65話 カナデの戦い
カナデは二人の傭兵を相手に、油断なく拳を構えた。
相手は二人。
一人は、盾を持ち、他に全身を鎧兜で固めている戦士だ。
もう一人は杖を持つ魔法使い。
魔法使いをかばうように戦士が前に立つ。
壁ができたことを確認した後、魔法使いが魔法を唱え始めた。
ここは先手を打つべし!
カナデは直感で作戦を選び、突撃する。
「うにゃんっ!」
「おおおおおぉっ!!!」
カナデと戦士が激突した。
猫霊族の突進は、攻城兵器ほどの威力がある。
相手はBランクの冒険者並の実力があるとはいえ、普通の人間だ。
さすがに手加減はしているが、それでも、巨大なハンマーで殴られるのとさほど変わらない。
その一撃を……戦士は耐えた。
「ぐっ……さすがに最強種と呼ばれているだけはある、やるな!」
「そっちこそ!」
カナデは驚いた。
手加減していたとはいえ、自分の一撃を受け止められるなんて。
アッガスと戦った時のことを思い返した。
もしかしたら、同じくらい強いかもしれない。
だとしたら面倒だ。
手加減したままだと、少し時間がかかるかもしれない。
カナデは考える。
手加減はやめて、半分くらいの力でいくか?
全力を出す必要はなさそうだけど、半分くらいなら問題ないだろう……いや。
それもどうだろうか?
アッガスと同じくらいの力かもしれないと判断したけれど、ただの直感だ。
もう少し確認した方がいいかもしれない。
加減を間違えたら、下手したら殺してしまう。
「にゃー……こういうところ、フラストレーションだし」
とりあえず、もう一度、ぶつかることにしよう。
カナデは決断して、距離を取る。
すると、相手も後ろに退いた。
わざわざこちらに攻撃のチャンスを与えるなんて、何を考えているのだろうか?
カナデは訝しげな顔をして……
すぐに、ぎょっとした。
「フレイムウェイブっ!」
戦士が横に跳んで……
その後ろにいた魔法使いが、中級魔法を放つ。
猫霊族は物理特化の種族なので、殴り合いで勝てる者はほとんどいない。
動体視力に優れていて、身体能力も高く、攻撃を当てることができない。
当てることができたとしても、頑丈な体にダメージが通ることは少ない。
逆に、魔法には弱い。
初級の攻撃魔法でもダメージを受けてしまう。
状態異常魔法に対する耐性も低く、簡単に毒や麻痺にかかってしまう。
「にゃにゃにゃっ!?」
カナデは慌てて跳んで、炎の津波を回避した。
行き場を失った炎の津波が家財を薙ぎ倒して、燃やし、炭に変えた。
直撃していたら、同じ目に遭うとは限らないが……
ある程度のダメージを負っていたことは間違いない。
決して油断していい相手ではない。
カナデは気を引き締めて、最初に魔法使いから倒すことにした。
疾走。
左右にフェイントをいれて、戦士を回避。
横を通り抜けようとして……
「甘いっ!」
「にゃ!?」
カナデのフェイントを見抜いて、戦士が前に立ちはだかる。
今度は逆に、戦士が盾を使い突進してきた。
カナデは止まらざるをえず、その場で停止。
戦士の攻撃を受け止めた。
「しつこい!」
カナデは戦士を振り切り、魔法使いの元に駆け抜けようとするが……
戦士は蛇のようにしつこく、カナデに食い下がる。
やはり、戦士から倒すべきだろうか?
いや、でも魔法使いの方が脅威度は上だ。
迷っていると、不意に、戦士が退いた。
その意味を、カナデはすぐに理解することになる。
「ドラグーンハウリング!」
戦士が時間を稼いでいる間に、魔法使いは上級魔法を唱え終えていた。
魔力で作り上げられたドラゴンが咆哮して、カナデに向けて駆ける。
「にゃ……う!?」
避けられない!
覚悟したカナデは、両腕を体の前で交差させて、魔法を受け止めた。
そして……直撃。
衝撃が走る。
一瞬、視界が上下左右に揺れて、前後不覚に陥った。
吹き飛ばされて、ぐるぐると転がり……
壁に激突して、ようやく止まる。
「にゃ、にゃあ……すっごく痛い……」
上級魔法が直撃したにもかかわらず、カナデは『痛い』の一言で済ませた。
魔法に弱いとはいえ、猫霊族の体力は尋常ではない。
ある程度は耐えることができる。
が、連打されるとまずいことも事実だ。
「ちっ、しぶといヤツだ……おい! 倒れるまで食らわせてやれっ」
「了解だ! ドラグーンハウリング!」
魔法使いが再び魔法を詠唱する。
一度見た魔法だ。
くるっと宙で身を捻り、今度は、カナデは魔法を回避した。
そのままの勢いで駆けるが、
「にゃあ、邪魔!」
再び戦士に道を阻まれて、足を止めてしまう。
その間に魔法使いは、繰り返し上級魔法を放つ。
「ドラグーンハウリング!」
「にゃっ!?」
じりっ、と竜の幻影がカナデの体をかすめた。
竜巻に絡め取られたように、体が回転して、吹き飛ぶ。
ガシャッ、と家具に背中から叩きつけられた。
「いたたたっ……」
ふらふらしながらも、カナデが立ち上がる。
そして、考える。
戦士と魔法使いの連携は完璧だ。
戦士がカナデの足止めをして、その間に魔法使いが攻撃を叩き込む。
よく考えられた作戦だった。
過去に、猫霊族と戦ったことがあるのかもしれない。
息がぴったりと合っていて、なかなか打ち崩すことができない。
Bランクに匹敵するという傭兵の力は侮れないものがあった。
「なら、私だって!」
やりすぎてしまう、とか、そういうことはひとまず考えないことにした。
今は、この場を切り抜ける方が先決だ。
カナデは力を半分、解放する。
そして、今までの倍以上の速度で駆けた。
「くっ、速いが……それくらいならば!」
戦士は巨大な盾を両手で構えて、カナデの足を止めようとした。
いかに猫霊族とはいえ、防御に徹すれば時間を稼ぐことができる。
小さな頃から今まで、毎日、体をいじめるようにして鍛え上げてきたのだ。
自分にはそれだけの力がある。
戦士には、例え最強種だろうと、カナデを止められるという自信があった。
その結果は……
「にゃんっ!!!」
「な、なんだとっ!?!?!?」
カナデは戦士を避けるように、横に駆けた。
駆けて、駆けて、駆けて……
そのまま、壁を走る。
重力が横に向いたかのように、カナデは壁を足場に、体を横にして駆け抜けた。
そのままさらに移動して、今度は天井を駆ける。
重力が無視された光景に戦士が唖然とした。
最強種のカナデも、重力を操作できるというスキルは持っていない。
ただ単に、猫霊族のとんでもない身体能力をフル活用して、壁や天井を自力で駆け抜けているのだ。
無茶苦茶だった。
でたらめだった。
しかし、それは現実に起きていることだった。
「……い、いかん! 逃げろっ」
戦士が我に返り、魔法使いに向けて叫ぶが……
すでに遅い。
天井を駆け抜けることで戦士を回避したカナデは、そのまま魔法使いの目の前に跳んで……着地。
ぐるんぐるんと腕を回して……
怯える魔法使いに向けて、一撃。
「うにゃんっ!!!」
「ぐあっ!!!?」
カナデのパンチを食らい、魔法使いがおもいきり吹き飛んだ。
壁に背中からぶつかり、そのままずるずると崩れ落ちて昏倒した。
「よっし!」
その場でガッツポーズをするカナデ。
一方で、戦士は常識はずれの光景を目にして、動けないでいた。
最強種は、とんでもない力を持っているとは聞いていた。
油断はしていないつもりだった。
しかし……こんなとんでもない力を見せつけられるなんて。
たった一瞬で、形勢が逆転されるなんて。
悪い夢でも見ているみたいだ。
戦士は、思わずそんなことを考えてしまう。
「これで終わりっ!」
戦士が唖然としている間に、カナデは一瞬で数メートルを駆け抜けて……そのままの勢いで、敵を殴り飛ばした。
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