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99話 怒りの進撃

「お前ら、何者だっ。ここを誰の屋敷だと思っている!?」

「表の爆発は、お前達の仕業か!?」

「賊だ! 賊が現れたぞっ!」


 屋敷に踏み込むと、あちらこちらから警備兵が飛び出してきた。

 剣や槍、斧などで武装して、俺達を取り囲む。


 動きが素早い。

 よく訓練されている証拠だろう。

 突然の乱入者に驚きこそすれ、怯えている様子はない。

 誰も彼も、武器をしっかりと構えて、こちらの様子をうかがっている。


 一人一人が、Cランクの冒険者くらいの実力があるかもしれない。

 それくらいの圧は感じた。

 彼らを敵に回すとなると、面倒なことになるかもしれない。

 でも、ここを突破しなければジペックの元にたどり着けないというのならば、突き進むまでだ。


「ニーナは俺の後ろに。いざという時は、サポートを頼む」

「……ん」

「カナデとタニアは……」

「暴れるよ」

「蹴散らしていいわよね?」


 二人共、やる気たっぷりだった。

 ティナから聞いた話を、自分のことのように怒っているのだろう。


「任せるよ。ただ、無理はしないように。怪我もしないように気をつけて」

「にゃん。大丈夫だよ。今回は……私も、怒っているんだから!」

「あたし達を誰だと思っているの?」

「私とタニアが一緒になれば、無敵だよ!」


 頼もしいセリフを言い放ち、二人は警備兵に向けて突撃する。


「くっ、こいつら、逆らうつもりか!?」

「構わんっ、殺してしまえ! 招かれざる客は、全て排除しろという、ジペック様の命令だ!」

「どこの誰か知らないが、愚かな行為のツケを払わせて……ぐぁっ!?」


 カナデの拳が、警備兵の一人を捉えた。

 鉄製の鎧が拳の形に陥没する。

 それだけの威力を受けて、まともに立っていられる者なんて、そうそういない。

 警備兵は悶絶して、その場に崩れ落ちた。


「こいつ!」

「ふざけた真似をっ!」


 カナデを挟み込むように、二人の警備兵が武器を振り上げた。

 速度、タイミング、申し分のない一撃だ。


 しかし、カナデにそれが届くことはない。

 カナデはその場で、垂直方向に跳躍。宙に逃げた。

 くるっと回転して逆さになると……

 勢い余り、たたらを踏む二人の警備兵の頭を掴む。

 そのまま、ガツンッ! と二人の警備兵の頭をぶつけ合わせた。


「にゃあ……!」


 スタッ、とカナデは床に着地した。

 その隙を逃すことなく、三人の警備兵が槍を突き出してくる。


 着地したばかりのカナデは体勢が崩れていて、避けることは難しい。

 ならば、どうするか?


「うにゃんっ!!!」


 二本の槍の柄を両手で掴んで……

 最後の一本は、先端をガッチリと噛んで、歯で受け止めていた。


 ありえない技に、警備兵達が怯む。

 その間に、カナデは体勢を立て直して、再び突撃する。


「私達の邪魔をする人は……」


 目に見えないほどの速度で、警備兵の目の前に移動。

 がしっ、とその足を両手で掴み、警備兵を持ち上げた。

 そして……


「どっかいっちゃえーーーっ!!!」


 その場で大回転。

 捕まえた警備兵を棍棒代わりにして、次々と敵を薙ぎ倒していく。


 無茶苦茶な光景だった。

 まさか、敵兵を武器にしてしまうなんて。

 武器がないなら敵を武器にすればいいんだよ。

 そんなセリフが聞こえてきそうな気がした。


「ちっ、どいつもこいつも情けねえ!」


 奥の方から、大柄な男が現れた。

 身長は2メートルを超えているだろうか?

 全身が筋肉の鎧に覆われていて、人間というよりはオーガと言った方が納得してしまうかもしれない。


 おそらく、ヤツが警備兵達のトップなのだろう。


「アイツは、あたしがやるわ。カナデは、そのまま掃除をお願い!」

「あいあいさーっ!」


 未だ、ぐるぐると大回転を続けるカナデに、そう声をかけて……

 タニアが大男と向き合う。


「その角と尻尾……まさか、てめえ、竜族か?」

「ええ、そうよ。尻尾巻いて逃げるっていうのなら、見逃してあげるけど?」

「はっ、バカを言うな。最強種とは一度、やりあいたいと思ってたところだ。俺様の力、見せつけてやる……フィジカルアッパー!」


 筋力増強の魔法を使ったのだろう。

 大男の体がさらに一回り膨れ上がる。

 腕は丸太ほどの太さになり、衣服が弾け飛ぶ。


「はははっ、見たか、この俺の力を! この極限まで鍛え上げられた体を!」

「うわ……」


 タニアはドン引きだった。

 そんなむさ苦しいものを見せつけないでくれる?

 そう語るように、顔をひきつらせていた。


「あたしの相手はコレか……一気にやる気が落ちたわね」

「臆したか、小娘っ!」

「そんなわけないでしょ。やる気が失せただけよ。ったく……まあいいわ。さっさとかかってきなさい」


 タニアが手を差し出して……

 くいくいと指を動かして、大男を挑発する。


「舐めるなぁあああああっ!!!」


 大男が激高して、拳を繰り出した。

 ただの筋肉バカと思いきや、その一撃は見事なものだ。

 一つ一つの動きが洗練されていて、拳闘士のごとく鋭い。


 常人ならば、見切ることはできない。

 それどころか、何が起きたかわからないうちに一撃を受けて、昏倒しているだろう。

 下手をしたら、そのまま死んでしまうかもしれない。


 大男の拳は、もはや凶器だった。

 上質な装備よりも優れていて、ダメージを与えることができるだろう。


 そんな一撃を……


「ほいっ、と」


 タニアは片手で受け止めた。


「な、なにぃっ!?」

「……で?」

「くっ……まぐれで調子に乗るなぁっ!!!」


 大男がタニアにラッシュを見舞う。

 破城槌のような強大な一撃を、上下左右、ありとあらゆる角度からタニアに叩き込む。

 力だけではなくて、速度も申し分ない。


 それでも……タニアには届かない。


「ほいっ、ほいっ……ほいっと」

「なっ、なあああぁ!!!?」


 大男の拳の乱打を、タニアは全て片手だけで防いでみせた。

 タニアの細い腕が大男の丸太のような腕を受け止めるのは、冗談みたいな光景だった。


 巨大なパワーを真正面から受け止めて……

 常人には知覚できないような速度を完全に見切り……

 タニアは、子供の相手をするかのように、大男を笑う。


「……で?」

「こ、こんなことがあってたまるかぁあああああっ!!!」


 大男が叫び……

 どこからか錠剤を取り出して、一口で飲み込んだ。


 ボコボコと大男の体がさらに変形していく。

 さらに頑丈な筋肉をまとい……

 血管が浮き上がり、体が赤くなる。

 魔法で筋力を増強するだけではなくて、薬も使用したみたいだ。


 大男の切り札なのだろう。

 息が荒く、苦しそうにしているが……

 その分、強靭な体を手に入れていた。


 大男は己の力を見せつけるように、倒れている警備兵の剣を拾い……指先だけでぐにゃりと曲げてみせた。

 まるで飴細工のようだ。

 それだけのことができる力を、大男は手に入れていた。


「この俺に、奥の手を使わせるとはな……さすが、最強種というべきか。だが、それもここまでだ。こうなった俺は、もう優しくないぞ?」


 大男は不敵に笑う。

 それに対して、タニアは……


「……で?」

「っ……!!!」


 ぷつん、と大男の頭の血管が切れる音が聞こえた……ような気がした。


「舐めるなぁああああああああああぁぁぁっ!!!!!」


 激高した大男がタニアに突撃した。

 そこらに散らばる剣などを一撃で踏み砕き、屋敷の柱をおもちゃのように吹き飛ばしていく。

 巨大な岩が迫ってくるような圧力があった。


 タニアは避けるわけでもなく、受け止めるわけでもなく……

 ただ、じっと、その場に立つ。


 そして……大男の一撃がタニアを捉えた!


 ゴォォォッッッ!!!!!


 大男の一撃が炸裂した。

 確実にタニアを捉えた。

 タニアは無防備で、避けようともしなかった。


 しかし……タニアは動じない。

 大男の一撃を受けても倒れることなく、揺らぐことすらなく……真正面から受け止めてみせた。


「……で?」

「あっ……あああぁ……」

「今のが切り札、ってことは、これ以上はないってことね。なら、あたしの番といきましょうか」

「まっ、まて……! まてまてまてっ、俺は、これ以上は……!」

「あたし、今、すっごい不機嫌なのよね。だから、これはただの八つ当たり。殺したりはしないけど、治癒院送りは諦めてね? というわけで……さようなら!」


 タニアが火球を撃ち出して、大男は人形のように吹き飛び、そのまま壁に激突して昏倒した。

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