91話 勝敗の行方は?
「ヒール」
魔法を使い、ホーンウルフの傷を癒やす。
幸いというべきか、深い傷はなくて、俺のヒールで治癒することができた。
ただ、もっと深い傷を負っていたら?
毒などを受けていたら?
その時は、難しかったかもしれない。
パーティーに治癒術士が足りないのかもしれないな。
ソラとルナは攻撃魔法が得意だから、なかなか難しいところがある。
「よし、終わりだ」
「オンッ!」
怪我を癒すと、ホーンウルフは元気よく鳴いた。
そのまま、こちらに頭を擦り付けてくる。
「お? よしよし」
「オンッ!」
「ニーナだけじゃなくて、レインも懐かれたみたいね」
「レインは優しいっていうこと、わかってくれたんだよ」
「そうだとしたらうれしいけどな」
ホーンウルフの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
正直なところ、かわいい。
このまま一緒に、連れ帰りたいとさえ思う。
とはいえ、コイツにはコイツの生活がある。
それに、保護指定されている動物を飼うことは難しい。
残念だけど、諦めるしかないか。
「じゃあな。元気でやれよ」
「……オンッ!」
ホーンウルフは一度だけ、こちらを振り返り……
その後、森の奥に駆けていった。
「……元気で、ね」
ニーナが、ばいばいと手を振る。
「これで、一件落着だね」
「ああ。あとは、この連中をギルドに渡すだけだ」
「ふむ」
「どうしたのですか、ルナ?」
「何か、忘れているような気がするのだ」
「うん?」
ホーンウルフは無事に助けた。
密猟者達も捕まえた。
他に、なにかやるべきことはあっただろうか?
「さっきの爆発音、この辺りから聞こえてきたぜ」
「密猟者の手がかりになるかもしれませんね」
森の奥から、オーグとクロイツが姿を現した。
「あっ」
カナデが、そういえば、というような顔をした。
みんなも……俺も、似たような顔になる。
どちらが先に密猟者を捕縛できるか?
この二人と競っていたところだったっけ。
わりとどうでもいいことだから、すっかり忘れていた。
「ふふーんっ、遅かったね!」
「密猟者なら、あたし達が捕まえたわよ」
カナデとタニアが胸を張る。
二人も勝負を忘れていたはずなのに……
思い出した途端、得意げになった。
「なんだと、お前達が捕まえたっていうのか!?」
「バカな。私達より先を行くなんて、ありえません」
「わりと簡単だったよ?」
「そこに転がってる連中が証拠よ。ほら、よく見てみなさい」
タニアに言われて、オーグが気絶したままの密猟者を調べる。
「……確かに、密猟者みたいだな」
「いったい、どのようなトリックを使ったのですか? 私達よりも先に密猟者を捕らえるなど、普通はできることではありません」
「え? ただの実力差じゃない?」
「ぐっ」
さらりと言うタニアに、クロイツが顔を引きつらせた。
追い打ちをかけるように、カナデがどや顔をする。
「ふふーんっ、今回の勝負、私達の勝ちだね!」
「約束通り、今回の依頼はあたし達に譲ってもらうわよ?」
「ぐぬっ……」
「……そのようなことは認められませんね」
「にゃんですと?」
「私達よりも先に密猟者を見つけるなんてことは、普通に考えてありえません。冒険者になって一ヶ月ほどの新人に、私達が負けるなどということは、あるはずがないですからね。なにかしら、トリックを使ったのではないですか?」
「そうだな、その通りだ。実は、すでに密猟者の居場所を掴んでいた……その上で、俺達に勝負を持ちかけた。そうだろう?」
「いや……」
何を言っているんだろうか、この二人は?
当然のことだけど、密猟者の居場所を事前に掴んでいたなんていう事実はない。
そもそも、勝負をしかけてきたのはオーグとクロイツだ。
あらかじめ、何かを仕込んでおくことなんで無理だ。
文句をつけたいだけ?
いや……
自分達の負けを認めたくない、ということだろうか?
「この勝負は無効だ。いいな?」
「まったく……私達に勝てないと思い、卑怯な小細工をするなんて。冒険者の名を貶めるような行為は謹んで欲しいですね」
「にゃー……この二人、むかつくにゃ」
「どこかの勇者を思い出させるわね」
話が通じないな。
とはいえ、相手も同じ冒険者。
まさか、実力行使をするわけにはいかないし……どうしたらいいんだ?
「あー……とりあえず、依頼の件については、ひとまず保留にしないか?」
「なんだと?」
「そのようなことを言って、ごまかそうとする気なのですか?」
「違うって。改めて勝負をするにしても、もういい時間だろう?」
空を見ると、日が傾き始めていた。
思っていたよりも、時間がかかっていたらしい。
「街に戻るにしても、捕虜を連れてとなると、時間がかかる。今日はもう、野営の準備をした方がいいだろう?」
「それは、まあ……そうだな」
「密猟者達が使ってるベースキャンプが近くにあるらしい。そこを利用させてもらおう。依頼の件については、また改めて、明日決めるってことでどうだ?」
「……いいでしょう。了解しました」
よかった。
ひとまず納得してくれたみたいだ。
「俺達は捕虜を運ぶから、二人はキャンプの方を調べてくれないか?」
「なんだ、俺達に指示するってのか?」
「ただの提案だよ。密猟者達は人数がいるし、人手が多い俺達の方がやりやすいだろう? 特に意味なんてないさ」
「……オーグ。ここは……」
「……そうだな」
何やら、オーグとクロイツが意味ありげに目配せをした。
何を考えているのだろうか?
ロクでもないことを考えてないといいんだけど……
微妙にイヤな予感がするんだよな。
こういう時の勘は、わりとよく当たる方だ。
ただの気のせいであってほしいが、どうなることか。
――――――――――
オーグとクロイツは、密猟者達が使用していたベースキャンプに移動した。
森の中にぽっかりと開けた広場に、複数のテントが並べられている。
それとは別に、滑車のついた牢。
獲物を捕らえておくためのものだろう。
「そっちはどうだ?」
「特に何もありませんね」
もしかしたら、別行動をしてる密猟者が潜んでいるかもしれない。
そう判断した二人は、ベースキャンプを捜索した。
結果、誰もいないという結論に達する。
「何かしらあると思ったが、こうも何もないとはな……」
「少し拍子抜けしてしまいますね」
「ま、楽なことはいいことさ。それよりも……」
「問題は、依頼の件ですね」
オーグとクロイツは、揃って渋い顔をした。
冒険者になって一ヶ月たらずの新人に、依頼を横取りされた。
卑怯な手を使われた。
許せることではない。
ベテランの冒険者として、正しいあり方を見せつけてやらなければ気が済まない。
……実際は、彼らが考えていることはまったくの的はずれなのだけど。
そのことを自覚する可能性はなさそうだ。
「どうする? このままだと、あいつらに依頼を奪われるぞ」
「そうですね……」
「ふざけやがって……俺達を差し置いて依頼を請けるなんて、百年早いんだよ。そのことを、しっかりとわからせてやらねえと」
「……一つ、思いついたことがあります」
「おっ、さすが相棒。どんな手だ?」
「簡単な話です。私達が先に依頼を達成してしまえばいいのですよ」
「うん? そりゃ、どういうこった?」
「つまり……」
オーグとクロイツは、今後の相談を重ねた。
その内容は、『卑怯』と呼ぶ以外のなにものでもないけれど……
二人はそれが正しいことであると、自分達こそが正義であると信じて疑うことはない。
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