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64話 突入

「レインっ、無事か!」


 遅れてステラが駆けつけてきた。

 ステラも、即死魔法を遠くで見ていたのだろう。

 焦りの表情を浮かべていて……

 俺が無事であることを確認すると、安堵したように小さな吐息をこぼした。


「俺はなんともないよ」

「そうか……よかった。本当によかった」


 見ると、他の騎士達は倒れた領主の私兵達を拘束、捕縛している。

 ただ、相手は百人以上で、こちらは五人。

 一斉捕縛というわけにはいかず、手間取っていた。


「そちらは時間がかかりそうか?」

「そうだな……さすがに、この人数が相手では、無力化したからといっても、すんなりとはいかない。1~2時間はかかるだろう」

「それだけの時間を相手に与えるわけにはいかないな」

「うむ、同意見だ。なので、この場は部下に任せて、私は館に突入して領主達を確保しようと思う。元凶を捕らえない限り、全てが無駄になってしまうからな」

「俺達も手伝うよ」

「レインならば、そう言ってくれると信じていた。頼りにしているぞ」

「ああ、任せてくれ」

「にゃー……二人、仲良くなってない?」

「意外な伏兵なのかもしれないわね……」

「ふむ。我らもうかうかしてられないな」

「そ、ソラは別に……」


 こんな時だけど、みんなはいつも通りだった。

 心に余裕があるみたいで、それが、逆に頼もしく感じられる。


「行くぞっ」

「「「「おーーーっ!!!」」」」




――――――――――




 館のエントランスホールに突入した。

 一個人の建物とは思えないくらいに広い。

 ちょっとした人数でスポーツができるほどだ。


 部屋の奥の左右に、二階に延びる階段。

 一部が吹き抜けになっていて、三階までが見えた。


「っ」


 館の奥に続く扉の前に、複数の男達が見えた。

 人数は六人。

 いずれも武具を構えていて、すでに臨戦態勢に移行していた。


 そして、彼らの奥に……いた。

 以前、街の広場で見かけた領主の息子……エドガーだ。

 その隣には、肥満体型の男が見える。

 おそらく、ヤツがこの街の領主なのだろう。


「待てっ!」


 ステラが声を張り上げた。


「これ以上の抵抗は無駄だ。それくらい、わからないわけではないだろう? おとなしく、私達、騎士団の監査を受け入れろ!」

「小娘が……犬のように吠える!」

「この儂を誰だと思っている!? この街の領主だぞ。領主に刃を向けるなど、貴様らが反逆罪に問われるべきだ。己の罪を知るがいい!」

「どうやら、言葉は通じないみたいだな。ならば、強制執行するまでだ!」

「ふざけるな! そのようなこと、認められるかっ、おい!」

「はいはい、わかってますよ。報酬分はきちんと働きますので、ご安心を」


 傭兵のリーダー格の男が肩をすくめてみせた。

 領主の見苦しい態度に呆れているらしい。

 それでも、彼らが退くことはないだろう。

 報酬をもらっている以上、仕事はきっちりとこなす。

 それが傭兵というものだ。


「と、いうわけで」


 リーダー格の男が一歩、前に出た。


「旦那のところに行かせるわけにはいかないな。ありふれたセリフになるが……ここを通りたければ、俺達をどうにかするこった」


 瞬間、風が吹き抜けた。


 いや……風じゃない。

 男達から放たれる闘気だ。

 圧力すら感じる闘気に、自然と身構えてしまう。


 ただ、それ以上のことはない。

 アリオスと戦ったこともあるし、俺も、それなりの場数を踏んでいる。

 今更、この程度で臆することはない。


 他のみんなも同様だ。

 最強種の名前は伊達じゃない。


「くっ」


 ただ、ステラは別だった。

 男達の放つ圧に押されて、わずかに下がる。


 陣頭指揮をとり、戦い続けてきた疲労もあるのだろう。

 今のステラが連中とぶつかることは、よくないかもしれない。


「ステラ、ここは俺達に任せてくれないか?」

「な……何を言うんだ! そのようなこと、できるわけないだろうっ」

「ステラに何かあるのが、一番困るんだ。騎士団を束ねる人がいなくなってしまうから」

「それは……」

「疲労も溜まっているだろう? 無茶されると、逆に困る」

「む……」

「人を信頼して、任せることもステラのやることの一つじゃないのか?」

「……ずるいな、レインは。そんなことを言われたら、引き下がるしかないじゃないか」


 ステラが剣を収めた。


「ただ、約束してほしい」

「うん?」

「レイン達も、無茶はしないでほしい。私達全員が無事でないと意味がない。わかるな?」

「ああ、わかっているよ」

「ならば、いい……すまない、任せる」


 ステラが後ろに下がる。

 ただ、剣の柄に手を伸ばしたままだ。

 俺達がピンチに陥ったら、迷うことなく加勢するつもりなのだろう。

 そんなことにならないように注意しないといけないな。


「カナデ。ニーナをタニアへ」

「うん」

「えっ、あたしがこの子を?」


 戸惑いながらも、タニアはニーナを抱えた。


「タニアは、ニーナの保護と、念のためにステラの護衛を頼む」

「むぅ……なんで、あたしなのかしら? せっかく、暴れられると思っていたのに」


 物理特化のカナデは、魔法を使われると弱い。

 逆に、魔力特化のソラとルナは、物理でこられると弱い。

 なので、その中間のタニアが、一番バランスに優れている。


「頼むよ。タニアが一番なんだ」

「ふ、ふーん……あたしが一番ね。それって、頼りになる、って解釈していいのよね?」

「もちろん。タニアが頼りになるからこそ、二人を任せたいんだ」

「頼りにされるのも悪くないわね。ふふーん、いいわよ。任されてあげる」

「ありがとう。ニーナ、今度は、このお姉さんが守ってくれるからな。安心してほしい」

「……ん」


 ニーナの頭をなでると、くすぐったそうに目を細めた。

 ただ、嫌がられているわけではないらしく、笑顔を浮かべている。


「じゃ、後ろは任されてあげる。みんな、おもいきり暴れてきなさい」


 そんなことを口にして、タニアが後ろに下がる。

 タニアとニーナが見ている。

 ますます、負けられない理由ができた。


「相談は終わりか?」


 傭兵のリーダー格の男が笑いながら問いかけてきた。


「わざわざ待っててくれるなんて、律儀なんだな」

「なーに、野暮な真似はしねえさ。それに、時間稼ぎも俺らの仕事のうちなんでね。なんなら、そのままずっとだべってても構わないぜ?」

「そういうわけにはいかないな。そちらこそ、仕事を放り出しても構わないぞ?」

「そいつはできない相談だ。わかるだろう?」


 リーダー格の男が不敵に笑う。

 俺も笑い返した。


「なら、決まりだな」

「そうだな。そろそろ始めるとすっか」


 リーダー格の男の殺気が膨れ上がる。

 並の人間なら、それだけで怯え、失神してしまいそうな迫力だ。

 厄介な戦いになりそうだ。

 激戦の予感を覚えながら……戦いの火蓋を切る一歩を踏み出した。

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