6話 盗賊
平原の薬草はあらかた採取したので、奥の街道に移動した。
街道沿いにも薬草は生えていて、色々な種類が採取できる。
たかが薬草採取と侮ることなかれ。
数多く、たくさんの種類を採取すれば、より多くの報酬を得ることができる。
まずは地道に、コツコツと進めよう。
「よしっ、お前たち、行ってこい!」
「だから、おかしいにゃあああああっ!!!?」
今度は10頭ほどの野犬と仮契約をして、使役すると、カナデが我慢できないという様子で叫んだ。
「何度も言っただろう? これくらい、ビーストテイマーならできて当然なんだ。当たり前のことなんだよ」
「レインの『当たり前』は絶対におかしいと思うよ……にゃ?」
ふと、カナデが明後日の方向を見た。
耳をピクピクさせて……警戒するように、尻尾をぴーんと立てる。
「レイン、あっちの方で何か騒ぎが起きているよ。怒鳴り声とか悲鳴とか、そういうのが聞こえる」
「他の冒険者による揉め事か……? それとも……」
少し迷い、それから決断する。
「行ってみよう」
「うんっ」
ひとまず、犬たちは戻ってきたら薬草だけを置いて、そこで仮契約を解除するように設定した。
「だから、そんな複雑な命令、普通はできないんだからね……?」
もう驚かないよ、という感じで、カナデがつぶやいていた。
――――――――――
カナデが指示する場所に向かうと、馬車と、それを取り囲む複数の男達が見えた。
馬車には、御者らしき男が一人。
その手前に、商人らしき男が一人の計二人だ。
取り囲んでいる男たちは、全部で十二人。
いずれも武装していて、一目でろくでもない種類の人間だとわかる。
『盗賊』だ。
「ぎゃはははっ、護衛に逃げられるなんて、ついてないなあ」
「あの連中、俺達が『漆黒の牙』とわかると、慌てて逃げ出したな」
「どうだ? ん? 冒険者に裏切られた気分は? よかったら、俺達に教えてくれないか? 酒のつまみにするからよぉ、ぎゃはははっ!」
男達は下品に笑う。
盗賊に取り囲まれている商人は、ただただ震えることしかできない。
その様子を、俺達は木陰に隠れて見ていた。
「『漆黒の牙』……? なんだ、盗賊団の名前か?」
「聞いたことあるよ。確か、構成員が百人を超える、大規模な盗賊団だよ。残虐非道で、とんでもない悪事を繰り返しているとか。賞金をかけられてるらしいね」
「意外と情報通なんだな」
「旅をするには情報は大事だからね」
「情報は持っていても、食べ物は持っていないわけか」
「にゃう」
がくり、とカナデが凹む。
「レイン、助けを呼びに行こう」
「……いや、ダメだ。そんなヒマはなさそうだ」
盗賊達は、今すぐにでも商人の男を殺してしまいそうな雰囲気だ。
一刻の猶予もないと考えるべきだ。
「俺達でなんとかしよう」
「いいの? 相手は、賞金をかけられている、大規模な盗賊団だよ?」
「そんなこと、どうでもいい。あの人を見捨てることなんて、俺にはできない」
「にゃあ♪ さすが、私のご主人様。そう言ってくれると信じていたよ」
「カナデは、あの商人の保護を。周囲の連中は、俺がなんとかする」
「りょーかい!」
「合図でいくぞ? 3……2……1……今っ!!!」
ガサッ、と木陰から飛び出した。
「なんだっ!?」
盗賊達の反応は早いが、それでもカナデには遠く及ばない。
カナデは地を這うように駆けて、一瞬で盗賊達に肉薄した。
「うにゃんっ!!!」
ガンッ、ゴンッ、とカナデが拳を振るい、商人を取り囲んでいた二人が倒れる。
「レイン!」
「任せろ!」
俺も戦闘に加わり、盗賊達と立ち回りを繰り広げた。
――――――――――
正直なところを告白すると……
私は不安だった。
レインはビーストテイマーの常識をくつがえすような才能を持っていて、なおかつ、猫霊族と契約したことで身体能力が強化されている。
しかし、だ。
突然与えられた力をちゃんと使いこなすことができるかというと、疑問が残る。
力に振り回されてしまわないだろうか?
自滅してしまわないだろうか?
私は心配していた。
主の命令とはいえ、自分が盗賊を殲滅した方が良かったんじゃあ?
そんなことを考えていた。
しかし……それは、全て杞憂に終わる。
「ふっ!」
レインは盗賊達が振るう剣や斧を、余裕を持って避けていた。
皮膚にかすることすらない。
的確に攻撃を避けて……
そして、痛烈な反撃を見舞う。
骨の折れる音。
悲鳴。
盗賊達が次々と倒れていく。
「すごいにゃ……」
唖然とした。
レインは、猫霊族の力を完璧に使いこなしている。
力に振り回されることなく、的確に、適切に、適当にコントロールしている。
ありえない光景だ。
並の人間なら、強大な力に振り回されてしまうはずなのに……
「はぁっ!」
レインの拳が盗賊を捉えて、また一人、地面に倒れた。
信じられないことだけど、完全に力を使いこなしている。
才能、なのかな?
だとしたら、レインの才能はどれだけのものなんだろう?
天才なんて言葉で収まるかどうか。
まるで底が見えない。
それに……
(なんか、かっこいいかも)
レインが戦う姿から目が離せない。
「なんでだろう……ドキドキするよ……」
私は頬を染めながら、胸の辺りを押さえた。
――――――――――
「ふぅ」
最後の一人を倒したところで、吐息をこぼした。
「こんなところか」
「うぐ……な、なんて強さだ……」
「いてぇ……こいつ、人間なのか……?」
「ち、ちくしょう……」
盗賊達は全員、地面に倒れていた。
一応、生きてはいるが、立ち上がることができる者はいない。
苦痛にうめいて、悶えることしかできない。
「カナデ、そっちは大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「よし。ありがとうな。カナデが人質を確保してくれたから、思う存分に戦うことができた」
「……レインって、すごいんだね? 私と契約してるとはいえ、あんなにたくさんの盗賊を一人で倒しちゃうなんて」
「格闘技には、そこそこ自信があるんだよ。時に、力ずくで動物を従わせる時があるからな。そういう時のために訓練をしたことがあるんだ」
「にゃるほど」
カナデは、なぜか顔を赤くしながら、
「レイン、かっこよかったよ♪」
こちらが恥ずかしくなるようなことを言った。
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