92話 ニーナの力
密猟者達の手足を縛り、魔法を使われるかもしれないので、念のために目隠しと猿ぐつわを噛ませた。
その状態で、密猟者達が使っていたベースキャンプに移動した。
途中に出会った熊をテイムして捕虜を運んでもらい……
適当なテントにまとめて密猟者達を放り込んでおいた。
少々乱暴な扱いかもしれないが、相手は犯罪者。
必要以上に気遣う必要はない。
それに、一日くらいなら特に問題ないだろう。
さて。
密猟者のことはこれでよしとして、俺達は野営の準備を進めないと。
「カナデ、そっちはどうだ?」
「うん。問題ないよ、普通に使えると思う」
テントを調べているカナデに声をかけた。
カナデはテントの入口からひょこっと顔を出して、にっこりと応える。
日付をまたぐことになるとは思っていなかったから、テントは持ってきていないんだよな。
かさばるし。
なので、密猟者達のテントを使えることはうれしい。
「えっと、オーグとクロイツは……?」
「あの二人なら、『ここはお前達が使えばいいさ。俺達は、少し離れたところで野営をする』とか言って、どこかに行っちゃったわよ」
「そうなのか?」
意外だ。
逆に、俺達が出て行け、と言われるくらいは覚悟していたんだけど……
「先輩っていうことで、俺達に気を使ってくれたのか?」
「ないない。ありえないわー」
「そうですね。タニアの言う通りかと」
「恩を着せておくとか、つまらないことを考えているに違いないのだ」
みんな、言いたい放題だなぁ。
まあ、俺も近い意見を持っているので、人のことは言えないんだけど。
あそこまで高圧的な人間は、そうそう、態度を変えることはない。
何かしらの打算があると考えた方がいいだろう。
そうだな……うん。
警戒をしておくに越したことはない。
「タニア。オーグとクロイツは、どこで野営をするって?」
「んー、どうでもいいことだから聞き流しちゃったんだけど……」
「ここから、さほど離れていませんよ。北に50メートル行ったところにある、川辺で野営をするそうです」
「なるほど。じゃあ……」
道中、出会った熊とは、まだ仮契約を交わしたままだ。
ベースキャンプの入口に待機させている。
その熊のところに移動して、新しい命令を与える。
「夜、俺達が使っているテントに近づく者がいたら教えてくれ。頼んだぞ」
「グオウッ!」
任せてくれ、というように熊が吠えた。
「っ!?」
熊の鳴き声に反応して、ニーナがびくりと震える。
熊なんかより、ニーナの方がはるかに強いんだけど……
まだまだ子供だから、仕方ないか。
ちょっとだけ、苦笑してしまう。
「オンッ!」
そうこうしている間に、熊とは別に、仮契約を交わしておいた野犬の群れが戻ってきた。
それぞれ、口に木の枝を咥えている。
火を起こすために集めてきてもらったんだ。
「……」
気がついたら、ニーナがこちらをじっと見ていた。
「どうしたんだ?」
「レイン……すごいね。こんなに、たくさんの動物を……テイムできるなんて……わたし、知らない……」
「俺としては、当たり前のことなんだけどな」
「「違うから」」
カナデとタニアの声が重なる。
「ふむ……ところで、レインのテイマーとしての技術は、以前と変わりないのか?」
「うん? そうだな……以前と比べると、最近は上達しているような気がするな。契約を交わす時間が短縮しているし、数も増えているような気がするし」
「なるほど」
「ルナ、それがどうしたのですか?」
「いや、なに。ふと思ってな。レインのとんでもテイマー能力は、以前聞いた、勇者の力に似ているものがないか、とな」
「勇者の力に? それは、どういうことですか?」
「そこまで深く聞くな。ただの思いつきなのだ。なんとなく、似ているな、と思ったのだ」
俺のビーストテイマーとしての力が、勇者の力に……?
言われてみると、そんな気がしないでもないが……
さすがに気のせいだろう。
「ふむぅ、我の勘は外れたことはないのだが……」
「それよりも、ごはんの用意をしよう」
「にゃあ、ごはん♪」
「ニーナ、頼むよ」
「……んっ」
ニーナが何もないところに手を伸ばして……
蜃気楼のように空間が揺らいで、手の先が消える。
「えっと……まず、お野菜……それから、お肉……あと、香辛料……」
ひょいと手を引っこ抜くと、ニーナの手に野菜や肉や香辛料が握られていた。
神族のニーナが持つ能力、『亜空間収納』だ。
物を亜空間に収納して、いつでも取り出せることができる。
ニーナはまだ子供なので、一食分しか収納することができないが……
それでも十分だ。
現地調達をしなくていいというのは、かなり助かる。
念のために準備してもらっていたんだけど、大正解だった。
「んー……?」
ふと、カナデがニーナをじっと見つめた。
「どう……したの?」
「それって、私も中に入れたりするの?」
「え? カナデ、あんた、そういう趣味があるわけ」
「どういう趣味なのだ?」
「謎が深まりますね……」
「えっと……入ることは、できるよ? 生き物も……収納、可能」
「おーっ、すごいね! ねえねえ、試しにちょっと入ってみてもいい? 今なら、私が入るスペースもあるんじゃない?」
「ある、けど……でも、やめておいた方が、いいよ?」
「にゃんで?」
「中、真っ暗で……音もなくて……動けなくて……すごく、怖いと思う」
真っ暗で音もなくて動けない……
それは、封印と言わないだろうか……?
同じような想像をして怯えたらしく、カナデの耳がしゅんと垂れ下がる。
「やっぱり、やめておくよ……」
「……ん」
「それにしても、ニーナはすごいな」
「ふぁっ」
ぽんぽんとニーナの頭を撫でると、ぴくんと体が震えた。
驚かせてしまっただろうか?
手を離そうとすると、ニーナが追いかけてきた。
「……撫でて」
「いいの?」
「……ん」
ニーナがこくりと頷いたので、そのまま頭を撫でる。
「わたしが、すごい……って、どういうこと……?」
「まだ小さいのに、そんな力が使えるなんてすごいことだろう?」
「そう、かな……? 当たり前のことだから……よく、わからない……」
「私もすごいと思うよ? 私達、猫霊族は、そんな器用なことはできないからね」
「あたしも、そんなことできないわよ」
「ソラ達も似たような魔法は使えますが、劣化バージョンですからね」
「うむ。ニーナの本家、亜空間収納には敵わないのだ」
「えと、えと……はぅ」
みんなで口々に褒めると、ニーナは恥ずかしそうにうつむいてしまった。
ただ、喜んでいるらしく、三本の尻尾が落ち着きなく揺れていた。
ちょっとかわいらしい。
「さて。すぐにごはんを作るから、待っててくれよ」
「私、手伝うよ♪」
「では、ソラも……」
「姉よ。それだけはやめてくれ。ごはんではなくて、毒になってしまうのだ」
「前々から思っていたんだけど、ソラって、どんな料理を作るのかしら……?」
「……興味ある……けど、試すのは怖い、かも……」
「みなさんは、ソラの料理をなんだと思っているんですか!?」
ソラの怒るような声がして……
続けて、みんなの笑い声が響いた。
――――――――――
「グオゥッ!!!」
「っ!?」
夜。
食事を終えて、それぞれのテントに入り、寝ていたのだけど……
突然、鋭い咆哮がして飛び起きた。
「今のは……?」
俺がテイムした熊の鳴き声だ。
つまり、侵入者が現れたということ。
念のためにしかけておいたものの、一体、どこの誰がこんなところに?
……いや、考えるのは後だ。
俺は急いで装備を身に着けて、テントを飛び出した。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




