77話 神族との契約
宿に戻ると、みんなの姿があった。
「おかえり」
「おかえり……なさい」
タニアとニーナが迎えてくれる。
ソラとルナは……
「ルナ。それは、ソラの分のホットドッグですよ。横取りしないでください」
「いつまで経っても食べないから、我がもらってやろうとしたのだ。早く食べないともったいないぞ」
「後々の楽しみにとっておいたのです。さあ、今すぐ返し……あああっ!?」
「はぐはぐはぐっ……うむっ、美味である!」
「……ソラに対する挑戦ですね? 挑発ですね? いいでしょう、その勝負、受け取りました。超級魔法を与えてあげますね」
なにやら姉妹ケンカが勃発していた。
ホットドッグを巡って争っているみたいだけど……
たかがホットドッグで、超級魔法を撃とうとしないでほしい。
見ていて、心臓が痛くなってしまう。
「はい、そこ。ケンカをしない。」
「おっ、レインではないか。おかえりなのだ」
「レインっ、聞いてください! ルナが、ソラのホットドッグを強奪したのです。これは許せることではありません。罰を与えてください」
「強奪ではないぞ? 横取りしただけだ」
「変わりません!」
「えっと……どこで、ホットドッグを?」
金は俺が管理しているはずなんだけど……
「瓦礫の除去の手伝いをしていたら、そのお礼にもらいました」
「以前、我らがホットドッグに夢中になっていたのを見ていて、覚えている者がいたらしい。見事な貢物である」
「なるほど。ホットドッグなら、また今度買ってあげるから。そんなことでケンカをしないように」
「むぅ……レインがそう言うのならば」
「ところで、騎士団の様子はどうだったのだ? レイン達は、あの男のように喋る騎士と話をしてきたのだろう?」
「ああ、そうだった。そのことなんだけど……」
一通りの顛末をみんなに伝えた。
「なるほど……領主達は王都で裁判にかけられるのですか」
「我が直接裁いてやってもいいのだぞ?」
「ま、妥当なところじゃない? でも、新しい領主が選ばれる、って……また変なのが来たりしないでしょうね?」
タニアの懸念は尤もだ。
今までと変わりない人だとしたら困るし、今まで以上にろくでもない人物だとしたら、目もあてられない。
が、さすがにそれはないだろう。
領主を任命する側にも責任はある。
同じ失敗をすれば、責任を取らざるを得なくなるはずだ。
そんな事態は、誰でも避けたいはず。
なので、失敗を繰り返さないように、今度は厳正に領主が選ばれることだろう。
そのことを伝えると、タニアがほっとしたような顔をした。
なんだかんだで、街のことを心配していたらしい。
みんなも似たような顔をしていた。
「これで、この街は正しい方向に歩いていくことができると思う。時間はかかるかもしれないけどな」
「レインのおかげだね♪」
カナデが笑顔で言う。
「いや、別に俺は関係ないだろう?」
「えー、そんなことないよ。レインががんばったから、今があるんだと思うよ。ね、みんな?」
みんながコクコクと頷いた。
なぜか、みんなの中で俺の評価が高い。
そこまで賞賛されるようなことはしていないつもりなのだけど……
少しでも、誰かの力に……この街の人の力になることができたのだろうか?
だとしたら、素直にうれしい。
「ねえねえ、レイン」
「うん?」
「明日からはどうするの?」
「今後のことは、そうだな……ギルドに呼ばれているから、その内容を確認してからになるかな。ただ、その前に……」
ちらりと、ニーナを見る。
俺の視線に気がついて、ニーナがびくんとした。
どことなく緊張した様子で、俺の様子をうかがっている。
「ニーナは、これから先、行くところは?」
「……ない」
「どこかの村で祀られてたのよね? そこに戻らないの?」
「……もう、ないと思う……」
「あ……ご、ごめん。あたし、無神経だったわね」
「うう、ん……気にしない、で……」
ニーナは帰るところがないらしい。
それならば……
「ニーナさえよければ、俺達と一緒に来ないか?」
「ほ、ホント……?」
驚いた様子で、ニーナがじっとこちらを見る。
「わたし……一緒に、いても……いいの?」
「ニーナがよければ」
「わたし、は……」
困惑した感じで、ニーナがうつむいてしまう。
この子の場合、今の言い方だと迷わせてしまうのかもしれない。
なら……
「俺がニーナと一緒にいたいんだ」
「わたし、と……?」
「あんな騒動を一緒に潜り抜けたから、もう仲間みたいなものだろう? だから……このまま一緒にいないか?」
「わたし……役立たずだよ……?」
「そんなことないよ。魔族との戦いの時、ニーナに助けてもらった」
「で、でも……でも……本当に、大したこと……で、できなくて……足、引っ張っちゃうと思うから……」
「役に立つとか立たないとか、そういうことは、ひとまず置いておこう。今は、もっと別のことを考えてほしい」
「別……?」
「俺達と一緒にいたいか、そうでないか。シンプルに、それだけを考えてみないか?」
「あ……」
「ちなみに、俺はニーナと一緒にいたい。ニーナの仲間になりたい。どうかな?」
神族とはいえ、小さな子を放っておけないという気持ちもあるけれど……
でも、それだけじゃなくて。
あの戦いを潜り抜けた仲間として、これからもニーナと一緒にいたいと思った。
この気持ちは、本物だ。
「にゃー……レインが、また口説いてるよ」
「まだ小さいのに……もしかして、そういう趣味なのかしら?」
「ふふんっ、小さいことが有利だとしたら、我に任せるがいい。レインの心をキャッチだ」
「ソラも同じような背丈ですよ」
みんながよくわからないことを言うが、ひとまず、今は気にしないことにした。
ニーナに笑いかけながら……
そっと、手を差し出した。
「一緒に来ないか?」
「……んっ!」
小さな体に、確かな決意を宿して……
ニーナは、俺の手を取る。
――――――――――
新しい仲間が加わり、パーティーはだいぶ賑やかになってきた。
これだけの人数になると、そろそろ宿は厳しいかもしれないな……
部屋数を占拠してしまうから、長期滞在は宿主に嫌われてしまう。
どこか、自分達だけの拠点を手に入れることができればいいのだけど……
「ん?」
クイクイと服を引っ張られて視線を落とすと、ニーナがこちらを見上げていた。
「どうしたんだ?」
「あの、ね……みんな、レインと契約……しているんだよね……?」
ニーナが仲間になり、改めて自己紹介をした際……
みんなは、俺と契約をしていることを口にしていた。
「そうだけど……それが、どうかしたのか?」
「えと、その……」
ニーナがもごもごと、言葉に迷う。
何か言いたいみたいだけど、うまいこと、言葉にできないみたいだ。
すると、カナデが、ニーナの代わりというように口を開く。
「もしかして、ニーナもレインと契約したいの?」
「……ん」
カナデの言葉に、ニーナは小さく頷いた。
「わたし、も……レインの力に、なりたい……の」
「別に、無理することはないんだぞ?」
「うう、ん……無理なんて、していないよ……? わたし、が……したい、って……思うの」
言葉はたどたどしいけれど……
そこには、ニーナの強い意思が感じられた。
「……ん、わかった。そういうことなら、契約をしようか」
「ホントっ……?」
「ああ。ただ、すでにみんなと契約してるから、この上、さらにニーナと契約できるかどうかわからないけど……」
「なんか、どこかで聞いたようなセリフですね」
「我らの時も、似たようなことを言いながら、あっさりと契約したぞ」
そうなんだよな。
なんだかんだ言いながらも、ソラとルナの時も……タニアの時も、カナデの時も、契約をすることができた。
複数の最強種と契約をするということが無茶苦茶だということは、さすがに理解した。
ニーナの場合は大丈夫だろうか?
一瞬、不安になるけれど……
でも……大丈夫だろう。
不思議と、安心できた。
「じゃあ、いくよ」
親指を噛み、流れる血で魔法陣を描く。
「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」
「……ニーナ……」
契約が成立した。
ニーナの手に、同じ魔法陣が描かれる。
「これで、契約は成立だ」
「わぁ……これは?」
「契約の証……かな」
「……これが……」
ニーナは、そっと手の平を胸に押し当てて、うれしそうに笑った。
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