87話 新しい武器
密売人を相手にするということは、戦闘になる可能性が極めて高い。
そのための準備をしなければいけない。
というわけで、ガンツの武具店にやってきた。
「こんにちは」
「おう、お前さんか」
店に入ると、ガンツが読んでいた本をぱたんと閉じた。
「にゃー……ヒマなの?」
「がははっ、ハッキリとものを言うお嬢ちゃんだな」
「だって、ヒマそうなんだもん」
「今は休憩中じゃよ」
「休憩なのに、本を読んでいるの? そんなことしたら、余計に疲れちゃうよね」
「それはカナデだけでしょ」
「ひどいっ!?」
タニアのツッコミに、カナデががーんっ!? というような顔をした。
「儂の仕事は体を動かしてばかりだからのう。たまには頭も使ってやらないと、錆びついてしまいそうなんじゃよ。それで、今日はどうした?」
「そろそろ武器ができてるんじゃないかと思って」
「おおっ、そうじゃったな。できておるぞ」
ガンツは本を棚にしまうと、一度、店の奥に消えた。
待つことしばし。
一本の短剣を手に、ガンツが戻ってきた。
「ほれ、これがレインのために作った、儂の最高傑作じゃ」
短剣を渡された。
鞘から抜いて、刀身を確かめる。
どんな金属を使っているのだろう?
刀身は燃えるように赤く、わずかに刃が反っていた。
「綺麗ですね……思わず見惚れてしまいます」
「刃に見惚れるなんて、我が姉は危ない趣味を持っているのだな」
「ルナは、ソラを貶めたいのですか?」
「うむっ!」
「……よろしい、ならば戦争ですね」
「け、ケンカは……ダメ、だよ……?」
睨み合う姉妹がニーナに諭されていた。
最近、わりとよくある光景だ。
二人は、ニーナの前でケンカを続けるわけにはいかないらしく、矛を収める。
教育に悪いとか、そういうことは、一応、考えてくれているらしい。
「ん?」
短剣を確認していると、妙なものを見つけた。
柄の部分に見慣れないものがついていた。
「これは……引き金?」
なにかのスイッチなのだろうか?
柄にトリガーが設置されている。
引き金を引くと、刀身が飛び出すような仕掛けでもあるのだろうか?
「ガンツ、これは?」
「ふふふっ……そいつは、儂の研究の成果じゃよ」
「刀身を射出するとか?」
「ふんっ。そんなチャチな代物ではないわ」
だとしたら、なんだというのだろう?
不思議そうな顔をしていると、ガンツがニヤニヤと笑う。
説明したくてたまらない、というような表情だ。
こういうところで、子供みたいなところがあるよな。
頑固な故に一途で、幼い部分が残っているのかもしれない。
「説明を頼むよ」
「いいじゃろう」
その言葉を待っていたらしく、ガンツは嬉々として説明を始める。
「これは、レインのために作った専用の武器じゃ。他の者が手にしても、その真価を発揮することはできん」
「俺専用の……?」
「レインはビーストテイマーで、最強種である嬢ちゃん達を使役してる。そこに、儂は注目した。その短剣は、嬢ちゃん達の力を蓄えることができるのじゃよ。それにより、とんでもない破壊力を生み出すことができる」
「この短剣に、私達の力を? にゃー、すごいね。そんなものが作れるなんて」
「でも、本当にそんなことができるのかしら? 見た感じ、ちょっと変わった短剣にしか見えないんだけど」
「むっ、儂の最高傑作にケチをつけるつもりか?」
「そういうわけじゃないけど、実際に試したわけじゃないんでしょ? 本当にうまくいくかどうか、心配になるじゃない」
タニアの言うことも尤もだ。
実戦の最中に暴発、なんてことになったら目も当てられない。
「試してみても構わないか?」
「むう……儂の力量が疑われているみたいで、少々納得がいかんが……まあ、試し斬りは必須か。いいじゃろう、ついてこい」
ガンツが店の奥に消える。
その後について外に出ると、店の裏手に辿り着いた。
店の裏手はちょっとした広場になっていた。
木で作られた的が設置されていて、ここで試し斬りが行われているみたいだ。
「まずは……」
仮想の敵をイメージ。
短剣を構えて、右から左に振る。
次は、左から上へ。
最後に、上から下に叩きつけるように。
くるりと短剣を回して、鞘に収納。
「おーっ、レイン、かっこいいよ♪」
「ぱち、ぱち……」
カナデとニーナの声援に、ちょっとだけ照れてしまう。
「ふむ」
短剣の使い心地はかなり良い。
今までに手にしたどの短剣よりも手に馴染む。
それに、重すぎず軽すぎず、ちょうどいい塩梅だ。
「ふっ!」
軽く的の木を斬りつけてみた。
刃の軌跡に沿って、木が二つに断たれる。
「切れ味も問題なし……と」
これなら、普通に使う分は問題ない。
というか、文句のつけようがない。
俺が知る限り、最高の短剣だ。
気になるところがあるとすれば……
やはり、ガンツが言っていたギミックだろう。
最強種の力を短剣に乗せる。
一体、どれほどの効果があるのだろう?
「ガンツが言っていたギミックを使ってみたいんだけど、どうすればいいんだ?」
試し斬りを観戦していたガンツに声をかけた。
「使い方は簡単じゃ。まずは、誰でもいいから嬢ちゃんと手を繋げ」
「手を?」
力を上乗せする、って言ってたから……
手を繋ぐことで力を分けてもらう、とかそういう感じなのだろうか?
「じゃあ……」
「「「「はいっ!!!!」」」」
「……は、はい……」
誰か手伝ってくれないか?
そう言おうとして振り返ると、みんなが一斉に手を上げた。
「私が一番最初に手を上げたよ!?」
「何言ってんのよ、あたしに決まってるじゃないっ」
「実験に必要なのは、物事を冷静に観察する能力です。ソラが一番の適任です」
「我こそが一番役に立つのだぞ!」
「……れ、レインのお手伝い……したいな」
みんなの間で、バチバチと火花が散る。
みんなが一斉にこちらを見て、問いかける。
「「「「誰を選ぶのっ!?」」」」
「……え、えと……」
なんで、そこまでやる気になっているんだろう……?
ただの実験なんだけどな……
「あー……じゃあ、ニーナ。お願いするよ」
「あ……うんっ!」
無難なところでニーナを相方に選んだ。
他のみんなは悔しそうにしていたものの、ニーナを相手に文句を言うわけにもいかず、妙なことはしていない。
「えと、えと……し、失礼します……」
なぜか、妙にかしこまった口調になり、ニーナが俺の手を握る。
こちらからも握り返すと、ニーナの三本ある尻尾がぴくんっと揺れた。
どうしたんだろう?
ただ手を握っただけで、おかしなことはしていないんだけどな……
「えっと……それで、どうすればいいんだ?」
「その状態で、引き金を引いてみるといい」
「こうか?」
引き金を引いてみると……
繋いだ手から、何かが流れ込んでくるような感触を受けた。
それと同時に、短剣の刀身が輝く。
「これは……」
「今じゃ!」
「っ!」
ガンツの合図に、つい反射的に体が動いてしまう。
ニーナの手を離して、短剣を構える。
地面を蹴るように踏み込んで、的に向かい突撃。
輝く短剣を一気に振り下ろした!
ゴッ、ガアアアアアァッ!!!!!
……木で作られた的は、粉々に砕け散った。
おいおい。
なんて破壊力だ……でたらめすぎる。
いや。
最強種の力を借りているのだから、これくらい当たり前なのか?
「うむっ、実験は成功みたいだな」
「今ので成功なのか……」
「なんじゃ、不満なのか?」
「使い所に困るが……いや、不満はないさ」
もうないと願いたいけれど……
もしも、再び魔族と戦うようなことがあれば……その時は、この力が必要になるだろう。
確率は低いだろうけれど、備えておくに越したことはない。
「その武器の名前は、『カムイ』じゃ!」
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
こうして、俺は新しい武器を手に入れた。
すいません。
色々と忙しくなってきたので、毎日更新が難しくなりました。
少し更新頻度を落とします。
詳しくは活動報告にて。




