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96話 闇商人

 トラン・ジペック。


 ホライズンの街を拠点に活動する商人だ。

 取り扱っているものは、日用雑貨から食料品まで幅広く、あちこちに商売の手を伸ばしている。

 商才があり、運にも恵まれている。

 一代で財を築いて、商会を発展させた男として、商人の間では有名らしい。


「……以上が、取引相手とされる男の情報だ」


 街に戻り、オーグとクロイツ、密猟者達をギルドに引き渡して……

 それから宿で食事を食べながら、情報を整理した。


「そのトランって人が、あむはむっ、今回の依頼の、ぱくぱくっ、黒幕なんだね?」

「喋るか食べるか、どっちかにしたら?」

「ぱくぱくぱくっ!」


 食べる方を選ぶのか……

 まあ、カナデらしいと言える。


「取引相手を聞き出したなら、あたし達の出番はなくない? 後は、騎士団に任せるんでしょ?」

「そういうわけにもいかないんだよな」

「どうしてよ? まさか、領主の時のように、また金をばらまかれているとか、そういうわけ?」

「さすがにそれはないよ」


 今の騎士団を指揮しているのは、ステラだ。

 ステラが不正に手を染めるなんてことは、まず考えられない。


「普通なら、密猟者達の証言を元に、騎士団の監査が行われるんだけど……」

「あっ、わかりました」


 ソラが閃いた、という様子で言う。


「人手が足りないんですね?」

「ソラ、正解」

「むっ、どういうことなのだ?」

「先の事件で、騎士団は大幅に人が減っています。そして、まだ補充できていません」

「ああ、なるほど。あちらこちらの事件にかかりきりで、トラン? とかいう悪徳商人を調べるまで、手が回らないということだな」

「ルナも正解」


 ホライズン支部の騎士達は、先の事件で、大半が解任、投獄された。

 王都に補充を要請しているらしいが……

 抜けた穴は大きく、それほど簡単に埋められるものではないらしい。

 少なくとも、補充にあと一ヶ月はかかるらしい。


 そのため、騎士団は手が足りない状況で、まともに機能していないらしい。

 事件に優先順位が設けられていて……

 トランに関する密猟疑惑の調査は、今すぐ街の人々に害を与えるものではないとして、優先度は低いという。


 先程、ステラに聞いてきた話だから間違いない。


「ステラ、ごめんね、って顔をしていたね」

「騎士団が置かれている状況は理解できるから、責めるようなことはしないんだけどな……」


 それでも、自分の責任のように感じてしまうのだろう。

 それが、ステラ・エンプレイスという騎士だ。


「で……あたし達の出番っていうわけ?」

「そういうこと」


 今の冒険者ギルドは、本来ならば騎士団が担当するような仕事を、半分くらい請け負っている。

 そうでもしないと、街の機能が停止してしまうからだ。


「先の依頼は、密猟者達を捕まえて、トランのことを聞き出した時点で終了だ。ここで引き上げても問題はない。ただ、俺としては、トランを捕まえたい」

「依頼料もアップするからね♪」

「にゃー……タニアはがめついね」

「なによ、もらえるならもらっておいた方がいいじゃない。報酬が増えれば、おいしいごはんも食べられるわよ」

「ごはん! 私も賛成だよっ」


 ホント、カナデはわかりやすい。

 タニアと一緒に苦笑した。


「ちょっと危険もあるかもしれないけど……他のみんなは、どう思う?」

「ソラも賛成です。悪徳商人に、正義の鉄槌を下してやりましょう」

「ふふんっ、我は主さまの言うことに反対などしないぞ? すべて任せるのだ」

「わたし、も……賛成。悪いところは……根っこの部分から、なんとか……しないと」

「よし、決まりだ」


 こうして、俺達はトランの捕縛を含めて、依頼を遂行することにした。




――――――――――




 夜の帳が下りて、街が暗闇に包まれる。


 闇夜に紛れるようにして、俺達はトランの自宅近くへ移動した。

 二階建ての大きな屋敷。

 庭も広く、高い塀で家が囲まれている。

 領主の館とまでは言わないが、かなり豪華な家だ。


「あそこが悪い商人の家だね」

「どうする? あたしのブレスで吹き飛ばす?」

「吹き飛ばさないから」


 どうして、タニアの思考はなんでもかんでも吹き飛ばすに繋がっているのだろう?

 猪突猛進すぎやしないか?


「トランの身柄の確保が目的だ。殺したいわけじゃないからな?」

「わかってるわよ、ただの冗談だから」

「本気……だったと、思う……」

「むぐっ」


 ニーナにツッコミを入れられて、タニアが苦い顔をした。


「どうするの、レイン?」

「そうだな……」


 事前に集めた情報によると、トランは各地を忙しく飛び回っているらしい。

 ただ、今夜は、このホライズンの家に滞在しているという。

 明日になれば、また街を出てしまうというので、捕まえるのならば今夜しかない。


 すでに、密猟者達からの証言は得られた。

 騎士団の代わりに監査の権限も与えられているので、このまま突撃しても問題はない。


 ただ、警備の兵もいるみたいだから、油断してはいけない。

 もしかしたら、領主の館の時みたいに、傭兵が雇われているかもしれないからな。

 みんなの危険に繋がるかもしれない以上、慎重に動かないと。


「まずは、中の様子が知りたいな。ソラ、ルナ。調べることはできないか?」

「むーん」


 ソラとルナを頼りにさせてもらおうと思ったけれど、二人は難しい顔をした。


「どうしたんだ?」

「魔法を使い、中の様子を調べることは可能なのですが……」

「まったく気づかれずに、というのは難しいぞ」

「どういうことなんだ?」

「魔力の流れの乱れを感じます。おそらく、魔法を阻害する魔法具が設置されているかと」

「無論、我らの魔力ならば、チャチな魔法具などものともせずに魔法を使うことはできるぞ? ただ、それなりに強引に事を進めるから、相手にバレてしまう可能性があるな」

「……なるほど」


 それなりの警備体制は敷かれている、ということか。


 さて、どうしたものか?

 中の様子を調べたいけれど、魔法を使うと、相手に警戒されてしまうかもしれない。


 警戒されるのを覚悟で、ソラとルナに魔法を使ってもらうか?

 何も情報を得られないで突撃するよりはマシかもしれないし……

 悩みどころだな。


「……ねえねえ」


 くいくい、っとニーナに服を引っ張られた。


「うん?」

「思ったんだけど……あの、その……ティナに、協力してもらうの……どう、かな?」

「ティナに?」

「ゆーれー、だから……調べるの、最適……だと思うの」

「おー、にゃるほど」

「良いアイディアじゃない? ね、レイン」

「そうだな。助かったよ、ニーナ」

「えへ……」


 みんなに褒められて、ニーナがうれしそうに笑う。

 三本の尻尾が、ぴょこぴょこと揺れていた。


「カナデ、ちょっとティナを呼んできてくれないか?」

「うにゃっ、わ、私……?」

「うん? 何か問題が?」

「問題はないけどぉ……」

「……ひょっとして、怖い?」

「実は、ちょっと」


 一緒に暮らすことになって、カナデのティナに対する恐怖は薄れているみたいだけど……

 それでも、そうそう簡単に苦手意識は消えないらしい。

 まあ、カナデは幽霊を怖がっているし、仕方ないとも言える。


「じゃあ、代わりにタニアに……」

「ううんっ、私が行くよ!」

「大丈夫か? 無理はしなくても……」

「いつまでも怖がっていたら、ティナに悪いからね! 慣れるためにも、私、がんばるよっ」

「そっか……うん、その意気だ」


 カナデが、積極的にティナを受け入れようとしてくれていることがうれしい。

 やっぱり、仲間はみんな仲良くしてほしいからな。


「じゃ、行ってくるね!」


 カナデがその場で大ジャンプ。

 近くの民家の屋根に飛び降りて、そのまま駆けていく。

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