85話 ニーナの想い
「……」
明かりを消した部屋で、わたしはぼーっと天井を見上げていた。
ふかふかのベッド。
おひさまの匂いがする枕。
「……きもちいい、な」
わたしの部屋がもらえるなんて、すごい贅沢。
本当にいいのかな……?
ちょっとびくびくしてしまう。
「……ふぁ……」
眠くなってきた。
うつらうつらしてしまう。
わたしは、そっと目を閉じた。
「……」
眠いのに、なかなか寝ることができない。
なんでだろう……?
考えて、理解する。
「一人……だから、なのかな……?」
最近は、宿に泊まっていて……
みんな、一緒の部屋で寝ていた。
ぎゅうぎゅうだったけど……
でも、賑やかで、楽しかった。
だから、今は寂しいのかもしれない。
一人になって、落ち着かないのかもしれない。
「……なん、で?」
わたしは、ずっと一人だった。
村で祀られている時も……
悪い人間に捕まった時も……
ずっと、ずっと一人だった。
それなのに、今になって、どうして一人がイヤになるんだろう……?
「よく、わからないな……」
ぐる、っと布団の上で丸くなる。
自分で自分を抱きしめるようにする。
一人でいた頃、いつもこうして寝ていた。
自分の温もりに浸り、寂しさをごまかしていたのかもしれない。
「わたし……寂しかった、のかな……?」
よくわからない。
色々なことがあって、そういうところ……感情が麻痺してしまったような気がする。
ううん。
そういうわけじゃないのかも。
麻痺というよりは……我慢、していたのかな。
現実が辛いから……
逃げるように自分の殻に閉じこもり。
心を閉ざしてきた。
目の前の光景を見ないようにしていた。
そうすることで、わたしは、わたしを守っていた。
「でも……」
今は……そんなこと、する必要がないんだよね……
「……レイン……」
レインがわたしを助けてくれた。
暗いところから、光のあふれる世界に連れ出してくれた。
うれしい。
うれしい。
うれしい。
わたし、頭悪いから……
うまく言えないんだけど、とにかく、うれしい。
レインに助けられて……
みんなと出会って……
わたしは、ようやく、本来の姿を取り戻したような気がした。
「レインのおかげ……ありがと、レイン……」
不思議な感じがする。
レインの名前を口にすると、胸がふわっと温かくなる。
なんだろ、これ……?
悪い感じはしない。
むしろ……うれしい?
ふわふわと体が浮いちゃうような、そんな感じがして……
胸がぽかぽか。
心はふわふわ。
この想い……気持ちいいな。
「……わたし、も……料理、覚えたいな……」
夜。
ルナとティナが料理を作って……
それをおいしそうに食べているレインを見たら、そんなことを思うようになった。
ううん。
別に、料理じゃなくてもいい。
レインが喜んでくれるなら、なんでもいいの。
レインのために何かしてあげたい。
恩返しがしたい。
だって、レインは……
「……ふぇ?」
そこまで考えて、思考が止まる。
レインは……なんだろう?
レインは大事。
わたしを助けてくれた。
すごくすごく感謝している。
でも……どうして、かな?
大事っていうだけじゃなくて、それ以上の何かがあるような……?
「……うーん」
考えてみるけど、よくわからない。
ただ……
レインのことを考えると、胸が温かくなるだけじゃなくて、ちょっとだけ切ない感じになっていることに気がついた。
なんだろう、これ……?
わたし、こんな気持ち、知らないよ……?
「……気のせい、かな……?」
胸がきゅっ、ってする感覚は、少しして消えた。
なんだったんだろう……?
不思議。
でも……
「イヤじゃない、かな……?」
よくわからない気持ち。
よくわからない想い。
でも……
今は、このぽかぽかを大事にしていきたい。
そんなことを思う。
「……あふぅ……」
そろそろ、本格的に眠くなってきた。
もう夜も遅い。
寝ないといけないんだけど……
「……寂しいな」
やっぱり、一人は寂しい。
みんなと一緒がいいな。
……レインと一緒がいいな。
「んっ」
わたしは、枕を手にしてベッドを降りた。
そのまま部屋を出て、レインの部屋に移動する。
「……レイン?」
コンコンとノックをするけど、返事がない。
扉を開けてみると、レインがベッドですやすやと寝ていた。
「え、と……おじゃまします……」
レインの隣に枕を置いて、ベッドに上がる。
くるっと、丸くなる。
「ん……レイン、温かい……」
これなら、気持ちよく眠れそう。
わたしは、そっと目を閉じた。
……おやすみなさい。
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