73話 決戦・3
カナデとタニアの一撃が、魔族の片腕を奪い取る!
「うおおおおおおおおおおォ!!!?」
魔族は失われた腕を抱えるようにして、仰け反り、おぞましい声をあげた。
その間に、カナデとタニアが地面に着地。
二人共、油断はしていない。
対象が健在だと知ると、すぐに追撃を加えるべく、再び跳ぼうとした。
「くっ、くくク……今のは、敵ながらすばらしい一撃ダ……惚れ惚れするヨ。しかし、私はここで終わるわけにはいかなイ……せっかく、現界したのダ。もっともっと、遊びたいからナ……ここは退くことにしようカ」
魔族の影が一斉に膨れ上がる。
魔物が次々と現れるが、今までの比じゃない。
百、二百……いや。
千に届く勢いで、大量の魔物が生み出された。
辺り一面が漆黒に染められる。
「なっ……こいつ、まだこんな力を!?」
「レインっ、あいつ、逃げるつもりだよ!」
「そのようなことはさせません!」
「我の力で倒れるがいい! フラッシュインパクト!」
ルナの魔法が炸裂するが……
大量の魔物に阻まれて、魔族に届かない。
「あーもうっ、こいつら多すぎるのだ! こんなの反則だぞっ」
「なら、まとめて吹き飛ばしてあげる!」
タニアが複数の火球を撃ち出した。
雨のように降り注ぎ、魔物の群れに着弾。
爆発が魔物を吹き飛ばすけれど……
「ダメだ、際限なく召喚しているぞ!」
「そんなのアリ!?」
魔物が消滅しても、直後に、新しい魔物が召喚される。
これではキリがない。
幸いというべきか、これ以上の召喚は不可能なようだ。
しかし、千に届く魔物は大きな壁となり、俺達と魔族の間を隔てている。
おそらく、魔族は完全に防御に徹することにしたのだろう。
全ての力、魔力を魔物の召喚に注ぎ、壁を作ることにした。
だからこそ、これほどまでに大量の魔物を召喚することに成功したのだろう。
大量の魔物を伴い、魔族は移動を開始する。
魔族も魔物も攻撃をしかけてこない。
近付こうとすれば、一番外側にいる魔物が反応するくらいだ。
……このまま見逃せば、これ以上の被害が出ることはない。
が、それでいいのか?
ここで見逃したら、あの魔族は、絶対に同じことを繰り返す。
またどこかで、誰かの涙が流れる。
そんなこと、認められるものか!
絶対に、ここで倒す。
そのための方法は……
「……」
一つ、思いついた。
しかし、実行可能か考えたところで、問題に突き当たる。
あの魔物の群れをどうにかして潜り抜けて、魔族に接近しなければならない。
どうする?
どうやって、あの魔物の群れをくぐり抜ける?
「レインっ」
「ニーナ!?」
聞き覚えのある声に振り返ると、ニーナがこちらに駆けてきた。
そのまま、ぽすっ、と胸に飛び込んできた。
「いた……レイン、見つけた……!」
「どうして、ここに……ステラは? もしかして、一人なのか?」
「そ、の……わたし、も……レインの力に、なりたくて……」
「……ニーナ……」
「わたし、今まで、されるがままで……自分で、立ち上がろうとしなくて……でも、レインと会って……少し、勇気が出たの……レインの力になりたいって、思ったの。だから……」
「……そっか」
こんな状況で、戦場のど真ん中までやってくるなんて無茶苦茶だ。
でも……
それ以上に、ニーナが自分の意思で、勇気を振り絞り、ここまで来てくれたことが純粋にうれしい。
「わたしも……力に、なるよ……?」
「しかし……いや、待てよ?」
特殊な能力を持つと言われている神族のニーナなら、あるいは……
「……ニーナ。あの魔物の群れが見えるな」
「う、うん」
「あの中心に、連中を召喚した魔族がいる。なんとかして、ヤツに接近したい。そんな方法はあるか?」
「え、と……で、できるよ」
「えっ、ホントに!?」
隣で話を聞いていたカナデが、驚いた顔をした。
「う、うん……わたし、まだ子供だけど……それでも、い、一応……神族、だから……」
「にゃー……神族って、すごいんだね。私、殴る蹴るしかできないよ」
「カナデはカナデで、十分に頼りになるよ。何度助けられているかわらない」
「にゃふぅ」
カナデの頭を撫でてから、ニーナに向き直る。
「その方法を教えてくれないか?」
――――――――――
ニーナを背中におぶり、片手で支える。
やや不格好ではあるが、ニーナと一緒でないと、魔物の群れを突破することはできない。
また、このままでも魔族を倒すことはできるから、問題はない。
「カナデ、タニア、ソラとルナは陽動を頼む。できるだけ派手にやってくれ」
「りょーかい!」
「ニーナは……心の準備はいいか?」
「う、うん……がんばる」
「よし、良い返事だ。じゃあ……行くぞ!」
俺の合図で、カナデとタニアが突貫した。
魔物の群れに飛び込み、メチャクチャに暴れ回る。
ソラとルナも後方から魔法で援護した。
ただの悪あがきに見えたのだろう。
魔族はチラリとこちらを見ただけで、それ以上の反応をすることはなく、街の外に向かって歩いていく。
ここまでしておいて、そのまま逃げられると思うな。
必ず、落とし前はつけさせる!
「ニーナ、行くぞ」
「うんっ」
ニーナの決意に満ちた声が、すぐ近くで聞こえた。
「……転移」
ニーナが小さく呟いた瞬間、ぐにゃりと目の前の景色が歪む。
体が浮遊感に包まれて、前後左右の感覚がわからなくなる。
それも一瞬の間。
泉の波紋が消えるように、景色が元に戻り……
「な、なんだっテ!?」
すぐ目の前に魔族の姿があった。
ニーナが持つ特殊能力の一つ、『瞬間転移』だ。
さすが神族というべきか。
デタラメな能力を有している。
これでまだ子供なのだから、将来が末恐ろしい。
これで条件は整った。
この距離ならば、とある命令を全域に飛ばすことができる。
後は俺の仕事だ。
「いつの間ニ……しかし、君程度の力で私を倒すことはできないヨ」
「俺の力だと、そうなるな。だが、こいつら魔物の力ならどうだ?」
「なニ?」
俺はビーストテイマーであって、モンスターテイマーではない。
ある程度、技術は学んだものの、今の俺の力でモンスターをテイムすることはできない。
でも、その力が底上げされたとしたら?
「ブースト!」
俺は、自分自身に能力を引き上げる魔法をかけた。
身体能力、五感、魔力……ありとあらゆる力が引き上げられていくのがわかる。
この状態ならば!
「ここまで私に接近できたことは、素直に褒めてあげるヨ。でも、それで終わりダ。君には、私を倒す術はなイ。逃げる術もなイ。ここで死ぬといイ。さあ、喰らエ」
「俺に従えっ!!!」
千を超える魔物がピタリと動きを止めた。
魔族の命令に従うことなく……
俺の命令に従っている。
「な、なんだト……? 何をしていル? この男を喰らエ! さあ、早ク!」
「無駄だ。今、こいつらは俺の支配下にある」
「支配下……だト? バカな……バカなバカなバカナ! そのようなこと、ありえなイ! こいつらは、私の特別製の魔物ダ! 他人に制御を奪われるなド……ありえないゾ! ありえるわけがなイ!」
「なら、もう一度命令してみたらどうだ?」
「この男を喰らエ! 骨も残さずに喰らい尽くセ!」
魔族が命令を繰り返すが、一匹たりとも反応しない。
「そんナ……どういう、ことダ……こんなことは、あ、ありえないゾ……」
「言っただろう? こいつらは、全て掌握した」
「なんだ、この力ハ……知らない、私は知らないゾ……ど、どうなっていル……? 私の支配権を上書きしタ? そのようなこと、ただの人間にできるわけガ……最強種を使役していたとしてもありえなイ。君は、いったいどんな力を使っテ……」
「これで、終わりだ」
魔族を指さして……
終わりを告げる命令を下す。
「行け」
俺の言葉に反応して、千を超える魔物が一斉に魔族に襲いかかった。
一匹一匹は大した力はない。
しかし、千も集まれば話は変わる。
「ぐ、ぐあっ、あああああああああアッ!!!?!?!?!?」
千の暴力にさらされて、魔族は抵抗する術を持たない。
獣達の牙が魔族を死に追いやる。
「絆のない主従関係は脆いな」
「く、くハ……くははははハッ! わ、私が負ける、なんテ……これはこれで、おもしろイ……予想外の結末だヨ……人間、名前を教えてくれないかナ……?」
「お断りだ」
「くははははハ……つれない、ねェ……」
その言葉を最後に、魔族の言葉は途切れた。
漆黒の体は魔物の群れに埋もれて、そのまま消滅する。
召喚した主が消滅したことで魔力の供給が断たれ、存在を維持することができず、魔物の群れも消滅していく。
そうして、全てが終わり……
夜が明けて、朝がやってきた。
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