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59話 館の奥で……

 ステラ率いる騎士団は、夜明けと同時に領主の館を訪ねた。


 戦闘になることを考えれば、夜間の方が都合はいい。

 しかし、領主達が素直に監査に応じないであろうことがわかっていたとしても、問答無用で踏み込むわけにはいかない。

 正式な手続きを踏まないといけないのだ。

 故に、夜間の奇襲は成立しない。


「なんだ、お前達は?」


 領主の館の門兵がステラ達に気がついて、槍で門を封鎖するような仕草を取る。


「私は、ホライズン騎士団支部に所属するステラ・エンプレイスだ。こちらは部下と、協力者だ」

「騎士団だと……?」

「これより、領主の館の監査を行う! おとなしく道を開けろっ」

「監査? バカな、そのようなことが……」

「抵抗するのならば、容赦はしない。さあ、道を空けろっ!」

「ほ、本気なのか……? お前達、領主様に楯突くような真似を……」

「私達の主は領主ではなく、王だ。その王に背くような行為が行われていると、私達は判断した。素直に監査を受け入れるか、私達、騎士団を敵に回すか……決めろっ!」


 毅然とした態度で、ステラは門兵に退くように迫る。

 その圧に押されるように、門兵は一歩、後ろに下がる。


「そ、そのようなこと……」

「さあ、どうする!?」


 ダメ押しをするように、ステラは迷う門兵に剣を突きつけた。

 門兵がさらに一歩、後ろに下がる。


 これで決まっただろうか?

 そんな期待を抱くステラだけど……


「っ」


 新しく、複数の足音が聞こえてきた。

 見ると、館から武装した男達があふれている。

 数えるのが面倒になるくらい、たくさんいた。


「やはり、こうなるか……」

「まっ、予想できたことでしょ?」

「私達がいるから、大丈夫!」

「すまない、頼りにしてもいいだろうか?」

「「任せて!」」


 カナデとタニアが構えた。

 二人に続いて、ステラも剣を構えて……他の騎士達も剣を抜いた。




――――――――――




 館の裏手に回り、内部に侵入した。

 それと同時に、表の方が騒がしくなった。

 どうやら、ステラ達が突入を開始したらしい。

 カナデとタニアがいるから、滅多なことにならないと思うが……

 それでも、心配なものは心配だ。

 早くこちらの仕事を終えて、合流しよう。


「ソラ、ルナ。人質のいる場所を探ることはできないか?」

「おまかせください」

「ふふん、そのようなこと、我にかかれば朝飯前だ!」

「ルナ、大きい声を出さないでください。今は、表の方に人が集中しているとはいえ、見張りがいないとは限らないのですから」

「むう、我は、コソコソするのは性に合わないぞ」

「潜入前に、任せろと言っていたのは誰ですか……」


 どことなく緊張感がない。

 でも、おかげでというべきか、落ち着いてものを考えることができる。


「まあいい。我の力を見せてやろう。さあ、刮目するがいい!」

「ですから、大きな声はやめなさい」

「ふぎゃっ」


 パシン、とソラがルナの頭をはたいた。


「我が姉は、バイオレンスだな……恐ろしい」

「いいから、早くしなさい」

「わかっているぞ。んー……そうだな、この魔法が一番か。マテリアルサーチ!」


 ルナが魔法を唱えて、光の波のようなものが周囲に広がる。


「それは……魔力の流れを探知する魔法、だったか?」

「む? 知っているのか?」

「前に、タニアが使っていたことがあるんだ」

「なるほど。まあ、わりと扱いやすい魔法だからな。我ら精霊族だけではなくて、竜族でも問題なく扱えることだろう」

「その魔法で、どうやって人質の場所を?」

「大なり小なり、魔力は誰でも持っているものだ。そして、おそらくだが、連れ去られた人は一箇所に集められているだろう。バラバラに閉じ込めておくなんて、非効率的だからな。ならば、魔力反応を調べることで……」

「……連れ去られた人々の居場所がわかる、ということか」

「むう……肝心な台詞を横取りされたぞ」


 子供のように拗ねるルナ。

 活き活きと説明していたから、口を出すべきじゃなかったかもしれない。


「すまない。今度は気をつけるよ」

「絶対だぞ? 我の出番を取るような真似をしたらいけないのだぞ?」

「それで……結果はどうだったのですか?」

「うむ……」


 ルナが難しい顔をした。

 もしかして、反応がなかったのだろうか……?

 ということは、連れ去られた人々は館にいなくて……他のところに移送されたか、あるいはもう……

 一瞬、最悪の展開を予想してしまう。


「地下に多数の魔力反応があった。おそらく、連れ去られたという人だろうな」

「なんだ、見つけることができたのか」

「もったいぶった言い方をしないでください。変なことを考えてしまったではないですか」


 どうやら、ソラも俺と同じようなことを考えたらしい。

 ほっとした様子で吐息をこぼして……それから、ルナに抗議をした。

 ただ、ルナはどこか納得いかないような顔をしていた。


「むーん」

「どうしたんだ? 何か気になることでも?」

「いや……実は、もう一つ、魔力反応があったのだ」

「領主か……息子のものじゃないんですか?」

「いや、それにしては魔力が大きすぎるというか……これ、人間の魔力量ではないぞ。とんでもない量で、我らに匹敵する」

「それって……」


 もしかして……最強種がここに?


「場所は?」

「距離と方角から考えると、ふむ……館の三階、東の方といったところだな」

「レイン、どうしますか?」

「そう、だな」


 考える。


 最強種、もしくはそれに匹敵する魔力の持ち主がこの館にいる。

 俺達に敵対する存在なのか?

 それとも、連れ去られた人々と同じように、領主の被害者なのか?

 情報がまったくないので、判断のしようがない。


 別の方向から考えてみよう。

 敵味方かわからないが、強大な魔力を持つ者がいることに間違いはない。

 このまま放置することは……悪手だ。

 味方なら構わない。

 が、敵だった場合は、とんでもない被害が生まれるかもしれない。

 確かめておく必要があるだろう。


「……よし。ソラとルナは、連れ去られた人達の救出を頼めるか?」

「はい、それは問題ありません。ソラ達は転移魔法も使えるので、連れ去られた人達を安全な場所に逃がすことができます」

「ただ、レインはどうするのだ?」

「俺は、もう一つの魔力反応を調べに行くよ。放置しておくわけにはいかない」

「そんな……危険です! 相手はどんな存在なのか、まるでわからないのですよ? ソラ達に匹敵するという魔力量……敵対する相手だとしたら、レインが危ないです」

「我も反対だ。主を危険な場所に追いやり、自分達は安全な場所でのんびりとする使い魔などいないぞ。ここは、我らに任せるがいい」

「ありがとうな。俺のことを心配してくれて」

「あっ」

「ふぁ」


 二人の頭を撫でた。

 同時に頬を染めて、おとなしくなる。


「でも、俺は連れ去られた人を安全に逃がすことはできない。二人の魔法が頼りなんだ」

「しかし……」

「無茶はしない、って約束する。どういうことになっているのか、確認しに行くだけだ」

「……本当か? 本当に無茶はしないと約束できるか?」

「約束するよ」

「「……」」


 ソラとルナは、じっとこちらを見つめて……

 ややあって、諦めたような吐息をこぼした。


「仕方ないですね……こうなったレインは、てこでも動かないことをソラ達は知っています」

「やれやれだ。我らの主は、頑固者で困るぞ。役割分担の問題もあるが、我らに危険が及ばぬようにしての行動となると、文句をつけられないではないか」

「でも、それがレインらしいといいますか……」

「そんなレインだからこそ、我らは信頼することができる」

「もう一度、言います。絶対に無茶はしないでください」

「約束を破ったら、100回なでなでだぞ! 気をつけるのだぞ! いいな!?」

「わかっているよ、二人を裏切るようなことはしない」


 二人を安心させるように、柔らかく笑いかけて……

 俺は、一人別方向に進み、階段を登った。




――――――――――




 三階に到着した。

 強大な魔力反応があったという、東の方へ移動する。


「この辺りは……倉庫になっているのか」


 一つ一つ、部屋を確認して回る。

 乱雑に物が置かれている部屋が多い。

 ここに、ステラ達が求める、領主の不正の証拠があるのかもしれない。

 後で教えるために、きっちりと場所を覚えておいた。


「最後は……」


 部屋を見て回り……

 館の三階、一番奥にある部屋に辿り着いた。


 元は、他と変わらない普通の部屋だったのだろう。

 ただ、改装した跡が見られた。

 扉に鉄格子をハメて、中の様子が見えるようにされている。

 入口には頑丈な鍵がかけられていて、人の出入りが禁止されている。

 部屋というよりは、牢という感じだ。


 足音を立てないように近づいて……

 そっと、鉄格子から中を覗く。


「……っ……」


 薄汚れた布団の上に、ぐったりとした様子で女の子が寝ていた。


 狐のように、ピンと尖った耳。

 ふさふさの尻尾は三つ。


 間違いない。

 獣の神と呼ばれている存在……

 最強種の一角である、神族だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 好き勝手やっている領主とバカ息子様! 本日は地獄への片道切符をプレゼントしに来ましたあああ!!
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