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89話 密猟者を探そう

 オーグとクロイツは、『疾風の刃』という通称を持つベテラン冒険者だ。

 二人組という少数のパーティーでありながら、ほとんど失敗することなく、数々の依頼を達成している。

 一箇所に定住することなく、各地を旅してきた。


 経験も豊富で、知識も持っていた。

 今はCランクではあるものの、Bランクに匹敵するのではないか? と言われている。

 それは事実で、彼らが昇格試験を受ければ、高い確率でBランクに登りつめるだろう。

 そうしないのは、単に時間とタイミングがなかっただけだ。


 オーグとクロイツの二人組は、間違いなく、ベテランと呼ばれる冒険者だった。


 今まで挫折を味わうことなく、順調に今の地位まで登りつめてきた。

 それは、自分達の実力によるものだと理解している。

 それ故に、プライドが高い。


 冒険者になって、たった一ヶ月の子供……あくまでもオーグ達から見た印象になるが……が、自分達と同じCランクに登りつめた。

 よくよく話を聞いてみると、自力ではない。

 最強種という仲間のおかげではないか。


 ズルをしているのではないか?


 ついつい、そんなことを考えてしまう。


「あんな生意気なガキには、世間の道理ってもんを叩き込んでやらねえとな」

「そうですね」

「俺達が数年かけて辿り着いたCランクに、一ヶ月だと? んなこと、ありえるわけがねえ。最強種の力におんぶ、ってところだな」

「あのような者が増えることは、私達としても好ましくありませんね。冒険者の質が下がったと思われかねない」

「そうだな。そんなことは認められねえ」

「酷かもしれませんが……私達が、現実というものを教えてあげるとしましょう」

「ははっ、泣くかもしれねえな、あのガキ」

「そのまま引退、ということもありますね」

「仕方ねえさ。俺達のような一流と贋作、その違いを見せつけられたら、正気じゃいられねえだろうからな」

「世間知らずに、本物の冒険者というものを見せてあげるとしましょうか」


 オーグとクロイツは笑うけれど、彼らはまるで気がついていない。

 どちらが世間知らずなのか、ということに。




――――――――――




「さあっ、いくよ、レイン! 急いで密猟者を捕まえないとっ」


 カナデがぐいぐいと俺の手を引いた。


「お、落ち着け。急ぐのはいいとしても、カナデは、密猟者がどこにいるのかわかっているのか?」

「……あ」

「わかっていないんだな」

「にゃあ……あの二人に負けたくないから、つい」

「カナデ……ちょとつもーしん?」

「にゃぐ!?」


 ニーナの悪気のない言葉がカナデの胸に突き刺さる。


「思い込んだら一直線、なところはあるわよね」

「もう少し冷静に、理知的に考えて行動することをオススメするぞ」

「ルナに言われたくないと思いますが……」

「我はいつも深く考えて行動しているぞ?」

「ソウデスネ」

「なんだ、その棒読みの答えは!?」

「ほら、落ち着いて」


 話がどんどん脱線していく。

 みんな、賑やかな性格をしているからなあ。


「俺だって、負けるつもりはないさ」

「ふーん……レイン、珍しくやる気じゃない」

「ああまで言われて、悔しくないわけないからな。やる時はやるさ」

「……そういうところ、かっこいいのよね」

「うん?」

「な、なんでもないしっ」

「そうか? ならいいけど……それなら、早速始めるとしようか」

「にゃん? なにを?」

「もちろん、密猟者探しだ」


 近くを通りかかったうさぎと仮契約を交わした。

 仲間を呼んでもらい、さらに、数十匹のうさぎと仮契約を交わす。


「うさぎ……いっぱい……」


 ニーナがキラキラと目を輝かせていた。

 うさぎが好きなんだろうか?

 子供はかわいいものが好きだからな。


「よし、行けっ」


 俺の合図で、一斉にうさぎが散る。


「にゃー……何度見ても、おかしい光景……」

「わたし、初めて見るから……びっくり……」

「これくらいで驚いていたら、この先、さらに驚くことになるぞ?」

「人をびっくり箱のように言わないでくれ」

「でも、うさぎ達に探させるなんて、平気なの? 関係ない人と犯人、見分けられるのかしら?」


 タニアの疑問は尤もだ。


 うさぎに与えた命令は、『人を探して、居場所を教えろ』というシンプルなものだ。

 この森には俺達の他の、さっきの二人組もいる。

 まだ、普通の狩りに来ている人もいるだろう。

 それらの人と密猟者を見分ける術は、うさぎは持っていない。

 というか、そこまでの複雑な命令は不可能だ。

 第一、俺も密猟者の姿を知っているわけじゃないからな。


 今のままでは、密猟者を見つけることは難しい。

 なので、もう一つ、手を打つことにする。


「その辺は、ちゃんと考えているさ」

「どうするの?」

「人を見つけたら、遠隔で、そのうさぎと同化する。そして、見つけた人が密猟者かそうでないか、判断する。一人一人確認することになるけど、これが確実だろう」

「にゃるほど」

「というか、遠隔で同化なんてできたの……? あたし、そんなこと、初めて聞くんだけど……」

「ん? 問題なくできるぞ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!」

「レイン……すごい、ね……」

「このようなことは、何度もありますからね。これからも、度々、あると思います。いちいち驚いていてはいけませんよ」

「……ん」


 だから、人を以下略。


「そんなわけで、これから連続で同化すると思うから、念のために周囲の警戒を頼むよ」

「あいあいさーっ」

「……ところで、聞きたいことがあるんだけど」

「うん?」


 何か、説明の足りない部分があっただろうか?

 不思議に思っていると、タニアは、予想外の質問をする。


「レインって、契約をした相手と同化することができるのよね?」

「そうだけど?」

「それなら……あたし達とも同化できるわけ?」

「え?」

「あっ、言われてみれば、そういうこともできるかもしれないんだ……」

「レインがソラ達と同化……それは、なんていうか……」

「……うむ、恥ずかしいぞ」


 妙な想像をしているらしく、みんなが顔を赤くする。

 俺は慌てて手を横に振る。


「い、いやいやっ。そんなことはできないから」

「でも……」

「同化できるのは、うさぎのような小動物くらいで、ちゃんとした自我を持っている相手は無理というか、できないから。それに、そんなことができたとしても、みんなを相手にするわけがないだろう?」

「……ま、それもそうよね」


 納得した様子で、タニアが笑う。


「そんな度胸があるのなら、今頃、レインはあたし達をどうこうしてるかもしれないし」

「にゃはー、レインには無理だよねー」


 信頼されているのか。

 それとも、度胸がないとけなされているのか。

 微妙に判断に迷うところだ。


「と、とにかく。周囲の警戒は頼むよ。反応があったら、うさぎと同化しないといけないから」

「任せてちょうだい。レインには、指一本触れさせないわ」

「ん……がんばる」

「おっ……そういう言っている間に、さっそく反応があった。じゃあ、頼んだ!」


 みんながいれば安心だ。

 俺は近くの岩場に腰かけて、ゆっくりと目を閉じた。


「……」


 再び目を開けると、視線が地面スレスレ……低いところで固定されていた。

 うさぎの視点なのだろう。


 視界の先に、さきほど別れた二人組の冒険者が見えた。

 この二人に反応したらしい。

 今回は外れだな。

 次だ。




――――――――――




 何度かうさぎと同化を繰り返して、密猟者を探していく。

 冒険者、狩りに来ている人、商人……色々な人を見つけたものの、肝心の密猟者の姿はない。

 今は森にいないのだろうか?

 それとも、見逃してしまったのだろうか?


 わずかに焦りを覚えた時……


「っ!?」


 別のうさぎと同化すると、不審な男達を見つけた。

 四人組の男達は、弓矢と解体用のナイフを手にしていた。

 それだけならば、狩りをしているだけと思えなくもないが……


 連中は、ホーンウルフを追いかけていた。

 間違いない。

 この連中が密猟者だ。

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[一言] レイン「ん?問題なくできるぞ?言ってなかったっけ?」           ↑ なんとなく「空戦魔導士候補生の教官」のカナタの口癖 「ん?言ってなかったか?○○だって言ったんだけど」 を思い出…
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