056話「来訪者②」
マーマンとの戦闘方法が思い浮かばないな・・・
俺が倒された時の状況からマーマンは水中戦を得意とする種族の様だ。
まず、陸に上がってくる可能性は低いだろう。
となるとこちら側は水上か空中からの攻撃が主体となりそうだ。
問題は水中にいるモンスターに攻撃が通るか・・・
湖に落ちた時、俺は精巧に作られた水だと思った。
リアルに近い水を再現しているならば、水中に攻撃を放ったところで水に阻まれて攻撃は通りずらいだろう。
逆に水から外に向けての攻撃は通りやすくなる筈だ・・・
同じ土俵で戦わないと勝てない相手だと推測する。
「何を悩んでおるのじゃ?」
俺が頭を抱えて唸っている所で聞きなれないが、聞いたことのある声が目の前から掛かった。
フイッ
頭を上げると、魔王イヴ・ヴァレンタインが座っていた。
隣にはラルフ・ヴァレンタインが立っている。
周囲に居たダークエルフ達がガタガタと震えて地に頭を付けて下げていた。
あのリンドールまでも同じ体勢だ。
「魔王様」
驚きもあり掠れた声で呼べた。
「久しいの」
「お久しぶりです」
「うむ。お主の活躍はリウイ殿から聞き及んでおる。この一帯を統括したとな」
「勿体なきお言葉です」
「妾の手が空いたので激励にきたのじゃが、悩みごとでもある様子じゃな?」
「え、えぇ」
「言うてみ」
俺はポツリポツリとマーマンについて話した。
「マーマンとな・・・普段は水から出ぬ種族じゃったか?」
「はい。魔王さま」
隣のラルフが答える。
「マーマンは基本的に水中に住む者たちです。普段は温厚なのですがテリトリーに近づく者を攻撃する特性を持ちます。また水中というのが厄介です」
「なるほど。また厄介な連中と相対したの」
「えぇ」
「ふむ・・・妾からの褒美が決まったぞ」
ん?
褒美と言ったか?
「どこじゃったかな?」
イヴは無詠唱でダークホールを発動させ、手を突っ込み中の物を引っ張りだす。
「これじゃ」
見たことのある丸まった紙を手にしている。
パラッ
紐を解いて机に広げる。
「水軍が持つガレオン船のレシピじゃ」
「ガレオン船?」
あまり馴染みがない言葉に首をかしげる。
「なんじゃ、分からぬか? 記録水晶はどこじゃったかの?」
「魔王様、こちらです」
スッとラルフが机に台座に乗った水晶球を置く。
「うむ」
パアアッ
イヴが手をかざすと水晶が薄く光を真上に放ち映像が映し出された。
それは何十人もの魔族らしき人影が巨大な船に荷物を運び入れている所だった。
「これがガレオン船ですか・・・」
「うむ。水棲生物を相手にするならば船は必須じゃろうて?」
「ですが」
「なんじゃ?」
「この大きさの船を作ろうにも材料が圧倒的に足りないかと」
「・・・確かに、水軍だからこそ作れる船であるか」
「魔王様、船のランクを下げては如何でしょうか?」
「ランクとな?」
「聞くところによれば、その湖の広さは海より圧倒的に狭いでしょう」
ガレオン船は海用の船と言う事か・・・それなら聖大陸にも進出できるかもしれないな。
「そうですね」
「つまりガレオン船を出すまでも無いという事になります。であれば船のランクを下げましょう」
「であるか」
「ハデス殿はどのような大きさが良いと思いますか?」
初対面であったラルフの印象が和らぐな・・・あの時は警戒していた為の口調か?
「正直迷います。私が使役できるスケルトンの数は最大で435体なので」
「435体とな、それは大群であるな」
「スケルトンだけですか?」
「人型のスケルトンの他に犬型、馬型、鳥型も使役できます」
「スケルトン以外の死霊魔術は使えないという事ですか?」
「まだですね」
「そうですか」
「何か?」
ラルフが不思議そうな顔をして納得しかねている様子だ。
「死霊術師の知り合いはスケルトン以外も使役できる者なので少し気になっただけです」
「そうなのですか?」
「えぇい、話が逸れておるわ! 今は船のサイズの話じゃろうが!」
「申し訳ございません。話を戻しましょう・・・船にも様々なサイズがあります。まずはボート型」
フワンッ
水晶球の映像が切り替わり2人の魔族が乗っているボートが映し出された。
その人物は目の前にいる人物が少女だった姿をしている。
「ラルフ! お主はいつの記録を出しているのじゃ!!」
顔を真っ赤にして怒るイヴだ。
「ボート型の映像はこれしかございませんので」
「一緒に乗っているのは父親ですか?」
「先代魔王様です」
「厳格そうな先代魔王様ですね」
「えぇ」
「また、話が逸れておるわ!」
「では、次にヨット型」
今度はボートより数倍の大きさの船で十数人の魔族達が帆を使って操船している映像だ。
「ボート型に比べて大きさもあり、十数名が一度に乗れます」
「ただし、操船技術が必要ですね?」
「・・・確かに」
「スケルトン達には無理な話です」
スケルトン達に操船技術を覚えさせるのは無理だ。
「ボート型でオールを漕ぐことは出来ますね」
「でしたら、ロングシップはどうでしょう」
ヨット型よりも更に大きい船が映し出される。
幅も倍以上広がっており両側にオールを漕ぐ魔族達が息を合わせている。
「こちらは帆を使った操船ではなく全てがオールの力で進みます。50名近く乗れます」
「それ以上の大きさもあるのですか?」
「あるにはありますが、材料の問題が発生しそうですね」
パァ
映像が切り替わり、ガレオン船より小振りだがロングシップの数倍の大きさがある船だ。
「ガレー船と呼ばれる古い船です。百名近くは乗れますが作るには膨大な材料が必要です」
「ならばロングシップのレシピが欲しいです」
「うむ。此度の働きに妾からハデスにロングシップのレシピを授けよう」
「有りがたき幸せ」
「では、妾達は帰るとするか」
「はい」
イヴとラルフは飛翔するとこの場から去っていった。
思いがけない贈り物を貰ってしまった。
ブハァ
唐突に周囲で息を吐くダークエルフ達の姿が目に入る。
「さすが我らの王だな。魔王様の前にしても普段と変わらないとは」
「いやいや、俺も緊張していただろ」
「ワシを含めて誰も身動きが取れなかったのだぞ? 謙遜されるな」
前にもゴブリン氏族長に似たような事を言われたな。
「それが賜った船のレシピか」
「あぁ、作れるか?」
「我らは森を愛す種族ゆえ、不必要な木の消費を避けるのでな。船とは無用の長物である」
つまり、作れないと・・・
「他にも聞いてまわるか」
その後にゴブリン、コボルト、オーク、ケンタウロスにも声を掛けたが湖も見たことの無い者達が船を作り出す能力は無いと分かった。
とりあえず、ロングシップのレシピを使ってみる事にする。
≪ロングシップのレシピを使用しますか?≫
YES
≪細工師スキル:ロングシップの制作条件が整っていません≫
また制作条件?
【ロングシップ】
素材①:竜骨(未制作)
素材②:船梁(未制作)
素材③:船体(未制作)
素材④:船底(未制作)
素材⑤:甲板(未制作)
素材⑥:ロングオール(未制作)
まったく分からない情報が表示された・・・まずは調べる所からか。
・・・
リアルで船について調べてみた。
竜骨というのは船を制作する上で重要な部分だった。家で言う大黒柱的存在だ。
一本の竜骨と呼ばれる部分に等間隔の船梁を取り付ける事で船の形作るようだ。
ボート程度であれば不要で、大きな船になれば必要とされる。
どうやら水の抵抗に船がねじ曲がらないようにする効果を発揮する。人体でいえば肋骨の様な役割だ。
そして下から、船底、船体、甲板という大まかな部品が付いていきロングシップが作られるようだ。
これでも大雑把な素材で収まっているだけマシだった訳だ・・・帆船だったならもっと細かい素材が必要だった。




