091話「魔都」
ドラゴンズバレーと魔王領域の境目で若いドラゴン達は去っていった。
バサバサバサッ
ドシンッ
スケルトンドラゴンを地上に着地させ俺達も背中から降りる。
「なんで降りるのよ?」
「あのまま魔都に向かっていったら攻撃されるからだ」
「うむ。敵襲と間違われてしまうな」
「それは嫌っすね」
「だから徒歩なんですね?」
「ここからはランサーの後ろに乗っていく」
他のメンバー達は騎乗スキルを所持していないため誰かが操縦していない限り乗れない。
「結局変わらないじゃない?」
「スケルトンドラゴンとスケルトンランサーじゃ脅威度が違うだろ。それに俺達が後ろに乗っている事も分かりやすいだろうしな」
「あまり、好きじゃないのよね」
「我慢するのだな」
「うぅ、お尻が痛いっすからね。我慢するっすよ」
「私はバランスを取るのが難しいから遠慮しておきます」
「大丈夫か?」
「ゆっくり走って下されば大丈夫です」
「魔都は逃げないから走らんぞ」
「えぇ! あの痛い思いを到着するまで続けるの!! 私は飛んでいくわよ!」
「あ、ズルいっす!! ウチも飛んでいくっす!」
「俺とラースは騎乗で行くか」
「うむ」
結局、飛行能力を持つラストとスロウスは空を飛んで、俺とラースは騎乗して、蛇の体を持つグリードは自力で向かう事が決まった。
カポカポカポカポ
歩きより早い速度で俺達は魔都へと向かって進む。
遠くに聳える巨大な城・・・おそらく魔王城と思われる建物だ。
その周囲には巨大な壁が3つも建ち何かから守るような城下町が作り出されていた。
向かう場所は一番外の壁にある大きな門が構えられている場所だ。
魔都の周囲は平野が続き、点々と稲科に近い植物が生えている。
「これって米っすかね?」
「さぁな」
誰も植物について分からない。
食用であれば料理人が判別するスキルを持つが俺達には居ない。
この旅も食べ物や飲み物の確保が困難を極めたのも確かだ。
飲み水は無限収納を持つ俺が大量に入れて何とかなったが食べ物については他の4人にとっては死活問題まで発展した。
ワイバーンの肉を焼いて食べる事で飢えを凌いでいたが文明的な料理を欲しているみたいだな。
「魔都なら美味しい食事が食べれるっすかね?」
「文明的だったらね・・・見た感じだと大丈夫だと思うわ」
空から目的地の門を見るラスト。
「あ、門から兵隊みたいな人が出てきたっすよ?」
「どうしてかしらね?」
その答えは到着したらわかった。
『そこの者達、止まれ!』
『言葉が分かるならば即刻従うのだ!!』
安っぽい槍を持った魔族の兵士が俺達の進行を止めに来た。
奥では魔都に入ろうとしていた魔族達がパニックになっているようだ。
ズシッ
俺とラースがランサーの後ろから降りて、ラストやスロウスも地上へ降りてきた。
『お前たちの目的はなんだ?』
『答えによっては』
兵士2人は震えながらも自分の仕事を全うしようとしている。
「俺達は魔都に用があってきた。順番を守れと言うなら守ろう」
列をなして順番待ちをしている魔族達を指さす。
『魔都の用とはなんだ?』
「魔王イヴ・ヴァレンタイン様との謁見だ」
『魔王様だと!?』
兵士の一人が驚き、順番待ちをしている魔族達も驚きざわめく。
『魔王様は多忙の身だ。おいそれと謁見はできん』
『待て、こいつ等の特徴は・・・回覧で見た気がする』
『・・・確かにしばし待ってもらっていいか?』
「構わん」
兵士の1人が詰め所に戻り、数枚の羊皮紙の束を持ってきた。
『スケルトンキングのハデスとはアナタか?』
「そうだ」
『サキュバスクイーンのラスト、オーガジェネラルのラース、ヴァンパイアロードのスロウス、ナーガラージャのグリードとは他の者達の事か?』
「その通りだな」
『五天辺境伯様達でしたか! どうか無礼をお許しください』
『ご温情をくださいませ』
「待て、五天辺境伯とはなんだ?」
初耳だぞ?
『魔王様からの回覧にて情報共有されています。あのドラゴンズバレーより更に西に住まわれる五天辺境伯様方の情報です』
『我々は長い間、来訪されるのをお待ちしておりました。どうぞこちらへ』
「あ、あぁ」
なんだか訳が分からない内に役職が割り振られていたらしい。
俺達は門番に連れられて順番待ちをしている魔族達の横を通り大きな門を潜って魔都へとたどり着いた。
≪グランドクエスト、魔都へをクリアしました。SPが4増えます≫
≪魔都の到着をもってプレイヤー:ハデスに対するレベルキャップを解放いたします≫
≪キャラクターレベル、メイン職業レベルを75まで解放いたしました。サブ職業レベルは20まで解放しています≫
≪グランドクエスト、魔王の願いが発生致しました≫
≪五天辺境伯の称号を手に入れました。ハデス領の領民の潜在能力が+75%増加されます≫
「レベルキャップが解放されたな」
「うむ。ここに着くと解放される条件であったか」
「ようやく納得が言ったわね」
「じゃぁ、次は魔王様の所っすね」
「私たちの格好で謁見して貰えますかね?」
「多種多様の魔族が入り乱れる場所だ。大丈夫だろう」
「それより、ラストは魔王の傘下を保留にしていたんじゃいないか?」
「ハデスとラースが同盟したという話を聞いて速攻で傘下に入ったわよ。そういう条件という可能性があったからね」
「なるほどな」
『五天辺境伯様がたこちらへ』
少し歩いたところに大型の馬車が数台用意されていて中へと入る。
3mの俺でも余裕で入る大きさだ。
ヒヒィンッ!
暴れ馬を使役している魔族の御者が鞭を振るい馬車が動き出した。
『これより魔王城へと向かいます』
「五天辺境伯について説明を受けていないのだが?」
『私共も分かりかねます』
「分かった」
しばらく揺られ続けると2回ほど馬車は止まったがスムーズに動き出した。
空から見えていた2枚目と3枚目の壁を通過したのだろう。
ゴトゴトゴトゴト
キィッ
『到着しました』
ガチャッ
馬車から降りると遠くに見えていた魔王城の近くまできていた。
『ここから先は別の者が案内いたします』
「あぁ」
門番は馬車と共に帰っていった。
『五天辺境伯方、こちらへお越しください』
城から今までとは装いが違う魔族が現れた。
姿勢・態度・雰囲気が今までの魔族とは違く品性を感じさせる者だった。
『魔王様の準備が整い次第及び致しますので、何かあればメイドにお申し付けください』
パタンッ
凝った作りの家具が置かれた豪華な部屋へと通される。
「このソファー柔らかいわね」
「そうっすね!」
3人掛けのソファーにラストとスロウスが座って柔らかさに何度か座りなおしている。
「これからどうなるのだろうか?」
「とりあえず会ってみないとな」
「ですね」
俺、ラース、グリードの3人は個人用のソファーに座っている。
スッ
『紅茶は如何ですか?』
この部屋にはもう一人、種族不明のメイドが話しかけてきた。
「俺はアンデットだから不要だ。2人はどうだ?」
「貰おう」
「頂きます」
「お砂糖多めでお願いするわ」
「甘い紅茶がいいっす!」
『畏まりました』
スッ
近くにあるワゴンへ歩いていき、淡々と紅茶を淹れて持ってきた。
『お砂糖はお好みの数をお入れください。何かあればお申し付けください』
そう言ってクッキーやパウンドケーキの乗せられた茶菓子が机の中央に置いて壁際に戻っていく。
「頂くか」
「ですね」
「ここでの紅茶はどんな味なのかしら?」
「気になるっすね」
俺が以外のメンバーは味覚もある、ゲーム内での食べ物や飲み物の味も分かるから楽しみといった所だ。
「あまり紅茶を飲んだことは無かったがこれは」
「良い香りがしますね」
「凄く美味しいわ」
「美味しいっす!」
どうやら香りや味は好評のようだ。
「む?」
「あれ?」
「え?」
「はれぇ?」
4人が突然何かに気づいたがスッと倒れていった。
【睡眠中】
一気に4人が異常状態になった。
「どういう事だ?」
唯一知っていそうな人物に問いかける。
ニヤッ
メイドは口端を上げて笑い、懐から丈夫そうなナイフを持ち出していた。
シャッ
ギッ
ナイフが迫ってきて俺は左腕のアームガードで受け止めた。
【ドラキュリーナ(Lv40)】
外に居た魔族達よりもレベルが高い、流石魔王城勤務のメイドだ。
「だが、甘い」
ガシッ
右手で強引にナイフを掴んで奪い去る。
ガンッ
「なぜ、こんな事をした?」
左手で相手の両腕をガッシリ拘束して壁に押しやる。
『教えませんわ』
ニコッ
パタパタパタパタ
そういうと体全体が小さな蝙蝠となって窓から出ていった。
ヴァンパイアロードと同じ蝙蝠化のスキルか・・・ドラキュリーナも同じ使い手だったか。
一度、蝙蝠化が発動すれば効果が切れるまで攻撃が一切通らない無敵化だ。逆に自分からも攻撃できないらしいが・・・
すこし、時間を置いて4人が起き上がるのを待った。
残念ながら異常状態回復を治すアイテムも魔法も持ち合わせていないからな。
「ふわぁ」
「いつの間に眠ってしまったようですね?」
「良く寝た」
「あれ、メイドさんは何処へいっちゃったんっすか?」
「疲れていたんだろう、あのメイドは所用の為出ていったぞ」
「って感じはしないわよ」
「ん?」
スッ
ラストが指さした先はワゴンが倒れて紅茶が床に零れている。
「何があったのかしら?」
「盲点だったな」
俺は先ほどの出来事を皆に話した。
「睡眠薬を盛られていたのか」
「少し悔しいですね」
「油断したわ」
「なんでそんなことをするっすかね?」
「さぁな、本人に聞いてみるか」
ガチャッ
『お待たせいたしました。おや?』
どうやら、この男とメイドは繋がりが無いようだな。
『如何なさいましたか?』
「問題ない。準備が整ったという事か?」
『はい。こちらへ』
案内人の後ろへと俺達は付いていく。
階段を登り巨大な部屋の扉前までやってきた。
「ラストの古城を思い出すな」
「あぁ、作りが似ている」
「そうね」
『五天辺境伯様方がお目見えになりました』
案内人が言うと扉が開いていき謁見の間が視界に広がっていく。
赤い絨毯が中央に敷かれて、巨大な部屋を支える柱が通間隔に並び、豪華なシャンデリアが天井から垂れ下がり部屋を明るくさせている。
武官や文官達が左右に立ち並び、その後ろにはフル装備の近衛兵が控えている。
≪謁見用の動きをアバターにさせます≫
聞いたことのないアナウンスが鳴る。
「体が勝手に」
どうやら、強制イベントのようで俺達の体が勝手に動き出した。
カツカツカツカツッ
ある一定の距離まで近づいて片膝をついて頭を下げる。
「五天辺境伯達よ。よくぞ参った。面を上げよ」
スッ
顔を上げて魔王を見る形となった。
「あの辺境から長い時間をかけて我が元に集結した事を嬉しく思うぞ。何か褒美を考えねばな」
お、また褒美が貰えるのか。
「しかし、何も功績をあげておらぬ者に褒美を与えるのはいかぬ」
グランドクエストの話だな?
「到着したばかりで悪いが妾の願いを聞いてはくれまいか?」
「なんなりと」
拒否権はないのかよ!
俺の意思と関係なく口が動いて答えていた。
「おぉ! やってくれるならば話が早いのぉ。妾の願いとはこの地より南に位置する魔の森、その中に手を焼くモンスターがおるのじゃ。そやつを倒してほしいのじゃ」
「畏まりました」
「期待しておるぞ」
スッ
イヴ・ヴァレンタインは王座から立ち上がり奥の扉から出ていった。
≪グランドクエスト:白き魔狼討伐が発生いたしました≫
「行くぞ」
俺達は謁見の間を後にした。
「緊張したっすね」
「魔王様が魔王をしていたわね」
「俺達と会った時とは雰囲気が違うのである」
「これも王としての威厳なのでしょうかね?」
「さぁな。一度、ログアウトするか」
コクリッ
リアルでは昼時の為、宿でログアウトする事にする。
もちろん文明が発達している魔都は貨幣システムがなりたっていた。
ワイバーンの素材を売った金で宿代を支払っている。




