78話 Cランクへ
「おめでとうございます!」
話があるということでギルドを訪れると、ナタリーさんが笑顔で迎えてくれた。
見ているこちらが幸せな気分になるような、そんな笑顔だ。
何か良いことがあったんだろうか?
でも、おめでとう……って。
どういうことだろう?
「ねーねー、どうしたの? 何かお祝いごと?」
「先日の一件で、報酬をもらえるとか?」
カナデとタニアがそんなことを尋ねた。
「いえいえ、本日の用事はそういうことではないんですよ。あ、報酬は出るんですけどね」
「そうなのか?」
「もちろんですよ。悪徳領主の逮捕に、魔族の討伐。これだけの偉業を達しておきながら、何もなし、となるとギルドの存在意義に関わりますから」
「ねえねえ、レイン。お金いっぱいもらえる? お魚食べられるくらいもらえる?」
「報酬は、なんと、金貨30枚!」
かなりの大金だった。
予想外の収入はうれしいけれど、突然のことなので、あまり実感がない。
「それがギルドに呼ばれた理由なのか?」
「あっ、すいません。話が逸れてしまいました」
ナタリーさんは一度、奥に移動した。
少しして、書類を手に戻ってくる。
「えー、こほんっ」
「うん?」
「おめでとうございます!」
同じセリフを繰り返すナタリーさん。
俺達一同がキョトンとしていると、ギルドマスターのものらしきサインが書かれた書類を見せながら、ニッコリ笑顔で告げる。
「この度、レインさんの冒険者ランクが、Cにランクアップいたしました!」
「っ!?」
みんな、驚き顔になる。
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「え、ランクアップ……って」
ついつい、同じことを聞き返してしまう。
「ついこの前、Eランクになったばかりだと思うんだけど……というか、Dランクは?」
「にゃー、一つ飛ばしているね」
「飛び級ですか?」
カナデとソラがあれこれと推測する。
その通り、というようにナタリーさんが笑みを浮かべる。
「普通ならありえないことなのですが……今回は、特例が認められました」
「なんでまた?」
「領主の逮捕に関わっているだけではなくて、Aランク相当の魔族の討伐。これだけの偉業を達成しておきながら、Eランク扱いをするわけにはいきませんし……かといって、Dランクにアップするだけでは、功績にふさわしい報酬とはいえませんし……色々と話し合われた結果、特例としてDランクを飛ばして、Cへのランクアップとなりました」
「おーっ、よくわからないけど、レイン、すごいね!」
「ふふーん、さすが、あたしのご主人様ね。あたしも鼻が高いわ」
「お祝いをしませんか、とソラは提案します」
「ホットドッグパーティーだ!」
「……おめ、でとう……レイン」
みんな、それぞれにお祝いしてくれる。
その言葉が、何よりもうれしい。
「ありがとう。これも、みんなのおかげだよ」
「にゃはー♪」
みんなと出会うことができて、本当によかったと思う。
もしも、俺一人だったら?
みんなと出会うことができなかったら?
……考えるだけでも恐ろしいな。
今、この場に立っていることもできなかったかもしれない。
「……」
「うん?」
ふと気がついたら、ナタリーさんがじっとニーナを見つめていた。
その視線に気がついて、ニーナが俺の後ろに隠れる。
人見知りなところがあるらしい。
「どうかしたのか?」
「また、新しい子が増えていますね……」
「ん? ああ……ついこの前、仲間になったニーナだ。ほら」
ニーナを前に出して、挨拶をするように促す。
ちょっとした父親気分だ。
「え、と……こんにち、は……ニーナ、です……」
「あらまあ、かわいい」
「はぅ……」
かわいいと言われて、ニーナが赤くなる。
そんな仕草がまたそそられるらしく、ナタリーさんがさらにニコニコになる。
「というか……よく見たら、この子、神族ですか……?」
「……ん」
「マジですか……わ、私、子供扱いしちゃいましたよ。怒られませんかね……?」
「そ、そんなこと……しない、よ……?」
「ふぁ」
ナタリーさんが恍惚めいた表情を浮かべた。
「か、かわいいです……だ、抱きしめたいです」
「わたしも抱きしめたいにゃ……」
「うぐ……反則的なかわいさね」
カナデとタニアまで変なことを言い出した。
これもニーナの特殊能力なんだろうか?
……ないか。
「ニーナちゃんはまだ幼いから……いえ、でも、これだけかわいいなら……レインさん」
「うん?」
「レインさんは、小さい子は好きですか?」
「何を言っているんだ?」
ナタリーさんが壊れた。
「こ、こほんっ。つい……すみません、変なことを聞いてしまって」
「いや、まあ、いいんだけど……」
そういえば、こんな話をするためだけに、ギルドを訪れたわけじゃない。
こちらの用事も思い出した。
「ところで、ナタリーさん。先日の魔族のこと、何かわかった?」
突然、エドガーが魔族に変異した。
その原因について、ギルドは何かしら掴んでいるのではないかと思ったのだけど……
「すみません……その件については、何も」
「そっか……」
「内容が内容だけに、騎士団と連携して、全力で調査をしているのですが……容疑者が心神喪失状態で話を聞くことができず、なかなか難しい状況でして」
後で知ったことだけど……
エドガーは一命をとりとめたものの、犯罪者の烙印を押されて、とことん堕ちたことで心を病んでしまったらしい。
自業自得なので、同情はまったくできない。
とはいえ、話を聞けないのは痛い。
あの指輪は、どこで手に入れたものなのか?
一応、報告はしておいたけれど、手がかりはつかめないらしい。
それを聞くことができれば、事件の全容を解明できると思ったんだけど……
「とはいえ、あのような事件は、そうそう起きることはないかと。ギルドでも警戒レベルを引き上げていますし、安心してください」
「そうだといいんだけど」
ナタリーさんの言うとおりだ。
魔族なんてものに関わることは、滅多にありえない。
そのはずなんだけど……
また、同じようなことが起きるかもしれない。
似たような脅威に襲われるかもしれない。
そんな予感を覚えた。
「それにしても……レインさんのパーティーも、それなりの人数になりましたね」
「かな」
俺、カナデ、タニア、ソラ、ルナ、ニーナ。
計六人だ。
ナタリーさんの言う通り、けっこうな人数になっていた。
そろそろ宿を考えなければいけないが……
ついでだ。
ナタリーさんに聞いてみるか。
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「見ての通り、それなりの人数になっているだろう? 宿を考えているんだけど、何か良い方法はないかな、と思って」
「なるほど」
ナタリーさんは考えるような仕草をとり……
少しした後に、口を開いた。
「でしたら、家を購入してはどうでしょう?」
「家を?」
「ある程度のパーティーは、自分達の拠点として、家を購入されているんですよ」
「でも、高いだろう? それなりに金は貯まっているが、さすがに……」
「賃貸なら問題ないと思いますよ。拠点を持つとなれば、ギルドから助成金が出ますし……先の事件の報酬も合わせれば、長期間、借りることができるかと」
一定ランク以上の冒険者パーティーは、街を離れて、遠出することが多い。
そのまま、別の場所に定住してしまうこともある。
そういう事態を防ぎ、冒険者を引き止めるために、冒険者ギルドは助成金を出すことにしたらしい。
……という説明を聞いた。
「どう思う?」
俺一人で決めることはできない。
みんなを見る。
「家? 私達の家?」
「この街を拠点にするなら、という条件がつくけれど」
「私は良いと思うなー。この街、好きだし……レインと一緒の家、楽しみ♪」
「あたしは、まあ、レインと一緒とかはどうでもいいけど……宿よりは快適な生活ができそうね。賛成してあげる」
「ソラも賛成です。拠点があると、色々と役に立つと思います」
「うむ。我も反対はしないぞ。というか、賛成だ。我にふさわしい城を選ぶのだ!」
満場一致で決定。
というわけで……
「なら、家を探してみるか」
「「「「おーーーっ!」」」」
「お……おぉー……」
カナデとタニアとソラとルナが元気よく叫んで……
ニーナが、ちょっと恥ずかしそうに追随した。
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