9話 キングリザード
数百匹のアールビーの群れを盗賊団のアジトに突入させて、一時間が経過した。
そろそろいいだろう。
そう判断して、俺はアジトの中に踏み込んだ。
「ぐっ……ががが……」
「か、体が……」
「ちく、しょう……なんで、こんな……」
あちこちに盗賊が倒れていた。
皆、アールビーの毒にやられているらしく、痙攣するだけで、まともに立ち上がることができない。
アジトを隅から隅まで捜索して、全員が倒れていることを確認する。
これなら安全に捕縛することができそうだ。
後は、カナデがうまいこと冒険者や兵士を連れてきてくれればいいんだけど……
「お?」
洞窟の外が騒がしくなってきた。
「おーいっ、レインー! 連れてきたよーーーっ!!!」
大きなカナデの声。
どうやら、カナデの方も成功したらしい。
――――――――――
一度、外に出て、カナデが連れてきた援軍に事情を説明した。
最初は半信半疑だったけれど、洞窟の中で転がっている盗賊たちを見せると、信じてくれたらしい。
集められた冒険者と兵士たちは、一人、また一人と盗賊達を捕縛していった。
その様子を、カナデと一緒に洞窟の入り口で眺める。
「にゃふぅ、急いだからちょっと疲れたよー」
「おつかれさま」
「レイン、レイン。私、役に立った?」
「ああ、ちょうどいいタイミングだったよ。ありがとうな」
「にゃあ♪ レインに褒められちゃった」
カナデの頭を撫でると、耳がぴょこぴょこと動いた。
喜んでいるみたいだ。
「これで事件は解決だな」
「……にゃっ!?」
ふと、カナデが鋭い顔になる。
何かを警戒しているような、険しい表情だ。
「どうしたんだ?」
「この気配……まずいよっ、レイン!」
え? と思った時……
洞窟の中から悲鳴と轟音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
急いで中に入る。
すると……
「キシャアアアアアァッ!!!」
10メートルはあろうかという、巨大なリザードが冒険者と兵士に襲いかかっていた。
ビーストテイマーの訓練をしている時に、この個体について学んだ記憶がある。
キングリザード。
Cランクに匹敵する魔物で、一度暴れると手がつけられなくなる、凶暴な個体だ。
「どうして、こんなところにキングリザードが!?」
「そ、それが、漆黒の牙が飼いならしていたみたいで……くそっ、こんなヤツがいるなんて聞いてないぞ!」
近くにいた冒険者が、そう教えてくれた。
「レイン!」
「ああ!」
以前の俺なら、キングリザードを相手にしても何もできなかった。
アリオス達がいたとしても、何もできないと判断していた。
でも、今の俺は違う。
カナデがいる。
猫霊族とか、そんなことは関係ない。
カナデが一緒なら、なんでもできるような気がした。
だから……
コイツに立ち向かう!
「いくぞっ、カナデ!」
「にゃんっ!」
二人で突撃する。
ブゥンっ!
巨大な尻尾の一撃を避けて、体を支える四肢の一つに打撃。
全力で拳を突き出して……インパクト!
確かな手応えが伝わってきて、キングリザードが吠えた。
「な、なんだと!?」
冒険者や兵士たちが驚愕する。
「あのキングリザードにダメージを与えた!?」
「しかも、素手でなんて……本当は、とんでもない冒険者なのか?」
「続けていくよーっ!」
カナデがジャンプして、くるくると回転した。
そのスピンを活かして、キングリザードの頭を殴りつける!
「グギャアアアアアッ!!!?」
さすが、というべきか。
カナデの痛烈な一撃で、キングリザードは大きくよろめいた。
「しばらく……寝てろっ!」
よろめいたところに、俺は蹴撃を叩き込んだ。
首の横に一撃。
意識を刈り取るような攻撃に、キングリザードは耐えきれず、その場に崩れ落ちた。
「ふぅ」
「レイン、やったね!」
「ああ」
カナデとハイタッチを交わす。
しかし、冒険者や兵士達の顔色は悪い。
顔面が青白くなっていて、今にも死んでしまいそうな雰囲気だ。
「どうしたんだ?」
「あ、あ……あれを……」
冒険者が指さした先には……
「キシャアアアアアッ!!!」
新たなキングリザードが。
しかも、一体ではなくて複数。
「マジか。どれだけ飼っていたんだよ」
「うにゃー……さすがにめんどくさいかも」
「でも、めんどくさいっていうだけで、いけるだろ?」
「レインは?」
「大丈夫だ」
「お、おい……あんたら、何を言っているんだ? 早く逃げないと死ぬぞ!?」
冒険者が必死の形相で訴えてくる。
予想外の援軍に動揺して、状況が見えていないみたいだ。
「今から無事に逃げられるとでも?」
「うっ、そ、それは……」
「大丈夫だ。キングリザードは、俺達が相手をする。その間に、皆は避難してくれ」
「そんなっ……あんたたちを見捨てるなんてこと、そんなことは……!」
「大丈夫だよ」
カナデが笑う。
俺も笑う。
「俺達がなんとかする」
――――――――――
冒険者と兵士たちは、捕縛した盗賊たちを連れて、必死になって洞窟の外に逃げた。
本当は、盗賊なんて捨てて逃げ出したかった。
しかし、自分たちのために自らを犠牲にしてくれた人がいる。
最低限、務めは果たさなければいけない。
恐怖に震えながらも、捕縛した盗賊たちを外に連れ出して……
そして、なんとか自らも外に逃げることに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あの二人は……?」
冒険者が洞窟の方を見る。
微かに、争うような音が聞こえてきた。
今も戦っているのだ。
まだ生きている。
冒険者は安心するが……
応援に行くだけの勇気は出なかった。
あんな怪物を相手に、自分ができることなんて何もない。
できることといえば、二人の無事を祈るくらいだ。
「頼む……どうか、無事に……!」
冒険者になって数年。
神に祈ったことなんて、一度たりともないが……
この時だけは、心の底から二人の無事を神に祈った。
そして……
洞窟の奥から聞こえる争いの音が止んだ。
戦いが終わったのだろう。
どちらが勝利したのだろうか?
普通に考えるのならば、キングリザードだろう。
複数のキングリザードとまともに戦えるわけがない。
一方的に蹂躙されるだけだ。
数分待っても、誰も姿を見せない。
絶望感が漂い始めた時、
「あっ」
誰かが声をあげた。
足音が聞こえる。
二人分の足音が。
やがて……
「「「おぉおおおおおっ!!!!!」」」
自分たちを守るために、洞窟に残った二人が姿を見せた。
その二人を見て、その場にいた者は大きな歓声をあげるのだった。
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