72話 決戦・2
「街が……」
魔族の一撃で街が燃える。
倒壊する家屋。
炎に飲まれる人々。
悲鳴と悲鳴と悲鳴と……そして、血が流れていく。
脳裏に燃える故郷の光景がフラッシュバックした。
また、あのようなことが繰り返されている。
「っ」
知らず知らずのうちに、俺は奥歯をギリッと噛んでいた。
あの魔族、ふざけたことをしてくれる……!
絶対に倒す!
「頭に来たよっ!」
怒りを覚えたのは俺だけじゃないらしい。
カナデを始め、みんなが魔族を睨みつけていた。
「出し惜しみなしっ、全力全開でいくよ!!!」
カナデが吠えるように言って……
次の瞬間、ふっとカナデの姿が消えた。
ダッ、ダッ、ダッ! と足音だけが聞こえて……
「ふむ、いったいなにヲ……ぐああアッ!?」
目に捉えられないほどの速度で動いたカナデが、魔族の顔面に一撃を入れた。
魔族の体がぐらりと揺れた。
本気を出したカナデの一撃は、戦略級兵器に匹敵する。
それだけの一撃を受けて、さすがに無傷というわけにはいかないみたいだ。
魔族はよろめいて、そのまま膝をつく。
「まだまだ終わらないよーっ!」
カナデは地面に着地すると同時に、再び跳躍。
魔族の顔面を殴り……
繰り返し跳躍をして、今度は強烈な蹴撃を叩き込む。
それらの繰り返し。
カナデの拳と脚が何度も何度も魔族を打つ。
さながら、小さな嵐だ。
圧倒的な速度と、圧倒的な威力に飲み込まれていく。
「くっ……あまり調子に乗らないでほしいナ!」
いけるかもしれないと期待を抱いたが、これで終わるほど、甘い敵ではなかった。
魔族は漆黒の雷を周囲に落として、カナデを振り払う。
さらに大量の魔物を召喚。
召喚した魔物を壁のように使い、距離をとる。
本気になった猫霊族を相手に、接近戦は不利だと悟ったのだろう。
一度、仕切り直すつもりだ。
しかし、それを許さない者がいる。
「次はあたしの番ねっ!」
タニアが飛び出た。
翼をはばたかせて、宙に滞空する。
そして……直上から、ドラゴンブレスを放つ!
「ぐっ……こ、これハ……!?」
本気になったタニアは、先程の数倍はあろうかという、巨大なドラゴンブレスを放つ。
上から下に、叩き潰すような痛烈な一撃だ。
巨大な光の柱が顕現したように、魔族を圧倒的な熱量と質量で押しつぶそうとする。
「ぐっ、くぅ……この程度デ……この私ヲ……! いケッ、やつに食らいつケ!」
魔族は片手を盾のようにして、光の奔流に抗う。
同時に、召喚した魔物に命令を下して、タニアを襲わせようとした。
タニアの本気の一撃を受けて、耐えるだけじゃなくて、抵抗することができるなんて。
恐ろしいヤツだ。
が、一つ見落としている。
お前が相手をしているのは、タニアだけじゃない!
「タニアっ、そのまま攻撃を続けろ!」
タニアに食らいつこうとしていた魔物を全力で蹴り飛ばした。
魔物は何度か地面をバウンドして、そのまま塵となって消える。
「うにゃにゃにゃにゃっ! タニアには、指一本触れさせないよっ」
カナデも魔物の迎撃にあたる。
文字通り、魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……
獅子奮迅の活躍を見せた。
「これは、オマケだよっ!」
カナデが魔物の足を捕まえて、そのまま頭上でぐるぐると回した。
そして、魔族めがけて投げつける!
予想外の攻撃。
ダメージを与えることはないが、動揺を誘うことはできたらしい。
魔族の体勢が崩れて、全身にブレスをまともに浴びる。
このチャンスを逃す手はない!
「ソラっ、ルナっ!」
「了解です!」
「合点承知!」
さすが、二人だ。
俺が求めていることを、すぐに察してくれたらしい。
タニアのターンが終わり、ブレスが途切れる。
そこを見計らい、魔族が反撃に出ようとするが……
残念。
それよりも、ソラとルナの方が早い。
攻撃を繋げるように。
連携をするように。
タニアに続いて、ソラとルナの一撃が炸裂する。
「「グングニルツイスター!!」」
雲を切り裂き、遥か上空から光の槍が落ちてきた。
鋭い先端が魔族の体を貫く。
そこから、さらに魔法陣が縦に展開された。
魔法陣が幾重にも重なり、天に届くような勢いで伸びていく。
そして……
「「ジャッジメント!!」」
魔法陣を通り道にして、光が降り注ぐ。
離れているここからでも、肌がチリチリと灼けてしまいそうだ。
そして、着弾。
ゴォッ!!!
一瞬、世界が白で染まる。
遅れて、爆風が届いた。
嵐のように業風が吹き荒れる。
魔族がいた場所は、紅蓮の炎に包まれていた。
それでいて、周囲が炎に飲み込まれることはない。
きっと、ソラとルナが周囲への影響を考えてくれたのだろう。
「ぐっ……今のは、くくク……さすがに、堪えたねェ……」
炎が晴れて、魔族の姿が見えた。
未だ健在だ。
しかし、さすがにノーダメージというわけにはいかなかったらしい。
体のあちこちに裂傷が走り、血を流している。
俺達と同じ、赤い血だ。
同じ血の色をしているのに、どうして争わないといけない?
一瞬だけ、やるせない気持ちになってしまう。
しかし、今はそんなことを考えていられる場合じゃない。
余計な感情は切り捨てて、すぐに目の前の戦場に集中した。
「ファイアーボール!」
三人に続くように、俺も魔法を放つ。
全力の一撃だけど……
元は初級魔法だ。
魔族を相手に通用するわけがない。
「このようなものデ!」
事実、魔族は蚊を追い払うように、火球を薙ぎ払おうとした。
思い通りの動きをしてくれて助かるよ。
心の中で笑いながら、ナルカミを起動。
火球に向けて針を撃ち出した。
針が火球に突き刺さり、魔力の拮抗が崩れて、爆発。
魔族の顔を覆うように、炎が広がる。
元から、初級魔法でダメージを与えられるなんて思っていない。
今のは、ただの目くらましだ。
魔族が俺の姿を見失っている間に、背後に回る。
そして、ワイヤーを射出して、その両腕を抑え込んだ。
「ぐっ!? こ、これハ……!?」
「カナデっ、タニアっ! 今だ!!!」
「うんっ、りょーかい!」
「そのまま抑えつけていてよ!」
カナデとタニアが駆ける。
その二人に向けて、俺は空いている方の手を向けた。
ソラと契約したことで得た『連続詠唱』の力。
ファイアーボールなどの初級魔法だけじゃなくて、あの魔法も、同時に使えるはずだ。
「マルチ・ブースト!!!」
手の平から光が放たれて、二人の体を包み込む。
カナデとタニア、二人の身体能力を同時に引き上げることに成功した。
そして……
「うにゃああああああああああぁぁぁっ!!!」
「てりゃああああああああああぁぁぁっ!!!」
カナデとタニアのクロスコンビネーションが決まる!
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