66話 ソラとルナの戦い
ソラとルナは、三人の傭兵を相手にしていた。
剣、槍、両手斧。
それぞれが近接戦闘スタイルで、ソラとルナに迫る。
「「フラッシュインパクト!!」」
ソラとルナの上級魔法が同時に炸裂した。
エントランスホールを埋め尽くすほどに光があふれた。
衝撃が生き物のように荒れ狂い、傭兵達を飲み込もうとするが……
「っ……外しました!」
「我が姉よ、目をつむって放ったのか?」
「そんなことしません!」
魔法が放たれた時には、すでに傭兵達は視界の外に移動していた。
ソラとルナの挙動を見極めて、魔法が放たれる直前に射程範囲外に逃れていた。
驚くべき回避能力だ。
タタタッ、と右手から迫る足音。
振り返る間すら惜しい。
「来ますよ!」
「我に任せるがいいっ、グラビティウォール!」
ルナが防御魔法を展開した直後……
二人の右手から傭兵達が現れて、一斉に武器を振る。
ガキィッ!!!
刃が魔法で作られた障壁と激突して、火花が散る。
傭兵達は魔法で作られた障壁を相手に、力比べをするような愚行はしなかった。
すぐに武器を戻して、体ごと退いた。
しかし、距離は詰めたまま、ソラとルナから離れない。
今度は角度を変えて……さらに、三人が時間差で攻撃をしかけてくる。
「ふんっ、無駄だ! その程度の攻撃で、我の障壁は破れないぞ、ふはははっ!」
「悪役みたいなセリフを口にしないでくださいねっ……イグニートランス!」
きっちりと妹にツッコミを入れながら、ソラが攻撃魔法を放つ。
紅蓮の炎で編み込まれた、人の大きさほどの槍が三本、撃ち出された。
炎の尾を引きながら、紅蓮の槍が傭兵達に迫る。
タイミング、威力、申し分のない一撃だ。
しかし……
「なっ!?」
傭兵達は近くに飾られていた壺などを手に取り、炎の槍にぶつけた。
そんなもので止められるような魔法ではない。
炎の槍は壺などを打ち砕き、なおも飛翔するが……
壺などを砕いた衝撃で、わずかに軌道が逸れた。
傭兵達の脇を通り抜けて、地面に着弾した。
「なかなかやりますね」
咄嗟の判断で、物をぶつけて魔法の軌道を逸らす。
なかなかできることではない。
ソラとルナは、警戒を一段階引き上げた。
相手はただの人間ではない。
自分達最強種と渡り合うことができる『敵』と認識したのだ。
それは、ある意味で油断だったのかもしれない。
故に、二人は苦戦を強いられていた。
「くっ、ちょこまかと……ええいっ、止まらないか! 許さぬぞっ」
「無茶なことを言ってないで、ちゃんと攻撃してください!」
傭兵達は二手に分かれて、ソラとルナに攻撃をしかけていた。
剣と槍を持った二人組が、交互に武器をぶつけてきた。
残りの一人は、二人組の隙を埋めるように、絶妙なタイミングで両手斧を振るう。
ソラとルナが反撃に移ろうとすると、それをあらかじめ察知していたかのように退いて、距離を取る。
敵ながら見事な連携だ。
ソラは舌をまく。
「敵に感心してる場合ではないぞ、我が姉よ。このままでは、いたずらに時間をとられるだけだ」
「わかっています! でも、どうしろと?」
「……いっそのこと、超広域魔法で、まとめて吹き飛ばさないか?」
「レインやみんなも巻き込んでしまいますよ!」
「むぅ、ダメか」
「むしろ、そんな案が通ると思った理由を知りたいです……って、きますよ!」
「グラビティウォール!」
ルナの魔法障壁が、傭兵達の突撃を止めた。
ルナが、たらりと冷や汗を一つ流す。
今のは、なかなかに際どいタイミングだった。
魔法の発動が、あと数秒遅れていたら、傭兵達の攻撃を防ぐことはできなかったかもしれない。
ここに来て、傭兵達の連携の精度が上がってきていた。
まるで、三人の思考回路が一つになっているようだ。
互いの死角を補い、隙を見せることなく、絶妙なタイミングで攻撃をしかけてくる。
このまま戦いが長引くと、もしかしたら……
傭兵達の攻撃が届いてしまうかもしれない。
ソラとルナは、その可能性を考えて、わずかに難しい顔をした。
ここで負けるようなことがあれば、どうなる?
敵に捕縛されたりして、人質になれば、仲間に迷惑をかけてしまうかもしれない。
何よりも、レインを危険に晒してしまうかもしれない。
それだけはダメだ。
絶対にダメだ。
ソラとルナは互いを見て……何かを確認するように、コクリと頷いた。
「「ファイアーボール・マルチショット!!」」
いつしか、レインが使ってみせたように、ソラとルナは魔法を連射した。
連続詠唱だ。
精霊族しか使うことができない、特殊なスキル。
しかし、それはレインの比ではない。
レインは、初級魔法を複数同時に使用した。
三つの火球を生み出して、兵士達を打ちのめしていた。
対するソラとルナは……十以上の火球を生み出していた。
姉妹合わせて、二十以上。
文字通り、火球が雨のように傭兵達に降り注ぐ。
傭兵達の顔が引き攣る。
デタラメな魔法の力の前に、さすがに後退するしかない。
途中、何発か被弾した。
それでも、初級魔法なので、昏倒するまでの威力はない。
傭兵達はソラとルナと距離を取ることで、連射される火球を回避した。
これで大丈夫だろう。
どのような手品を使ったか知らないが、あんなデタラメな芸当を何度もできるとは思えない。
それに、コントロールは甘いようだ。
何度も使用すれば、仲間を巻き込む可能性がある。
そのことを考えると、立て続けに使用するとは考えられない。
驚かされたものの……
まだ利はこちらにある。
傭兵達は、そう考えるが……
それは油断以外のなにものでもなかった。
「これで!」
「終わりだぞ!」
ソラとルナが、自分達の勝利を確信したような顔をして、手の平を傭兵達に向けた。
そんな二人の様子に、傭兵達は怪訝に思う。
距離は開いてしまったけれど、それだけだ。
まだ決着がついたといえるほどの要素はない。
それなのに、なぜ、あんな顔を……?
考えて……ほどなくして、答えに辿り着いて、愕然とした。
足元がヒヤリとした。
見ると、床を氷が覆っている。
足首まで氷が絡みついていて、動くことができない。
いつの間に?
唖然とする傭兵達に、ルナが不敵に告げる。
「ふふんっ、我の得意な遅延魔法だ。その場に逃げることは予測できていたからな。あえて、その場に追い込み、あらかじめしかけておいた魔法を発動させて、身動きできないようにした……ふむ、説明はこんなところか? では、我が姉ソラよ。やってしまうがいい!」
「いちいち偉そうですね……姉に対する敬意というものが欠けています」
「いいから、ほれ。さっさとやるのだ」
「わかっています」
傭兵達は揃って顔を引きつらせた。
降参する……と叫ぶよりも早く、ソラの魔法が炸裂する。
「フラッシュインパクト!」
閃光が解き放たれて、傭兵達を包み込んだ。
炸裂音が響く。
ややあって、光が収まり……床に倒れている傭兵達の姿が見えた。
「勝利、ですね」
「ふはははっ、我らにかかればこの程度、楽勝なのだ! 見たかっ」
ソラとルナは誇らしげに笑い、それからハイタッチを交わした。
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