表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/1151

70話 降臨

 魔物の上位互換といわれている存在が、魔族だ。


 普通の魔物とは比較にならないほどの力を持ち。

 人と変わらない知能を持ち。

 そして……人を虫のように殺して、愉悦に浸る。


 魔族の人に対する憎悪は深い。

 胸に抱えている憎しみを晴らすように、より残酷に、より非道に人を殺す。


 なぜ、そんなことをするのか?

 なぜ、そんな憎しみを抱いているのか?


 全ての元凶は、魔王にあると言われている。


 魔族の正体は、魔王に血を分け与えられたものだ。

 魔王の血を受け継ぎ、その力を分け与えられて……

 同時に、魔王が持つ、人間に対する憎しみも得た。

 故に、魔族は魔王と同様に、人を憎むと言われている。


 魔族は魔王の血を分け与えられている。

 その存在自体が災害そのものであり、昔、魔族が出現した街が、一夜で滅んだという話もある。

 ……事実、俺の故郷も一夜で滅んだ。


「なんで、こんなところに……」


 魔族は魔王の血がないと、新しく誕生することはない。

 今代の魔王は、まだおとなしくしている。

 新しい魔族は生まれていないはずだ。

 それ以前の魔族は、先代勇者によって討伐されたか、あるいは、マジックアイテムなどに封印されているはずなのに……


 もしかして……エドガーが身につけていた指輪が、そうなのか?

 指輪に封印されていた魔族の魂が、エドガーの体を媒介にして、現界した。

 そういうことなのか……?


「ふむ……久しぶりに起きてみると、いやはや、実におもしろそうな状況ではないカ。このような街中で顕現することになるなんテ」


 漆黒の悪魔……魔族は、流暢な言葉で喋る。

 圧はまったくといっていいほどに感じられない。

 しかし、逆にそれが怖い。

 嵐の前のような、不気味な静けさを感じる。


「君達が、私を復活させてくれたのかナ? 礼を言うヨ。ありがとウ」


 魔族の冷たい視線がこちらを向く。

 ゾクリ、と背中が震えた。


「感謝の気持ちを込めて、無残に、無慈悲に、無様に殺してあげるヨ」

「っ」

「と、言いたいところだけド……」


 魔族が明後日の方向を向く。


 なんだ?

 どこを見ている?

 館の壁……ということはない。


 その先にあるもの……

 街だ!


「あちらに、たくさんのおもちゃがあるみたいじゃないカ。うんうん、実に楽しそうダ。本当に、このような状況で復活できたことを、感謝しなければならないナ。ああ、神よ、ありがとウ。うけ、けけけけケ」

「まっ……」

「では、まタ。ごきげんよウ」


 魔族は一礼すると、その場で飛翔した。

 館の屋根を突き破る。

 建材がバラバラと落ちてくる中、なんとか視線で行方を追うと、街の方に向かうのが見えた。


「まずいっ」


 あんなヤツを野放しにするわけにはいかない!

 どうして、魔族が現れたのか?

 気になるけれど、今は、考えている場合じゃない。


「レインっ!」


 領主を捕らえに向かったステラが戻ってきた。

 屋根が破砕する音で異変に気づいたのだろう。


「今のはなんの音だ? 何かトラブルが……」

「魔族が現れた」

「なっ!?」


 今は時間が惜しい。

 要点を省いて、結論のみを口にした。


「信じられないかもしれないだろうが、事実だ。今は、確認をしている時間も惜しい。すぐに外に出て、街の人の避難を!」

「う、うむ……そう、だな。レインが、このようなウソを言うような男ではないことは理解している……わかった! すぐに出るっ」

「頼んだ」

「レイン達はどうするつもりなのだ?」

「……魔族を倒す」


 自分で口にしておきながら、なんて無茶なことだろうと思った。

 相手は魔族だ。

 魔王の血を分け与えられたもの。

 いわば、魔王の一部。


 その力は想像もできない。

 以前戦ったシャドウナイトが、赤子のように思えるだろう。


 ランク分けするならば、Aランクといったところか。

 最強種と互角だ。

 そんなものを倒す?

 簡単に口にできるようなことじゃない。


 それでも。

 だけど。

 放っておくことなんてできない。


 かつて、炎の中に消えた故郷のことを思い出した。

 あの惨劇が、今、目の前で繰り返されようとしている。

 そんなこと……絶対に、許せるわけがない!

 認められない!


 だから。

 なにがあろうと。

 なにをしても。

 食い止めてみせる!


「みんなは……」


 無理についてこなくてもいい。

 そう言おうとして……


「にゃー……レインは、ダメダメだね」


 カナデが不機嫌そうな顔をした。

 タニアも。

 ソラとルナも、どことなく不満そうな顔をしていた。


「レインがあたし達の心配をしてるってことくらい、わかってるわよ? でもね、だからといって仲間はずれにするのはどうかと思うわ」

「ソラ達は仲間ですよね? なら、野暮なことは言わないでください」

「危険なことだとしても、信頼して、支え合うことが仲間というものではないか?」

「レインが、私達のことを大事に思ってくれてるのはうれしいけど……でもでも、それだけじゃダメなんだからね? いつでもどんな時でも、私達は、レインの力になりたいの」

「それが、仲間っていうもんでしょ?」

「……そうだな」


 みんなに諭されて、思わず苦笑した。


 俺は、少しは成長しているかと思っていたんだけど……

 まだまだ、ダメだったらしい。

 肝心なところで、みんなを信じることができないなんて。


 今は、危険だから離れろ、と言うのではなくて……

 一緒に戦ってほしいと、仲間を信頼する場面なのだ。


「一緒に来てくれるか?」

「「「「もちろん!」」」」


 みんなは、揃って笑顔を浮かべた。

 俺は、本当に良い仲間に恵まれた。


「……レイン……」


 ニーナが不安そうにこちらを見上げる。


「わたし、も……」

「……ニーナは、待っていてくれないか?」


 これから向かうところは、文字通り、戦場になる。

 さすがに、そんなところにニーナを連れて行くわけにはいかない。

 心細いかもしれないが……

 まだ、ここに留まっている方が安全だ。


「でも、わたし……」

「ニーナは、普通の人に比べたら強いと思う。でも……ハッキリと言うが、相手が魔族となると、力不足だ」

「う……」

「それに、なによりも……ニーナは、戦うことが嫌いだろう?」

「……」

「無理して戦わなくてもいいんだ。俺達に任せてくれていい」

「……レイン……」

「心細いかもしれないけど、待っていてくれないか?」

「……ん」


 完全に納得したわけではなさそうだけど……

 それでも、ニーナは、コクリと小さく頷いた。


「ステラ、この子を見ていてくれないか?」

「わかった、任せてほしい」


 ステラにニーナを預けて……

 俺達は館の外に出た。




――――――――――




 魔族の後を追いかけるのは簡単だった。

 家屋が破壊された跡が、一直線に伸びている。

 まるで、獣道を無理矢理踏み歩いたようだ。


「いた!」


 破壊の跡を追いかけていくと、ほどなくして魔族を発見した。

 楽しそうに笑いながら、逃げ遅れた人に爪を向ける。


「ファイアーボール!」


 逃げ遅れた人を巻き込まないように、魔力を調整しつつ、火球を放つ。

 魔族の頭部に着弾。

 爆炎が広がるけれど……


「うン? これはなんだイ?」


 魔族は平然とした顔で小首を傾げた。

 まるで、虫にたかられたというような態度だ。


「おヤ? おやおやおヤ? さっきの人間達じゃないカ。どうしたんだい、こんなところデ? もしかして、私を楽しませてくれるのかナ?」

「あなたを楽しませることなんてしないよ! 私達は……」

「お前を倒すっ!」

「おもしろいネ。うん、実におもしろイ。こちらの方が楽しそうダ。虫ケラの始末は、後回しにして……先に君達を狩ることにしよウ」


 魔族がこちらに向き直り……

 この街の命運を賭けた戦いが、今、始まる。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] 最強種ってAランク並? いうほど強くないってことだろうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ