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62話 死の魔法具

 ソラとルナに魔法を使ってもらい空を飛んで、ステラの隣に着地した。


 ステラは……無事だ。

 剣と鎧はボロボロ。

 顔に疲労の跡も見えるが、致命的な傷は負っていない。


「レイン、連れ去られた人々は!?」

「大丈夫。ソラとルナが安全なところに逃がした。連中に利用されることはない」

「よかった……」

「カナデとタニアは……!?」


 さらに周囲に視線を走らせて、状況を確認する。


 ステラの仲間の騎士達が応戦している。

 その中に、カナデとタニアを見つけた。

 二人は抜群のコンビネーションを見せて、領主の私兵を薙ぎ倒していく。


 乱戦の中、カナデとわずかに視線が合う。

 こちらを見つけたカナデは、にっこりと笑い、こちらに跳んできた。


「レインっ、無事だったんだね! 大丈夫だと思ってたけど、でもでも、それでも心配しちゃったよー! って、その背中の子は?」


 カナデの視線が、俺の背中にいるニーナに向いた。


「はふぅ……」


 さきほどの魔法を使った大ジャンプが堪えたらしく、ニーナはぐるぐると目を回していた。


「詳しい説明は後だ! カナデ、この子の保護を頼むっ」

「あいあいさーっ!」


 ニーナをカナデに預ける。


「おーっ、ふかふか」

「……ん」


 ふかふか同士、意気投合したのだろうか?

 カナデに抱きかかえられて、ニーナは、どことなく安心しているように見えた。

 とにかくも、これでニーナは安心だ。


 次は……


「ちょっとレインっ、戻ってくるの遅いわよ!」


 タニアもこちらに戻ってきた。


「悪い、色々とあったんだ」

「その色々、後で聞かせてもらうからね。で、どうすればいい? このまま、適当に殴り続ける?」

「いや。後は、ソラとルナに任せよう。二人がやりやすいように、敵を一箇所にまとめてくれ!」

「了解っ!」


 タニアが跳んで、再び敵陣の中で。

 殴り、蹴り、尻尾を振り回して……

 領主の私兵達を一箇所にまとめていく。

 実に鮮やかな手際だ。


「ソラっ、ルナっ」

「かしこまりました!」

「我らの力、とくと味わうがいい!」


 ソラとルナが手の平をかざして、魔法陣が空中に展開される。


「「フラッシュインパクト!!!」」


 上級魔法が放たれた。


 閃光。

 わずかに遅れて、爆発と衝撃。

 それらが敵陣のど真ん中で炸裂して、私兵達を吹き飛ばす。


 ある者は閃光で目を灼かれて。

 ある者は衝撃で体を打たれて。

 数十人いたはずの私兵達のほとんどが、ソラとルナの一撃で倒れた。

 それなりに加減はしたのだろう。

 苦悶の声をあげているところを見ると、死んでいる者はいないようだ。


「どうですか、レイン。ソラ達の力は?」

「ふふん、褒め称えてもいいのだぞ? というか、褒めるがいい! さあ、なでなでタイムだ!」

「すごいぞ、二人とも。よくやった」

「ふぁ」

「あふぅ」


 言われるまま、二人の頭を撫でる。


「そ、ソラは別に……あふぅ……でも、これは……いいです」

「ホントにしてくれるとは……うむ、レインも主としての自覚に……にゃ……た、たまらぬ」

「にゃー……私達も、してもらう権利あるよね」

「贔屓は許さないわよ」

「とりあえず、後でな」


 まだ全てが終わったわけじゃない。


「ステラ」

「ああ!」


 ステラが剣を掲げて、力強い声で仲間に指示を飛ばす。


「邪魔者は排除した! これより、領主の館に突入して、監査を行うぞっ」

「「「おーーーっ!!!」」」




――――――――――




「くそっ、くそっ、くそっ! 役立たず共が!!!」


 館の中から一部始終を眺めていたエドガーは、その場で地団駄を踏んで悔しがる。


 あれほどたくさん用意しておいた私兵が、たったの数人に打ち崩されてしまった。

 ありえない。

 認められない。

 そんなことを思うものの、目の前の現実は変わらない。


 わずかに残った私兵達を捕縛しながら、レインとステラ達が館に近づいてきた。

 エドガーは、ステラではなくて、レインを燃えるような目で睨む。


「あの男……あの男が元凶なのか!」


 エドガーは、謎の男のアドバイスを思い出した。

 レイン・シュラウドこそが、最も警戒すべき相手だ……と。


 領主の息子である自分が、たかが個人を脅威に思うなんて認められない。

 認められないが……認めなくてはいけない。

 あの男は……レイン・シュラウドは一番の敵だ。


 エドガーは、ようやくそのことを認めた。


「あいつがいなくなれば、ヤツが使役する最強種も従う理由がなくなる、と言っていたな?」


 男の言葉を思い出したエドガーは、禍々しい色をした指輪を取り出した。


 そっと指輪を撫でる。

 不気味に輝いた。

 しかし、エドガーにはとても綺麗な色に見えた。

 己に勝利を与えてくれる、素晴らしい道具に見えた。


「俺は、このようなところで終わる男ではない……もっと上に、もっと高く、たどり着くことができる。愚民などとは違うのだ!」


 エドガーは指輪を身に着けた。

 そして、館に迫るレインに向ける。


「俺は勝つ……勝ち続けるんだ!」


 エドガーは意識を集中して、念じた。

 指輪に囚われていた魔力が解放される。


 それと同時に、もう一つ、とあるものも解き放たれた。

 邪悪な意思、漆黒の魂を持つ存在。

 それがなんであるのか、エドガーは気がついていない……




――――――――――




 ローブの男……アリオスは、領主の館の近くにある丘から、一連の出来事を眺めていた。


 エドガーにマジックアイテムを与えて、レインを殺すように指示をした。

 プライドの高そうな男なので、素直に従うか、なかなか難しいところだ。

 そこは賭けになるかもしれない。


 アリオスは、そう判断していた。


「……くくく。どうやら、賭けに勝ったようだな」


 館の方から、覚えのある魔力の波動を感じた。

 エドガーがマジックアイテムを使用したのだろう。


 自分の思い通りに事が運んでいる。

 アリオスは愉悦に満ちた表情を浮かべた。


「いいぞいいぞ……そのままだ、そのまま、レインを殺してしまえっ!!!」


 館から黒い霧のようなものがあふれて……

 それらが一箇所に固まり、人の形を作る。


 それは、死神と呼ばれるにふさわしい姿をしていた。

 骸骨にぼろぼろのローブ。

 手には身の丈ほどもある巨大な鎌。


 対象に死という状態異常を与える超級魔法、『デスサイズ』。

 死神が顕現された。


 死神は人を遥かに超えた速度でレインに迫り……

 大きく鎌を振り上げた!

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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[一言]どこまでもクズな勇者なんだろう!!もう既に勇者ではないけどな。魔王側に付きそう。
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