95話 尋問
「さてと」
連中を連れて、再びキャンプ地に戻る、なんてことは非効率的だ。
というか、めんどくさい。
ある程度は寝ることができたから……
このまま街に連れて行くことにしよう。
ただ、その前にやることがある。
密猟者達の詳しい情報と、取引相手を聞き出さないといけない。
取引相手を潰すことも、今回の依頼に含まれているからな。
「それはそれとして」
オーグとクロイツとも話をしたいところだ。
オーグとクロイツは、完全に戦意を喪失した。
身動きできないようにしているから、心配はないけど……
さすがに、見張りもつけないで放置、というわけにはいかない。
「ソラ、ルナ。それと……ニーナ。この二人を見張っておいてくれないか?」
「うむっ、いたぶればよいのだな?」
「いやいや、そんなことは言ってないから」
「なんだ、違うのか」
「ソラ達をコケにしたこと、その身をもって後悔させるのかと」
「痛いこと……するの?」
悪役みたいなことを言わないでほしい。
ニーナが誤解してしまったじゃないか。
「まあ、聞きたいことはあるけどな」
オーグとクロイツの前に立つ。
すると、何が起きてもいいように、みんなが警戒をした。
とても頼りになる。
安心して、話を進めることにしよう。
「どうして、こんなバカな真似をしたんだ?」
「……」
「俺達に負けるのが悔しかった? それとも、先輩としてのプライドが許せなかった?」
「……」
「答えろ。返答によっては、拘束を解くことも考える。でも、何もしゃべらないというのなら、このまま密猟者達と一緒にギルドに突き出すぞ」
「にゃー……レイン、なんか怒ってる?」
「珍しくピリピリしてるわね」
「まあ……怒っているといえば、怒っているよ」
依頼のダブルブッキングにより、勝負が行われることになった。
そして、俺達は勝利した。
それなのに、オーグとクロイツは約束を破り、手柄を横取りしようとした。
それ自体は……それほど気にしていない。
多少、腹立たしくは思うものの……
怒りよりも呆れが勝り、大して思うところはない。
強いて思うなら、この二人と同じレベルにはなりたくない、というところだろうか。
「レイン、大人だねー」
「あたしなら、丸焼きにしてるとこなんだけどね」
「でも、それならば何に対して怒っているのだ?」
答えは簡単だ。
依頼が失敗するかもしれないということ。
そのことに、俺は強い怒りを覚えていた。
断っておくけれど、冒険者の名声が落ちるということは気にしていない。
その辺りは、あまり興味がない。
名声を得ることにまったく興味がないわけじゃないけど……
俺は、頼りになる仲間がいれば、それでいい。
話が逸れた。
とにかく、俺が気にしているのは、依頼が失敗してしまうということだ。
この場合は、密猟者を取り逃がすことにある。
もしも、失敗したら?
報酬がもらえない。
場合によっては、違約金を払うことになる。
それは些細な問題だ。
一番の問題は、ホーンウルフの乱獲が止められない、ということだ。
自分のミス……
しかも、身内で争うなんていう、わりと最悪な出来事のせいで依頼が失敗して、ホーンウルフの乱獲を止められなかったら?
目も当てられない。
「そっか……レインは、ホーンウルフの心配をしていたんだね」
「普通は、依頼の成功失敗を気にすると思いますが……でも、ある意味、レインらしいかもしれませんね」
「……レイン、優しい……ね」
「まったく、お人好しなんだから。ま……そういうの、嫌いじゃないわよ」
俺の考えは甘いかもしれないけど……
でも、みんなは笑顔を浮かべている。
みんなが理解してくれるのならば、それでいい。
「綺麗事を……」
「綺麗事で構わないさ。実際に、それでホーンウルフを助けられるんだからな」
「ちっ……こんな甘ちゃんに、この俺が……」
オーグが恨み節を吐いた。
クロイツは何も言わないものの、こちらを睨みつけているところを見ると、心中はオーグと同じなのだろう。
「それで……なんで、こんなことをしたんだ?」
「……認められるわけねえだろ。たかが一ヶ月の新人に俺達が負けるなんてこと、ありえるわけがねえ」
「あなた達には分不相応な依頼です。私達が引き継ぐのは、当たり前のことと言えるでしょう」
「あのな……」
先に密猟者を捕まえた方が勝ち。
そういう条件で勝負をしたはずなのに……
いざ負けてしまうと、文句をつけて、横取りをしようとする。
冒険者としてのプライドは、まったくないようだ。
今も、まるで反省していないみたいだし……
このまま無罪放免、っていうわけにはいかないな。
こういうことは、きっちりとしておかないと、今後に響くかもしれない。
「今回のことは、ギルドに報告させてもらう」
ギルドは、冒険者同士の諍いを仲裁することもある。
今回のようなダブルブッキングは珍しいが……
その他の要因で冒険者同士の間で諍いが起きることは、そうそう珍しくはないらしい。
冒険者同士が争えば、依頼が達成不可能になることはもちろん、周囲からの信用も落ちてしまう。
冒険者をきちんと管理することができないとして、ギルドの権威も落ちてしまう。
結果的に、依頼が寄せられることもなくなり、冒険者も仕事を失い……という悪循環に陥ってしまう。
そうなることを防ぐために、ギルドでは、冒険者同士の争いを禁止している。
諍いが起きたとしても、殺し合いはタブー。
事の顛末は、必ずギルドに報告しなければいけない。
そして、ギルドが公正な判断を下す。
そうすることで、ギルドは冒険者たちを管理、導いている。
ここで、ギルドが不公平な判断を下すということは考えづらい。
オーグとクロイツには、適正な罰がくだされるだろう。
「くそっ……覚えていろよ」
「この屈辱、忘れませんよ……!」
「俺の方はもう忘れたよ」
こんな連中、覚えておく価値もない。
そんな俺の態度に、二人はますます顔に怒りをにじませるけれど、相手にしない。
それが二人の自尊心をひどく傷つけたらしく、顔を歪ませた。
これくらいはいい薬になるだろう。
「じゃあ、ソラとルナ。ニーナ。後は頼んだ。俺達は、密猟者達に話を聞いてくるから」
「うむっ、任せるのだ!」
オーグとクロイツを三人に任せて、少し離れたところで動きを封じられている密猟者達のところへ。
「待たせたな」
「……」
「お前達は、このままギルドに連れて行くことにした。それから、騎士団に引き渡されるだろうな」
「……」
「ただ、その前に聞いておきたいことがある。お前達の取引相手のことだ」
「……」
「捕らえた獲物はどこに運んでいた? 誰と取引をしていた?」
「……」
密猟者達はだんまりを決め込んでいる。
こちらを目を合わせようともしない。
なかなか骨が折れそうだ。
「にゃー……一発、いっておく?」
「カナデの一発は強烈すぎるからなあ……」
「なら、あたしが焼いてあげましょうか?」
「タニアも強烈だからなあ……」
さて、どうしたものか?
尋問とか、苦手なんだよな。
というか、やったことがない。
脅せばいいのだけど、どうすれば、密猟者達の心を折ることができるのか……
「グォッ」
「うん?」
トントン、と力強い感じで肩を叩かれた。
それと、野太い鳴き声。
振り返ると、熊がいた。
「うわっ!?」
「にゃん!?」
「なによっ、敵!?」
「あっ……いや、待った! そうじゃない、大丈夫だ」
コイツ、俺がテイムしていた熊だ。
そういえば、テイムしたままで、仮契約を解除していなかったな。
新しい命令を求めて、俺達の後を追いかけてきたんだろう。
とはいえ、新しい命令なんてない。
もう街に戻るから、荷物を持ってもらう必要もない。
ここで仮契約を解除して……まてよ?
「……使えるかもな」
俺はにっこりと笑い、密猟者達を見る。
「ところで、急に話は変わるけれど、俺はビーストテイマーなんだ。で……この熊は、今、俺がテイムしてる」
密猟者達の顔色が変わる。
俺の言いたいことを理解したのだろう。
「知っているか? 熊って、ものすごい力持ちなんだぞ? 人の骨なんて、簡単に折れてしまう。殴られたり、噛まれたりしたら、さぞかし痛いだろうなあ」
「ひっ……!?」
「ここで仮契約を解除したら、どうなるかな? たぶん、動けないお前達に真っ先に襲いかかるだろうなあ……まあ、それも仕方ないか。何も話してくれないなら、ここで放置してもいいよな。問題ないよな」
「えっ、いや、あの……」
「さて……どうする?」
俺は、もう一度、密猟者達に笑いかけた。
「レインって、意外と鬼ね……あんなこと、あたしでもしないわよ」
「鬼畜テイマーにゃ」
こらそこ。
変な称号を追加するのはやめなさい。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!
※9月17日 少しだけ改稿しました




