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68話 レインの戦い・2

「っ!?」


 さきほどとは比べ物にならない速度でニックが突進してきた。

 獣のように速い。

 注視していなければ、姿を見失っていたかもしれない。


「ふっ! はっ!」

「くっ」


 右、左、と連続でストレートを叩き込まれた。

 一撃目は回避。

 二撃目は間に合わず、腕を盾にガードした。


 骨まで響きそうな衝撃が走る。

 ビリビリとした刺激と痛み。


 ガードしたというのに、これだけのダメージ。

 元々、侮れない相手だとは思っていたけれど……

 薬を使ったことで、さらに脅威度が増した。

 もしもカナデと契約をしていなかったら、この一撃でダウンしていただろう。

 それほどまでに、この男は強い。

 Bランクの冒険者に匹敵するという話も、ウソじゃなさそうだ。


「おらおらっ、まだ始まったばかりだぞ!」


 ニックは笑いながら、拳を連打する。

 一撃一撃が速く、重い。

 今のところ、直撃は避けているものの……

 回避と防御に専念せざるをえず、反撃に移ることができない。

 そのことを理解しているのか、ニックは、ここぞとばかりに拳を繰り出した。

 フェイントを織り交ぜて、こちらの防御を抜けて、食らいつこうとする。


 まるで蛇だ。

 一度狙った獲物は、決して逃がすことはない。

 執念すら感じられる。


 だが……


「調子に……乗るなっ!」

「おっ?」


 防御に専念していたが、ここで反撃に転じた。


「やるじゃねえか」

「戦うことしか楽しみを知らない、人の誇りのないヤツに負けてたまるか!」


 ニックの攻撃は、水が流れるように鮮やかなもので、一見すると隙がない。

 ただ、一定のパターンが存在した。

 例えば、右ストレートを繰り出す際は、数発の軽い拳打を放ってから、本命の一撃に繋げる。

 例えば、肘打ちを繰り出す際は、わざと大振りの一撃を放ち、こちらを油断させようとする。


 そのような感じで、一定のパターン……ニックのリズムが存在することを確認した。

 アリオスと戦った時も、攻撃パターンを見極めた。

 ビーストテイマーは、対象を慎重に、深く観察する必要がある。

 その訓練をしているうちに、身についた技術なのかもしれない。


「はっ!」

「ち……」


 回し蹴り。

 腕でガードされるけど、構わずに、その場で回転して、もう一撃。

 腕ごと叩き折るつもりで、全力で薙ぐ。


 耐えきれずに、ニックの腕が弾けて、ガードが解ける。

 チャンスだ。

 がら空きになったニックの脇腹に、拳を叩き……


「っ!?」


 刹那、悪寒を感じた。

 拳を引く。

 さらに急ブレーキをかけて、一歩、後ろに下がる。


 次の瞬間……


 ゴッ! と風を切りながら、ニックの蹴撃が目の前を駆け抜けた。


「おいおい、今のを避けるか」

「誘い込んでいたのか……?」

「正解だ。わざと隙を作れば、大抵のヤツは引っかかるんだが……くくく、やっぱり、てめえはおもしろいな」

「褒められてもうれしくないな」

「そう言うなよ……とことん楽しもうぜっ!」


 ニックが突貫してきた。

 でたらめに拳が振るわれる。

 獣のような本能のままに、がむしゃらに殴っているというような感じだ。

 あまりにも無茶苦茶で……

 そのせいで、動きを読むことができない。


 かろうじてガードはしている。

 ただ、薬で強化されたニックの腕力は侮れない。

 ガードの上からでも、着実にダメージが蓄積されていた。


 長引けば長引くほど不利になる。

 できることならば、一気に倒したい。

 そのための方法は?


 拳闘士を……しかも、薬で強化された相手に、拳で付き合うのは自殺行為だ。

 ならば、俺が取るべき手段は……


 戦況を冷静に分析。

 ニックを倒す方法をいくつか思い浮かべて……

 それが実現可能なのかどうか、頭の中でシミュレートした。


 そして……一つ、答えが出た。


「はっ!」


 ニックを蹴りつける。

 分厚いゴムを蹴ったような感触。

 大してダメージは与えられていないだろう。

 でも、それでいい。


 蹴った反動で宙に飛び上がり、一度、距離を取る。

 その上で、魔法を放つ。


「ファイアーボール!」

「なっ!?」


 全力……は、館の中なのでまずい。

 半分くらいの力で魔法を撃ち、ニックを狙う。


 体の半分ほどの大きさがある火球だ。

 さすがに、まともに受け止めるつもりはないらしく、ニックが横に跳んで避けた。


 直後、火球が着弾。

 爆風が吹き荒れて、ニックの巨体を吹き飛ばす。


「ぐお!?」

「ファイアーボール・マルチショット!」


 一撃で終わらせるつもりはない。

 立て続けに、複数の火球を撃ち出した。


 今度は逃がすつもりはない。

 ニックを取り囲むように、火球をコントロールして、四方八方から食らいつかせる。


 ゴォッ!


 今度は直撃した。

 さすがのニックも、複数の火球を避ける術は持たなかったらしい。

 爆炎がニックを包み込む。


 ただ、これで倒せたとは思えない。

 薬で強化されているし、耐えている可能性が高いだろう。

 なので、即座に次の行動に移る。


 ナルカミを起動。

 針を射出して、館の窓を壊した。


「来いっ!!!」


 魔力を波のように、街全域に飛ばした。

 バサバサバサ、と羽音が聞こえてきた。

 俺の命令に従い、数えきれないほどの鳥が、壊れた窓から館内に飛び込んできた。


「くそっ……魔法とは、やってくれる……」


 煙が晴れると、ふらついたニックが姿を見せた。

 ダメージは負っているものの、まだ決定的な一打には届いていないらしい。


 そのことは読んでいた。

 だから……これで終わりだ。


「行けっ!」


 鳥達と仮契約を交わして、命令を飛ばした。

 命令に従い、無数の鳥達がニックに群がる。


「ぐっ……なんだ、こいつは!?」

「こんな時になんだけど……普通の蜂がスズメバチを倒す方法、知っているか?」

「なんだと……?」


 ニックは怪訝そうな顔をするが、構わずに話を続ける。


「相手の体を覆い尽くすほどに群がり、隙間もないほどに密閉する。そうすることで生まれる熱で意識を奪うんだよ」

「てめえっ!」

「俺の言いたいこと、わかってくれたみたいだな。というわけで……終わりだ」


 さらに命令を飛ばして、鳥達をニックに群がらせる。

 ニックは巨体を振り回して鳥達を引き離そうとする。

 しかし、次から次に鳥達が群がり、完全に引き離すことができない。

 そうこうしているうちに、ニックの姿が鳥の中に埋もれた。


 傍から見ると、数えきれないほどの鳥達が一箇所に群れているという異常な光景だ。

 自分でやっておいてなんだけど、ちょっと不気味だな。


「ぐ……あ……」


 ほどなくして、うめくような声と共に、鳥に群がられたままのニックが倒れた。


「散れっ!」


 鳥達を館の外に戻して、仮契約を解除した。

 後に残されたのは、極限の熱で意識を奪われて、倒れたニックの姿だ。


「悪いが、俺はビーストテイマーなんだ。バトルマニアの拳闘士を相手に、殴り合いに付き合うようなことはしない」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レインさん、テイムした動物に対しては酷だよね。 間違いなく相当数の鳥が殺されてると思うんだけど。
[気になる点] 蜂球は普通の蜂というか、ニホンミツバチ特有の技術です。また、密閉することで熱を上げるのではなく、胸の筋肉を振るわせることで体温自体を上げています。スズメバチの限界温度よりミツバチの限界…
[気になる点] まさかの熱殺蜂球。これってやってる蜂も自分の熱で死んじゃうことあるからレインくんはこういったことはさせないと思ってました。 [一言] まだまだ自分の理解が足りなかった!
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