいしょぉぉぉぉ!!」
ファイントはそれを《スタンブレード》を出して、防ぐ。
「ヒヒーン! やはり、このメズキンこそが、最強でヒヒーン!!」
「《ぴぴっ!!》」
と、高らかに笑う馬頭鬼に、後ろから近付いていた雪ん子の剣が炸裂する。
「ンディアーッ!!!」
と、馬頭鬼は絶命の一言と共に、爆死する。
そして、馬頭鬼はやられて、ボトっと折れた剣をドロップしたのであった。
「《ぴぴ! 倒した、倒した! 主のところ、行こっ?》」
「いや、まだみたいですよ☆」
敵2体を倒したと思って、主の所に行こうとする雪ん子に、ファイントは「まだ終わってない」と告げる。
その証明でもすべく、馬頭鬼がドロップした、折れた剣が浮かび上がる。
そして、その横に、先程よりもボロボロになった《死亡保険》赤鬼が陣取った。
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【イペタム】 ランク;Ⅲ
北海道に伝わる、人喰い刀の魔物の伝承から生まれた、刀剣の幽霊型魔物。イペは「喰う」、タムは「刀」を意味し、夜な夜な人の生き血を求めて勝手に飛び回る妖刀の総称であり、北海道各地に個別の名称を持ったイペタムが存在する
血でなくても、岩などなにか食べるためのモノがある場合、それを喰らうが、その衝動を止める術はなく、ある伝説では底なし沼に沈める事でようやく沈める事が出来たという
対象物)ニライカナイの赤剣(破損状態)
ニライカナイの概念を凝縮して作られた、佐鳥愛理特製の攻撃特化の剣(破損しているため、現在能力は使用不能となっている)
ニライカナイとは沖縄に伝わる、海の遥か向こう側、もしくは海底に存在するとされる理想郷。そこは生命が生まれる場所であると同時に死後に行く場所とされており、このニライカナイの赤剣を使えば、生命の蘇生をも叶うとされている
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ファイントはタフだな、とただそう思った。
実際、普通の死霊を使う職業ならば、先程の雪ん子の一撃で倒されていただろうが、【幽霊船】という職業は思ったよりも頑丈だったらしい。
その上で、ドロップアイテムの刀を、イペタムという形で使役して襲い掛かって来るとは……。
「(なんて、健気なっ!!)」
自分がやられかかっている中、ここまで健気に戦う《死亡保険》赤鬼に、ファイントは感動さえ感じていた。
でも、息も絶え絶えで、もう少しで勝利がつきそうだ、と彼女はそう判断した。
「雪ん子ちゃん、もうひと踏ん張りね……って、あら?」
その時、ファイントは雪ん子の顔つきが変わっているのに気づいた。
彼女は今、あの折れた剣を見て、嬉しそうに笑ったのだ。
自分が後衛の《死亡保険》赤鬼に期待して良かったと思った、あの時のように。
雪ん子は、宙に浮かんだイペタムを嬉しそうに見ていたのであった。
「《ぴぴ♪ 良い相手♪ 全力出せそう♪》」
「よーし、私も頑張ろうかな?」
まだ、主の冴島渉のところにファイント達は戻れそうはなかった。
しかしながら、ファイントは別に心配はしてなかった。
何故ならば、ココアもいるし、それに----
ファイントの力で手に入った"エルダードラゴンエッグ"もいるからだ。
前の【武装乙女】もそうですが、【腹話術師】に"ドールトーク"とは読めないんですが、
やっぱり、ただ英語にするだけよりかは、こっちの方が良いかなーって?
と言う訳で、次回もお楽しみに!!




